14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ
#04
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14sure74
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「とりあえず、お前らが何者かは分かった。 何故私のことを知っているのかは、腑に落ちん所もあるが分かった。」
「は、はい・・・。」
はたかれたおでこを撫でながらキリオスが頷くのを感じた。
キリオスのおでこの具合がふと気になったが、私は話題を進めることにした。
「次は、何故お前らが人攫いに捕まってたのかだ。 アイツらの狙いがカナンの力ならば、攫って連れ回すより力づくで従わせた方が早いはずだ。」
「それはきっと、彼らが人から頼まれたから、だと思います。」
「心当たりがあるのか?」
「僕達は実は、2年ほど前にある商家のもとから抜け出し、逃げている最中なんです。」
「・・・アイツらはお前らを連れ戻すよう、家主に依頼されたということか。」
大きく一度首を縦に振って頷くキリオスの様子が感じられた。
キリオスは首を振り終えるとすぐに口を開く。
「カナンが声や音を失ったのは、道中、追手に捕まりそうになる度に祈ったからです。
彼女を守るためにと思って逃げ出したのに、結局僕は彼女に守られていたのです・・・。」
「・・・そうか。」
キリオスの声から、自らの力のなさに対する怒りと悔しさを感じ、私はつい同情してしまった。
(って、何故私は同情しているんだ? 他の生き物を守ることなど、私には関係ないことだ。)
私は気持ちを切り替えようと溜め息をついてみる。
しかし、何故か胸の奥につっかえる物を感じた。
再び溜め息を付いてみても、それは一向に消える気配がなく、私は無性に腹立たしくなった。
(・・・関係ないことの、はずだっ!)
身体の中にある全てを無理矢理吐き出すようなつもりで、私は大きな咳払いをした。
そのあまりの大きな咳払いに驚いたのか、カナンの身体が大きく撥ねるのを感じ、何故か慌てた私はカナンの頭を軽く撫でる。
カナンの息遣いが落ち着くのを感じた私は、安堵の溜め息をつきつつ、キリオスに話し掛けた。
「先を急ぐぞ。」
「・・・えっ?」
「カナン の言う”カミサマ”とやらに守られていたお前らを2年も追い回してたんだ、アレで終わりと言うはずはない。」
「じゃっ! じゃあっ! イスラさん・・・っ!」
姿など見えずとも、瞳を爛々と 輝かせて私を見ているキリオスの様子がよく分かる。
私は首を縦に振りそうになる衝動に駆られるのを感じつつも、口を開いた。
「勘違いするな。 私は巻き込まれたくないだけだ。」
「そ、そんなっ・・・!」
今にも泣きだしそうな情けない声を上げてキリオスは絶句する。
心を鷲掴みにされそのまま引き抜かれるような罪悪感を感じ、今からでも訂正をしたい衝動が全身を駆け巡るが、それを無理矢理押し殺して私は言葉を続けた。
「こ、この先の町で腕の立つ護衛を雇ってやるっ! それでいいだろっ!」
再びカナンに宥められる前に、私はカナンを少し強引に引き剥がす。
そして、再び自らが原因不明の衝動に駆られることのないよう、すぐにカナンの両肩と両腿の後ろに手を回して抱き上げた。
一瞬の内に様々な出来事に晒されたせいか、カナンは呆然としていた。
だがすぐに私の腕の中に居ることを悟ったのか、小さく溜め息を付くと、ゆっくりと身体の力を抜いた。
カナンの体重を両腕に感じるのを確かめた私は、同じく呆然としているキリオスに声を掛けた。
「さっさと来い。 置いてくぞ。」
私はわざと早歩きで歩き出した。
「へっ!? あ、ちょっ! ま、待ってくださぁいっ!」
慌てて私の隣まで駆け寄って来るキリオスの足音を聞き、私は心の中で溜め息をつきつつ歩く歩幅を合わせた。
~~~~
あれから暫く、私はキリオスと黙々と歩き続けていた。
サングラスの隙間から入り込む光の強さと、冷えた空気が暖められた時の湿っぽい匂いが、夜明けを知らせてくれた頃だった。
「あ、あの・・・。」
申し訳なさそうに、キリオスが私に話しかけてきた。
「なんだ?」
「この先の町って・・・何処のことなのでしょう?」
「何処のこと、だと?」
「は、はい。 僕が知っている限りだと、この道の先にある町までは、後20日ぐらいは歩き続けないといけないぐらいの距離があるのですが・・・。」
「なっ!?」
私は思わず驚愕の声を漏らしてしまい、慌てて口を閉ざした。
私はこの渓谷を抜けた先にあるという町を目指していたつもりだ。
だがしかし、私が聞いた話では、渓谷を5日ぐらい歩けばつくはずだった。
「はっ、20日・・・だと?」
(どういうことだっ!? 情報が間違っていたのかっ!?)
