19話

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言いながら既に鍋に水が張られ、冷蔵庫からベーコンとほうれん草が出ている。 ミサトさんが断るわけがないことを知っているから。 「ありがとう~。なんでもいいわよん。それより早くぅ~。」 浴室から返事が返ってくる。いつの間にかシャワーを浴びているらしい。 相変わらず早技だ。 そして測ったように、料理完成と同時にえびちゅを片手に風呂から出てくるミサトさん。 「きゃー美味しそうだわぁ」 「また、加持さんとは喧嘩ですか?」 「そーなのよ。またあいつ出て行っちゃってさ。」 ミサトさんと加持さんは、結局籍を入れたりすることなく、「事実婚」状態を続けている。 しょっちゅう喧嘩もするし、喧嘩すると交代で僕とアスカのアパートに 転がり込んできたりしていたのを思い出す。 加持さんが出て行くと、掃除や片づけをする人間がいなくなる。 つまり、僕の出番だ。もはや人生の半分を超えるほどの時間の付き合い、 ここまでは言われなくてもわかる。 でも今、加持さんはどこに泊まっているんだろう? 「ん?加持なら大丈夫よ。多分副指令のところで飲んだくれてるわよ。」 ミサトさんは、ちゃんとわかっていて、先回りして答えてくる。 どうでもいいけど、口の中のもの飲み込んでから喋った方がいいですよ…。 そこには心配とか不安とか焦りとかは微塵もない。 なんだかんだ言って、お互い信頼しきっているのがわかる。 それが、ちょっと羨ましい。 ミサトさんは、よほどお腹が空いていたのか、黙々とパスタを平らげ、 えびちゅを3本空にしたところでようやく満足そうな吐息をついた。 「はぁ~。久しぶりにまともな食事をしたわ。ありがとう、シンジ君。」 ミサトさんは、別に僕のことやアスカの事を聞こうとはしなかった。 それがこの人の優しさなんだよなぁ…。 僕が話すまでは黙って待っていてくれる。そんな人だ。 だから僕やアスカはこの人を姉と慕い、母とも慕った。 夜も更けて、僕が帰ろうとすると、 玄関先まで見送りに来てくれたミサトさんは 「でも、シンジ君が元気そうでよかったわ」 と微笑んでくれた。 「ごめんね、こんな理由で呼び出しちゃって。休暇もあと少しだけど、 うまくいくといいわね。」 僕にはわかった。 ミサトさんは全て分かっていて、だから僕を心配してこのような形で 僕を元気づけてくれたことを。 不器用なりに、一生懸命僕のことを考えてくれていることを。 「ありがとう。ミサトさん。」 僕はその後の言葉を出そうかどうしようか悩んで、結局止めた。 ミサトさんも何か言いたげだった。 その瞬間の表情、どこかで見たことがある。 普段のミサトさんはあまり見せない、悲しげな辛そうな表情。 でも、僕は何も気づかないふりをし、ミサトさんも次の瞬間は笑顔に戻っていた。 その日、僕は自分のアパートに帰ってみた。 ここを発ってから、そんなに日も経っていないのに、 自分の部屋が随分と殺風景な景色に見えた。

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