14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

#07

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14sure74

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「教えて、このコをどうするつもり?」
「はっ? そんなことあんたに・・・」
「教えてっ!」

彼女の怒気を含んだ問い掛けに、オニマスは思わず言葉を飲み込んだ。

「な、なんだってんだ! この世界をアタイの思うままにするのに使わせてもらうんだよっ! これでいいかっ!」
「・・・そっか。」

彼女は溜め息をつく。

「やっぱり、キミ達にカノジョと・・・。 このコの歩みを邪魔していい理由がないよ。」
「はぁっ!?」
「あたしなら、好きにして構わないからさ、エアとこのコは・・・」
「なに言ってんだいっ! そんなもん聞くわけがないだろっ!」

オニマスは力任せに笛を吹く。
しかし、巨獣が反応を示さないのを見るや笛を噛み砕き怒鳴った。

「なぁにボサっとしてんだいあんた達っ! さっさとあの女達と巨獣をやってしまいなぁっ!!」

いつの間にやらオニマスの後ろでことの成り行きを悠々と見ていた男達が、慌てて武器を取り出しオニマスの前へ飛び出る。

「どうしても、邪魔するのやめてくれないのかい?」
「くどいっ!!」

オニマスはぴしゃりと言い放ち、男達へ手で合図を送る。

「・・・じゃあ、仕方ないなぁ。」

手に持った武器を振り上げ駆け寄ってくる男達を一瞥し、彼女はぽつりと呟いた。
直後、物凄い音と共に風が巻き起こり、男達を吹き飛ばした。

「――ななっ!? なんだ今の・・・っ!?」

吹き飛ばされ尻餅をついた男達の一人、ワイッチの言葉はそこで途切れた。
彼が言葉を失った理由は。

「な、なんだよ・・・ありゃぁっ・・・!?」

目の前の人間が、軽く身の丈ほどはあろう巨大な剣を片手で振り抜いている光景を目の当たりにしたからだった。

「・・・鉄砲百合コレ、仕舞うの大変なんだよね。 どうして、くれるのかな?」

振り抜いた大剣を背負うように構えて、彼女はぼそりと問い掛けた。
彼女はオニマスと男達をゆっくりと一瞥する。
男達は彼女から今まで全く感じられなかった気迫を感じ、すっかり恐れ戦きずりずりと尻を引き摺って後退る。
流石に危険を感じたのか、オニマスは背中に背負っていた巨大な鈍器を取り出しながら、少しずつ後退った。
彼らが後退った分、彼女は前に出る。
その繰り返しが続き、気が付けば男達は袋小路の出口まで押し戻されていた。

「邪魔はさせない・・・。 キミ達に、あのコ達が歩く邪魔はさせないよ。」

彼女は静かな怒りと僅かな憐れみが混じった声音で呟く。
そして、真直ぐにオニマスを見据えて呼びかけた。

「・・・このまま、何処かへ行ってくれないかな?」
「は、はぁっ?」
「あのコ達が歩く邪魔にならないよう、何処か別の所に行ってくれないかな?」
「・・・ふ、ふざけるんじゃないよっ!」

オニマスはそう怒鳴ると、咳払いで男達を無理矢理叩き起こした。

「なぁにビビってんだっ! さっさとやっておしよっ! こんの能無しどもがっ!!」
「えっ!? でで、でもママ゛ッ!?」

オニマスは口答えをしたヤエートの頭を鈍器で叩きつけて怒鳴った。

「いいからさっさと行けってんだいっ!! ドラ息子どもっ!!」

男達は震える手で慌てて武器を持ち直し、彼女へとにじり寄る。

「・・・許せない。」

その光景を見た彼女は目を丸くし、次いで俯きながら呟いた。

「許せない・・・っ!」

そう呟いた彼女の声は震えていた。
彼女は勢いよく顔をあげて叫ぶ。

「オニマスッ! あーたはっ! 自分の子分のことをっ!!」
「う、うるさいねっ! こんなヤツらをどうしようと、それこそアタイの勝手だろがっ!」
「――っ!!」

その瞬間、彼女の中でなにかがプツリと切れる音がした。
彼女は俯きながら歯を食いしばり、全身を戦慄かせる。
そして、剣の柄を握り直しながら怒鳴った。

「オニマスッ! あーたは、きっと、歩みを止めさせた相手のことを気にもしないっ! そういう人だっ!」
「は、ハッ! だったらどうだっていうんだいっ! ・・・って、さっさとやっておしよっ!」