私は真相を突き止めるべく、キリオスの話を聞くことにした。
「その、僕達が歩き始めてすぐに、道が二手に分かれていましたよね?」
「あ、ああ。」
「右の道を行けば、渓谷を掠めるように抜けて4日ぐらいで町に入れたのですが・・・。」
「なっ!? なん、だと・・・っ!?」
私は衝撃の事実に絶句してしまった。
キリオスは私の絶句になにか不穏な空気を感じ取ったのか、恐る恐る問い掛けてきた。
「あ、あの・・・イスラ・・・さん?」
「っ!?」
突然話しかけられ、思わず悲鳴を出してしまいそうになった私は、慌てて咳払いをして取り繕った。
「こっ、この先の町で、いいんだっ。」
「えっ?」
「考えてもみろ。 お前らを狙う家主は恐らく、捕獲に失敗したことを知っているはずだ。 となれば、失敗した場所近くの町から、次の刺客を送り込んでくるかもしれないだろっ。」
「な、なるほど・・・。」
「そういうことだ、先を急ぐぞっ。」
私はわざと歩く速度を速めた。
キリオスが慌てて歩く速度を合わせてくるのを感じながら、私は小さく溜め息をついた。
(私としたことが、焦りすぎたか・・・ッ! これだから、『人間』と関わるのは・・・。)
途中で背中に背負うことにしたカナンを軽く背負いなおし、私は再び小さな溜め息をつく。
(カナン 、呆れるほど気持ち良く寝ているな・・・。)
カナンの小さく規則正しい息遣いに、私はふと安堵する。
しかしその理由が良く分からず、もどかしさを感じていた時だった。
「あ、あの。」
キリオスがなにかに気付いたような声音で話しかけてきた。
「なんだ?」
「もしかしてカナン、眠っています?」
「なにを言っている、数時間前からずっと寝ているぞ?」
「や、やっぱり、眠っていたんですね・・・!」
キリオスの声が驚愕と歓喜に震えている感じがして、私は問い掛けた。
「何故驚いている?」
「5年ほど前からずっと、カナンが眠っている所を僕は見たことがなかったもので・・・。」
キリオスは大きく溜め息をつくと、言葉を続けた。
「やっぱり、カナンを救うことが出来るのは、貴女しか居ませんっ! どうか、お願いしますっ! ・・・僕の代わりに彼女をっ!」
当然断るつもりだったが、私はその言葉を口にすることが出来なかった。
頭を下げるキリオスの握り拳が小さく震えているのが感じられ、何故か他人事のように思えなかったからだ。
(何故迷う? 何故途惑う? 答えなど・・・決まっているだろうっ!?)
