14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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町外れのとある廃屋。
元は大衆食堂であったらしく、調理器具を置いておくためのスペースが見受けられた。
フロア内の道に面した壁には大きなガラスが嵌めて【はめて】あった跡があり、廃屋内の風通しを無駄によくしていた。
ラスは今、そこに居た。
此処【ここ】は別れ際、彼女の言っていた例の場所であり現在の彼女の住処【すみか】であった。

(しかし153人、ですか。ネスさんじゃないですが、確かに少ないですね・・・。)

ラスは彼女の戦闘能力の高さを誰よりも知っている。
恐らく今頃はもう全滅させて此処へ向かっているだろう。

(・・・常人だけで彼女を殺すつもりなら、最低でもあの3倍は必要ですよ。)

正直、本当にあの3倍居たとしても彼女は意気揚々と立ち向かい、平然と生還してくる気がしてならない。
彼女は常識外れの化物なのだ。
常識の範囲内に収まっている人間がいくら束になろうとも到底敵うまい。ラスはそう思っていた。
ラスがそうこう考えている内に、勢いよくドアを押し開ける音がフロアに響く。
ネスが少しばかり衣服が汚れたり綻んではいる物の、ラスの予想通り無傷で帰還してきたのだ。

「まったく、最近の若いもんは根性が無くていかんね!」
「貴女も’若いもん’でしょう?」
「ラス。煽て【おだて】ても何もでないぜ?」
「いいえ、事実を言ったまでですよ・・・。」
「・・・悪かったって、次からちゃんと投げる前に言うって。なっ?」

悪戯を咎め【とがめ】られた後の子供のような笑顔で謝るネスに、ラスは呆れ顔で溜め息をつきながら右手を少し上げて答える。
暫くは笑っていたネスだが、突然笑うのを止め真剣な面持ちで腰の道具袋に手を入れる。
そして、ネスの手に握られて出てきた物は先の騒動の原因となった例の輝石だった。

「さて、邪魔が入らないうちにやるか・・・。」
「・・・邪魔?」

153人の追手は全滅したはずだろう。ネスの一言に疑問を感じたラスは聞き返した。

「あまりに張り合い無さ過ぎてつまらなかったから、2人逃がしてみた。応援を呼んでくると見て間違いないぜ。」
「・・・。」
「それに、あの騒ぎで流石にもう治安部隊も動いてるだろうからな。騒々しくなる前にやっとくのさ。」
「治安部隊。・・・確かに今はそちらの方が厄介ですね。」

彼女が今手にしている輝石は元々密輸される物であった。それだけでも、十分に違反行為である。
しかし、今となってはそれは立証のしようがない。輝石はもう既に加工され彼女の物となっているからだ。
問題は、その輝石に施された加工の方である。
輝石には”リンク”と呼ばれる特殊な作業を施す【ほどこす】ことで、別の物体を呼び出すことが可能になるという性質がある。
そして、リンカー協会の定める物体以外を無断でリンクすることは違反行為とされている。
今、彼女が持っている輝石にリンクされている物体は協会の定める物体ではないのだ。
万が一、治安部隊の者に知られでもしたらネスは協会を、ひいては大陸全土を敵に回すことになる。
無論、リンクを施した者であるラスも無事では済まない。
今の二人にとって、治安部隊はダイア・スロンの追手以上に出会いたくない相手だった。

「本当に、やるのですか?」
「・・・ああ。」

ラスの問い掛けに、ネスはいつになく真剣に答える。
そしてネスは一呼吸おいて、ゆっくりと輝石を天に掲げる。

(・・・やっと・・・やっと・・・私は・・・貴方を――!)

輝石が眩い光を放ち、その効果の発動を知らせたまさにその時だった。

~~~~

タクトは今、ファミレスで一人時間を潰していた。
学校に行く気にはなれず、かといって何かをやる気にもなれない。
タクトは道路沿いの席に座り、コーヒー1杯で何とか粘っていた。
タクトは大きなガラス張りの壁越しに外の風景が見た。
朝のラッシュ時間はとうに過ぎ去り、昼休みまではまだ時間がある。
そのせいか、人通りもまばらで車も朝に比べれば行き交う数は減っていた。

「・・・そろそろ、限界だな。」

そもそも、学生服の男がこの時間帯にファミレスに居ること自体が普通ではない。
それだけでも嫌な視線を感じているのに、コーヒー1杯で粘りすぎたせいか更に嫌な視線が強くなっていた。
タクトは仕方なくゆっくりと身支度を済ませる。
底の方にほんの少しだけ残っていたコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がろうとしたその時だった。

「――はっ?」

これは何かの冗談か?タクトの脳裏に響いた第一声はそれだった。
真横の窓ガラスが派手に割れる音と、巻き起こる悲鳴。
そして、目の前いっぱいに広がる黒光りする巨大な姿。
本来この場にあってはならないそれは、圧倒的威圧感と絶対的恐怖を湛えてタクトを襲う。
そしてタクトはこの瞬間、一瞬だけ身体が軽くなったような気がしていた。

~~~~

「くっ!?」
「うわぁっ!?」

突然の来訪者にネスは向かい側に居たラスを思い切り突き飛ばす。
その直後、黒光りする大きな物体が二人の居た場所を突っ切って先にある柱に激突していた。

「ライトカーゴ!?」

巻き上がる粉塵の中、ラスは突っ込んできた物体の名を叫んだ。
しかし、今のネスにとってはそれが何であるかはどうでも良かった。

(輝石はっ!?私の輝石は何処だ!?私の大切な、あの人は・・・!?)

ネスは自分が発動させた輝石の行方を追っていた。
そして、つい数秒前まで立っていた場所に人影を見つけていた。
その人影の名を叫ぼうと思った矢先、突っ込んできた物体からイヤな気配を感じてその人影に飛び掛る。
ラスもその気配を感じ、咄嗟に身を伏せていた。

「うわあっ!?」

爆発音と供に熱風が瞬く間に辺りに広がり、近くに身を伏せていたネス達を襲う。
そして、炎が二人のいる廃屋を侵食し始めた。
ネスはすぐに起き上がり、身を挺して庇った者に呼びかけた。

「・・・いってぇー。」
「大丈夫・・・って、違う!?」
「えっ?」

ネスは目の前に現れた青年の姿が、自分の思い描いていた人物と違い思わず絶叫してしまった。
青年はその声に反応して、こちらの姿を見て何故か固まっている。
危機的状況の中、二人の間でしばし時がその歩みを止めていた。

「・・・アンタ、誰?」

~つづく~
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