オニマスは鈍器で地面を思い切り叩き、にじり寄るだけの男達を怒鳴りつけた。

「ひっ! ひぃぃっ!!」

男達は泣きながら彼女へと飛び掛る。
しかしその直後、再び轟音と暴風が男達を吹き飛ばし、オニマスを横切って後ろの壁へと叩きつけていた。
剣を振り下ろした状態で彼女は顔をあげ、オニマスを見据えて怒鳴った。

「――許せないっ!! おたくは誰かが歩くのを邪魔していい人じゃないっ! オニマスゥッ!」

彼女の激しい怒りと、何故か深い悲しみの色が混じった瞳にオニマスは思わずたじろぐ。
その隙を彼女は見逃さなかった。
彼女は勢いよく地面を蹴り、オニマスとの距離を詰める。
その身のこなしは、とても一振りで男達を吹き飛ばす風を巻き起こすような大剣を担いだ人間の物とは思えないほど軽かった。

「し、しまっ・・・!?」

オニマスの言葉はそこで途切れた。
彼女が飛び込んだ勢いのまま、オニマスの腹を剣の柄で突き飛ばしたからだ。
オニマスは地面を激しく転がり、壁に激突して動かなくなった。
彼女は目を丸くし、慌てて駆け寄ろうとするが、オニマスの小さな呻き声を聞いて駆け寄るのをやめる。
そして、軽く溜め息をつくと剣を背負いながら振り返った。
そこには、へたり込んだまま呆然としているエアの姿と、静かに立ち尽くしている巨獣の姿があった。

「あっ! あ・・・あの・・・その・・・えっと・・・!」

彼女の視線に気が付いたエアは、慌ててなにかを言おうとするが、なにを言えばいいのか分からず口篭ってしまう。
彼女は、大きく息を吐いて笑顔でエアに話し掛けた。

「アリン。」
「・・・へっ?」
「・・・あたしの名前、アリン=T【テイルス】=カラットだよ。 言ってなかったよね?」
「ア、アリン・・・さん・・・っ!」

エアはゆっくりと立ち上がって、彼女、アリンの傍へと行く。
始めは一歩ずつゆっくりと、次第に歩みは速まって、仕舞いには全力で走っていた。

「アリンさんっ! 私、私ぃぃっ!」
「わわっ!?」

エアは思い切り地面を踏み切って、アリンの胸に飛び込んだ。
アリンは慌てて剣を手放してエアを受け止める。
そのまま顔を埋めて泣きじゃくるエアの髪をアリンが優しく撫でていると、小さな唸り声をあげながら巨獣が近づいてきた。
アリンはエアの髪を撫でるのをやめると、笑顔でそっと手を差し出す。
巨獣はその手の平に軽く鼻先をこすりつけて、ゴロゴロと唸っていた・・・。

~~~~

それから、アリン達はオニマス一家を縄でぐるぐる巻きにして捕らえると、洞窟の出口近くで夜が明けるのを待っていた。

「・・・本当に、行ってしまうんですか?」

夜明けの光に目を細めながら、エアはアリンに問い掛ける。
アリンはオニマス一家を縛った縄の一端を巨獣の腕にくくりつけながら答える。

「カレら、このままにしておけないからね。 それに・・・。」

アリンは巨獣の頭を優しく撫でながら、言葉を続ける。

「このコ連れて行ったら色々大変、でしょ?」
「た、確かに・・・そうですね・・・。」

エアはアリンの言葉にゆっくりと頷いた。
ただでさえ、今頃町の皆は一向に帰ってくる様子のない自分のことを心配しているだろう。
そこに、一見すると凶悪な面構えをした巨獣を連れて帰ったとしたら、お説教と質問責めの時間が恐らく10倍ぐらいにはなるとエアは思った。

(そんな長い時間お説教されてたら、それだけで一日終わっちゃうよ・・・。)

エアが自身が長い説教受けている姿を想像して失笑していると、アリンの小さな掛け声が聞えた。

「あ、アリンさん。」

エアが顔を向けると、アリンは巨獣に跨っていた。

「じゃあ、あたし、もう行くよ。」
「あ、あの、やっぱり、私、なにかお礼をっ。」
「大丈夫、気持ちだけでいいよ。」

アリンは巨獣の背を軽く撫でながら、笑顔で言った。

「じゃ、またね、エア。」
「あ、アリンさんっ。 その、また、来てくれますか?」
「ん? ・・・うん、行くよ。」

アリンは満面の笑みで首を縦に振る。
エアは目をゆっくりと見開き、感激の涙を流しながら笑顔で応える。

「ほ、ホントですねっ! 約束ですよっ! 私、覚えていますからっ!」
「うん、約束。 いつかまた必ず、行くよっ。」

アリンは巨獣の胴を軽く小突いて合図をする。
巨獣は小さく頭を縦に振ると、ゆっくり歩き出した。

「あ、エアッ。 あたしからも、約束。」
「は、はいっ。」
「辛くても、歩くのを諦めちゃダメだよ。」
「えっ・・・。」
「辛くなったら一度振り返って、キミが付けてきた足跡を辿ってみて。 ・・・必ず、あたしの付けた足跡が、隣にあるはずだから。」
「アリン・・・さん・・・!」

少しずつ、朝日の中へと吸い込まれていくアリンの姿を、エアは泣きながら笑顔で手を振って見送る。

「私っ! 歩いてますからっ! また貴女と会えるまで、ずっと歩き続けて、待っていますからぁっ!!」