私が押し黙っていると、キリオスはゆっくりと身体の力を抜きながら顔を上げ、口を開いた。
「やっぱりダメ・・・ですか?」
「・・・あ、ああ。」
「そうですか・・・。」
キリオスは本当に残念そうに溜め息をついて、言葉を続ける。
「・・・聞き流してくれて構いません。」
そう言ってキリオスが歩き始めたのに合わせ、私も歩き出す。
「6年ほど前、僕達は孤児になりました。 旅先で立ち寄った町が盗賊の襲撃に遭って、それに巻き込まれたのです。」
よくある話だと、私は思った。
「なんとか生き残った僕達を待っていたのは、夜露を凌ぐ場所を見つけることさえ難しい、酷い生活でした。」
この星は、『子供』が2人だけで生きて行けるほど生易しい場所ではない、当然の事態と私はそう思った。
「カナンには楽をさせてやりたいと、僕は朝から晩まで仕事を求めて走り回りました。 ですが、やはり生活は苦しくて・・・。」
キリオスは一度呼吸を整えてから続きを話す。
「少ない手持ちと稼ぎとで持ちこたえるのも、1年が限界でした。 カナンに不思議な力が宿ったのは、丁度その頃です。」
差し詰め、奇蹟が起きたと言った所か、と私は思った。
「ある日、夜遅くに僕がカナンのもとへ帰ると、カナンが興奮した様子で駆け寄ってきたのです。 その手には、今まで見たこともないぐらい沢山の食べ物が詰まった袋を握っていました。
どうしたのかと尋ねると、『時計を無くしたって言ってるおばちゃんが居たからね、見つかるようにって”カミサマ”にお願いしたら、”カミサマ”が落ちてる所を教えてくれたんだっ。
拾って届けたら、お礼に沢山の食べ物をくれたのっ。』と、とても嬉しそうに話してくれました。
ですが僕には信じられませんでした。 そんなことが、本当にできるのか。 カナンに問い詰めました。」
当然の行動だ、私も問い詰めるだろう。
「すると、カナンは近いうちに棄てるつもりだったボロボロな僕の靴を取り出すと、少しの間目を閉じました。
その直後、瞬時にして手に持っていた靴が新品のソレと変わらぬ物になっていたのです。
カナンは得意気な笑顔で僕にその靴を渡してくれました。」
キリオスの視線が一瞬だけ足元に落ちるのを感じた。
「それでも、僕は信じられませんでした。
ですが、彼女は”カミサマ”に僕の靴を壊れない物にして欲しいと頼み、実際にその願いが叶いました。
僕は、彼女に不思議な力が宿ったことを信じざるを得なかったのです。」
確かに、目の前で見せられれば信じざるを得ないか、と私は思った。
「『これで、お兄ちゃんも楽できるね。』と、カナンは笑いました。 その時の笑顔は、今でも脳裏に焼きついています・・・。」
キリオスが軽く鼻先をこするのを感じた。
「商家の人に出会ったのはそれからすぐのことでした。 彼女に時計を見つけてもらった人が、彼女のことを覚えていたのです。
あの人は、僕達を家事手伝いとして雇ってくれました。 これでカナンに苦しい思いをさせなくて済む、僕は嬉しくて飛び跳ねました。 ですが・・・。」
キリオスが俯くのを感じた。
「あの人の目的は、カナンの不思議な力でした。 あの人に連日のように頼まれ、それでもカナンは嫌な顔1つせず”カミサマ”へお願いをしました。
その光景に僕は、得体の知れない不安を抱えながらも、ただ黙って見守るしかありませんでした。 僕があの場に居られたのは不思議な力のおかげなのですから・・・。
僕の不安はそう、それから3年ほど経ったある日に現実のものになりました。」
キリオスは軽く咳払いをすると言葉を続けた。
「・・・僕は今、16歳でカナンは今、15歳なのです。」
(そうなのか・・・って。)
「な、なんだとぉっ!?」
私は思わず大声を出してしまい、慌てて口を閉ざす。
そして、カナンが起きていないかを確認し、彼女が起きていないことに安堵の溜め息を漏らした。
「・・・冗談か?」
「信じられませんが、事実なんです。 僕が彼女の異変に気付いたのは、彼女があれから3年間、殆ど成長をしていなかったからなのです。」
「なっ・・・。」
「なまじ、毎日会っていたから、中々気付けなかったのでしょう。 僕は慌ててカナンを問い詰めました。
ですが、どれだけしつこく迫っても、彼女は笑顔のまま『大丈夫。』としか答えてくれなくて・・・。
殴りました。 僕はその時、生まれて初めて、この世にたった一人しかいない大切な妹を、殴りました。」
今でも殴ってしまったことを気にやんでいるのだろう、キリオスの声が震えていた。
「『ごめんなさい。』と、カナンは泣きながら何度も僕に謝りました。そして、僕に全てを話してくれました・・・。
『”カミサマ”にお願いを聞いてもらうには、私が持っているなにかを、お供え物として捧げないとダメだったの。』
・・・絶句しました。 カナンは僕にそのことを悟られまいと、目に見えにくい所、言うならば”自分の将来”を削っていたのです・・・っ!」
私は返す言葉に迷っていた。
今、キリオスが感じている物がなんであるか、私にはよく分かる気がしてならない。
しかし、具体的にそれがなんなのか、言葉にすることが出来なかったからだ。
「それから後は、先ほども話した通りです。 カナンを連れあの人の所を飛び出したはいい物の・・・。」
「・・・結局は”カミサマ”頼みだった、か。」
「・・・・・・はい。」
キリオスは小さくそう答えると、押し黙ってしまった。
「・・・私にどうしろと?」
「えっ?」
気が付くと、私は問い掛けていた。
「お前は、私にカナン を救ってくれと頼んだ、私にしか頼めないと言った。 どうして、私なんだ?」
「・・・貴女の目で、彼女を視て欲しいのです。」
「なっ・・・!?」
私は思わず立ち止まってしまった。
私の目には、映った生き物にこれから起こり得る未来が、私の頭の中に勝手に映像化されるという厄介な能力がある。
更に厄介なことに、私は翠玉 という名前以外、この能力のことで記憶していることがない。
それ故に、私は自ら目を閉ざして光をとめた。
瞼の裏にある、色彩のない世界へと身をおいた。
加えて言えば、それだけでは陽の光を防ぎきることが出来なかったから、遮光性の強いサングラスもかけた。
「それも、”カミサマ”とやらに?」
「はい。 その目で、カナンを・・・。 カナンの、未来を視てくださいっ。 そして、カナンが救われる方法を、見つけてくださいっ!」
「・・・断る。」
私が一言で断ると、キリオスはそのまま押し黙った。
(私の目で、カナン を救う方法を見つけられるだと? ・・・買いかぶりすぎだっ。)
私は断る理由としてそう理由付けをしていたが、何故かモヤモヤした物が心の中に渦巻いていた。
(・・・買いかぶり、すぎだっ!)
私はもう一度、怒鳴るように自分の心に言い聞かせた。
酷く悔しく腹立たしく悲しい気分になったが、私は強引に胸の奥底へ押し込んで先を急ぐことにした。
「は、はい・・・。」
はたかれたおでこを撫でながらキリオスが頷くのを感じた。
キリオスのおでこの具合がふと気になったが、私は話題を進めることにした。
「次は、何故お前らが人攫いに捕まってたのかだ。 アイツらの狙いがカナンの力ならば、攫って連れ回すより力づくで従わせた方が早いはずだ。」
「それはきっと、彼らが人から頼まれたから、だと思います。」
「心当たりがあるのか?」
「僕達は実は、2年ほど前にある商家のもとから抜け出し、逃げている最中なんです。」
「・・・アイツらはお前らを連れ戻すよう、家主に依頼されたということか。」
大きく一度首を縦に振って頷くキリオスの様子が感じられた。
キリオスは首を振り終えるとすぐに口を開く。
「カナンが声や音を失ったのは、道中、追手に捕まりそうになる度に祈ったからです。
彼女を守るためにと思って逃げ出したのに、結局僕は彼女に守られていたのです・・・。」
「・・・そうか。」
キリオスの声から、自らの力のなさに対する怒りと悔しさを感じ、私はつい同情してしまった。
(って、何故私は同情しているんだ? 他の生き物を守ることなど、私には関係ないことだ。)
私は気持ちを切り替えようと溜め息をついてみる。
しかし、何故か胸の奥につっかえる物を感じた。
再び溜め息を付いてみても、それは一向に消える気配がなく、私は無性に腹立たしくなった。
(・・・関係ないことの、はずだっ!)