~~~~

「・・・そうだ。」

エアと別れ暫く経った頃、アリンはぽつりと呟いた。
そして、巨獣の背中にゆっくり項垂れる。

「・・・あたし、彼是1ヶ月以上、飲まず食わずだったんだっけ。」

アリンのお腹が情けない雄叫びを上げる。
その音を聞いた巨獣は、心配そうな鳴き声をあげた。
アリンは巨獣を優しく撫でながら、呟いた。

「・・・・・・お腹、減ったなぁ。」

その直後、巨獣は全身を大きく撥ねさせ、激しく暴れ始めた。
振り落とされそうになったアリンは慌ててしがみ付いて叫ぶ。

「わわわっ!? どうしたのっ!? 大丈夫、食べたりしないよっ! しないって!」
(・・・・・・多分。)

アリンの心の声を直感した巨獣は、悲鳴にも似た雄叫びを上げる。

「わああっ!!」

巨獣は強引にアリンを振り落とすと、全速力で走り出した。

「あっ、待ってよーっ! おーい、おーいってばー・・・。」

オニマス一家を振り回しながら走り去っていく巨獣の背にアリンは呼びかける。
しかし、全く立ち止まる気配を見せない巨獣を、アリンは暫し呆然と見ていた。
やがて、大きく溜め息をついて立ち上がると、巨獣が走り去っていった方向を見つめて微笑みながら呟いた。

「・・・ウエストパンクへようこそ。 歩き出したばかりの、新たな旅人さん。」

・・・この星の生き物は皆、旅をする。
其々が、其々の目的を持って旅をする。
そして、時々振り返っては自らの付けてきた足跡を辿る。
誰が隣に歩いていたか、誰の隣を歩いていたか。
誰の足跡の前を横切って、誰の足跡の上を渡ったか。
そうした軌跡を確かめることで、自らが決して孤独ではないことを確かめる。
自らが孤独ではないことを確かめた者は皆、誰かへ自らが孤独ではないことを伝える。
その者も決して、孤独ではないと伝えるために。

(・・・お腹減ったなぁ。 風見鶏も洗いたいし、とりあえず水場を探そうかな。)

アリンは風見鶏についた埃を軽く払い落とすと歩き出した。
・・・また、誰かの隣を歩くために。

~~~~

「――デ、デスバードの中の人だぁぁぁぁっ!?」
「――デ、デスバードの中の人ってぇぇぇっ!?」

・・・誰かの、隣を歩くために。

+ RESULT
アリン=T=カラット
愛称「腹ペコな旅人さん」Byエア=A=ラインズ
愛称「ママより怖い旅人」Byオニマス一家10人兄弟
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