身体の中にある全てを無理矢理吐き出すようなつもりで、私は大きな咳払いをした。
そのあまりの大きな咳払いに驚いたのか、カナンの身体が大きく撥ねるのを感じ、何故か慌てた私はカナンの頭を軽く撫でる。
カナンの息遣いが落ち着くのを感じた私は、安堵の溜め息をつきつつ、キリオスに話し掛けた。
「先を急ぐぞ。」
「・・・えっ?」
「
「じゃっ! じゃあっ! イスラさん・・・っ!」
姿など見えずとも、瞳を
私は首を縦に振りそうになる衝動に駆られるのを感じつつも、口を開いた。
「勘違いするな。 私は巻き込まれたくないだけだ。」
「そ、そんなっ・・・!」
今にも泣きだしそうな情けない声を上げてキリオスは絶句する。
心を鷲掴みにされそのまま引き抜かれるような罪悪感を感じ、今からでも訂正をしたい衝動が全身を駆け巡るが、それを無理矢理押し殺して私は言葉を続けた。
「こ、この先の町で腕の立つ護衛を雇ってやるっ! それでいいだろっ!」
再びカナンに宥められる前に、私はカナンを少し強引に引き剥がす。
そして、再び自らが原因不明の衝動に駆られることのないよう、すぐにカナンの両肩と両腿の後ろに手を回して抱き上げた。
一瞬の内に様々な出来事に晒されたせいか、カナンは呆然としていた。
だがすぐに私の腕の中に居ることを悟ったのか、小さく溜め息を付くと、ゆっくりと身体の力を抜いた。
カナンの体重を両腕に感じるのを確かめた私は、同じく呆然としているキリオスに声を掛けた。
「さっさと来い。 置いてくぞ。」
私はわざと早歩きで歩き出した。
「へっ!? あ、ちょっ! ま、待ってくださぁいっ!」
慌てて私の隣まで駆け寄って来るキリオスの足音を聞き、私は心の中で溜め息をつきつつ歩く歩幅を合わせた。
~~~~
あれから暫く、私はキリオスと黙々と歩き続けていた。
サングラスの隙間から入り込む光の強さと、冷えた空気が暖められた時の湿っぽい匂いが、夜明けを知らせてくれた頃だった。
「あ、あの・・・。」
申し訳なさそうに、キリオスが私に話しかけてきた。
「なんだ?」
「この先の町って・・・何処のことなのでしょう?」
「何処のこと、だと?」
「は、はい。 僕が知っている限りだと、この道の先にある町までは、後20日ぐらいは歩き続けないといけないぐらいの距離があるのですが・・・。」
「なっ!?」
私は思わず驚愕の声を漏らしてしまい、慌てて口を閉ざした。
私はこの渓谷を抜けた先にあるという町を目指していたつもりだ。
だがしかし、私が聞いた話では、渓谷を5日ぐらい歩けばつくはずだった。
「はっ、20日・・・だと?」
(どういうことだっ!? 情報が間違っていたのかっ!?)
私は真相を突き止めるべく、キリオスの話を聞くことにした。
「その、僕達が歩き始めてすぐに、道が二手に分かれていましたよね?」
「あ、ああ。」
「右の道を行けば、渓谷を掠めるように抜けて4日ぐらいで町に入れたのですが・・・。」
「なっ!? なん、だと・・・っ!?」
私は衝撃の事実に絶句してしまった。
キリオスは私の絶句になにか不穏な空気を感じ取ったのか、恐る恐る問い掛けてきた。
「あ、あの・・・イスラ・・・さん?」
「っ!?」
突然話しかけられ、思わず悲鳴を出してしまいそうになった私は、慌てて咳払いをして取り繕った。
「こっ、この先の町で、いいんだっ。」
「えっ?」
「考えてもみろ。 お前らを狙う家主は恐らく、捕獲に失敗したことを知っているはずだ。 となれば、失敗した場所近くの町から、次の刺客を送り込んでくるかもしれないだろっ。」
「な、なるほど・・・。」
「そういうことだ、先を急ぐぞっ。」
私はわざと歩く速度を速めた。
キリオスが慌てて歩く速度を合わせてくるのを感じながら、私は小さく溜め息をついた。
(私としたことが、焦りすぎたか・・・ッ! これだから、『人間』と関わるのは・・・。)
途中で背中に背負うことにしたカナンを軽く背負いなおし、私は再び小さな溜め息をつく。
(
カナンの小さく規則正しい息遣いに、私はふと安堵する。
しかしその理由が良く分からず、もどかしさを感じていた時だった。
「あ、あの。」
キリオスがなにかに気付いたような声音で話しかけてきた。
「なんだ?」
「もしかしてカナン、眠っています?」
「なにを言っている、数時間前からずっと寝ているぞ?」
「や、やっぱり、眠っていたんですね・・・!」
キリオスの声が驚愕と歓喜に震えている感じがして、私は問い掛けた。
「何故驚いている?」
「5年ほど前からずっと、カナンが眠っている所を僕は見たことがなかったもので・・・。」
キリオスは大きく溜め息をつくと、言葉を続けた。
「やっぱり、カナンを救うことが出来るのは、貴女しか居ませんっ! どうか、お願いしますっ! ・・・僕の代わりに彼女をっ!」
当然断るつもりだったが、私はその言葉を口にすることが出来なかった。
頭を下げるキリオスの握り拳が小さく震えているのが感じられ、何故か他人事のように思えなかったからだ。
(何故迷う? 何故途惑う? 答えなど・・・決まっているだろうっ!?)
私が押し黙っていると、キリオスはゆっくりと身体の力を抜きながら顔を上げ、口を開いた。
「やっぱりダメ・・・ですか?」
「・・・あ、ああ。」
「そうですか・・・。」
キリオスは本当に残念そうに溜め息をついて、言葉を続ける。
「・・・聞き流してくれて構いません。」
そう言ってキリオスが歩き始めたのに合わせ、私も歩き出す。
「6年ほど前、僕達は孤児になりました。 旅先で立ち寄った町が盗賊の襲撃に遭って、それに巻き込まれたのです。」
よくある話だと、私は思った。
「なんとか生き残った僕達を待っていたのは、夜露を凌ぐ場所を見つけることさえ難しい、酷い生活でした。」
この星は、『子供』が2人だけで生きて行けるほど生易しい場所ではない、当然の事態と私はそう思った。
「カナンには楽をさせてやりたいと、僕は朝から晩まで仕事を求めて走り回りました。 ですが、やはり生活は苦しくて・・・。」
キリオスは一度呼吸を整えてから続きを話す。
「少ない手持ちと稼ぎとで持ちこたえるのも、1年が限界でした。 カナンに不思議な力が宿ったのは、丁度その頃です。」
差し詰め、奇蹟が起きたと言った所か、と私は思った。
「ある日、夜遅くに僕がカナンのもとへ帰ると、カナンが興奮した様子で駆け寄ってきたのです。 その手には、今まで見たこともないぐらい沢山の食べ物が詰まった袋を握っていました。
どうしたのかと尋ねると、『時計を無くしたって言ってるおばちゃんが居たからね、見つかるようにって”カミサマ”にお願いしたら、”カミサマ”が落ちてる所を教えてくれたんだっ。
拾って届けたら、お礼に沢山の食べ物をくれたのっ。』と、とても嬉しそうに話してくれました。
ですが僕には信じられませんでした。 そんなことが、本当にできるのか。 カナンに問い詰めました。」
当然の行動だ、私も問い詰めるだろう。
「すると、カナンは近いうちに棄てるつもりだったボロボロな僕の靴を取り出すと、少しの間目を閉じました。
その直後、瞬時にして手に持っていた靴が新品のソレと変わらぬ物になっていたのです。
カナンは得意気な笑顔で僕にその靴を渡してくれました。」
キリオスの視線が一瞬だけ足元に落ちるのを感じた。
「それでも、僕は信じられませんでした。
ですが、彼女は”カミサマ”に僕の靴を壊れない物にして欲しいと頼み、実際にその願いが叶いました。
僕は、彼女に不思議な力が宿ったことを信じざるを得なかったのです。」
確かに、目の前で見せられれば信じざるを得ないか、と私は思った。
「『これで、お兄ちゃんも楽できるね。』と、カナンは笑いました。 その時の笑顔は、今でも脳裏に焼きついています・・・。」
キリオスが軽く鼻先をこするのを感じた。
「商家の人に出会ったのはそれからすぐのことでした。 彼女に時計を見つけてもらった人が、彼女のことを覚えていたのです。
あの人は、僕達を家事手伝いとして雇ってくれました。 これでカナンに苦しい思いをさせなくて済む、僕は嬉しくて飛び跳ねました。 ですが・・・。」
キリオスが俯くのを感じた。
「あの人の目的は、カナンの不思議な力でした。 あの人に連日のように頼まれ、それでもカナンは嫌な顔1つせず”カミサマ”へお願いをしました。
その光景に僕は、得体の知れない不安を抱えながらも、ただ黙って見守るしかありませんでした。 僕があの場に居られたのは不思議な力のおかげなのですから・・・。
僕の不安はそう、それから3年ほど経ったある日に現実のものになりました。」
キリオスは軽く咳払いをすると言葉を続けた。
「・・・僕は今、16歳でカナンは今、15歳なのです。」
(そうなのか・・・って。)
「な、なんだとぉっ!?」
私は思わず大声を出してしまい、慌てて口を閉ざす。
そして、カナンが起きていないかを確認し、彼女が起きていないことに安堵の溜め息を漏らした。
「・・・冗談か?」
「信じられませんが、事実なんです。 僕が彼女の異変に気付いたのは、彼女があれから3年間、殆ど成長をしていなかったからなのです。」
「なっ・・・。」
「なまじ、毎日会っていたから、中々気付けなかったのでしょう。 僕は慌ててカナンを問い詰めました。
ですが、どれだけしつこく迫っても、彼女は笑顔のまま『大丈夫。』としか答えてくれなくて・・・。
殴りました。 僕はその時、生まれて初めて、この世にたった一人しかいない大切な妹を、殴りました。」
今でも殴ってしまったことを気にやんでいるのだろう、キリオスの声が震えていた。
「『ごめんなさい。』と、カナンは泣きながら何度も僕に謝りました。そして、僕に全てを話してくれました・・・。
『”カミサマ”にお願いを聞いてもらうには、私が持っているなにかを、お供え物として捧げないとダメだったの。』
・・・絶句しました。 カナンは僕にそのことを悟られまいと、目に見えにくい所、言うならば”自分の将来”を削っていたのです・・・っ!」
私は返す言葉に迷っていた。
今、キリオスが感じている物がなんであるか、私にはよく分かる気がしてならない。
しかし、具体的にそれがなんなのか、言葉にすることが出来なかったからだ。
「それから後は、先ほども話した通りです。 カナンを連れあの人の所を飛び出したはいい物の・・・。」
「・・・結局は”カミサマ”頼みだった、か。」
「・・・・・・はい。」
キリオスは小さくそう答えると、押し黙ってしまった。
「・・・私にどうしろと?」
「えっ?」
気が付くと、私は問い掛けていた。
「お前は、私に
「・・・貴女の目で、彼女を視て欲しいのです。」
「なっ・・・!?」
私は思わず立ち止まってしまった。
私の目には、映った生き物にこれから起こり得る未来が、私の頭の中に勝手に映像化されるという厄介な能力がある。
更に厄介なことに、私は
それ故に、私は自ら目を閉ざして光をとめた。
瞼の裏にある、色彩のない世界へと身をおいた。
加えて言えば、それだけでは陽の光を防ぎきることが出来なかったから、遮光性の強いサングラスもかけた。
「それも、”カミサマ”とやらに?」
「はい。 その目で、カナンを・・・。 カナンの、未来を視てくださいっ。 そして、カナンが救われる方法を、見つけてくださいっ!」
「・・・断る。」
私が一言で断ると、キリオスはそのまま押し黙った。
(私の目で、
私は断る理由としてそう理由付けをしていたが、何故かモヤモヤした物が心の中に渦巻いていた。
(・・・買いかぶり、すぎだっ!)
私はもう一度、怒鳴るように自分の心に言い聞かせた。
酷く悔しく腹立たしく悲しい気分になったが、私は強引に胸の奥底へ押し込んで先を急ぐことにした。