14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

#03

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14sure74

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孤独――。
それはこの星に、最も多く溢れている、”死”と隣り合わせのもの。
この星に棲む生物は、孤独を”運命”として受け入れている。
ただ一種、人類を除いて。

(旅の、話、かぁ・・・。)

この星の人々の多くは、旅をする。
或いは商いのため、或いは戦いのため。
其々が、其々の目的を持って旅をする。
しかし、如何なる目的があるにせよ、その根底にある目的は1つ。
彼らが旅をする目的の根底にあるもの、それは孤独からの逃走。
彼らは旅をして見たこと聞いたことを、他人に伝えることに喜びを感じる。
他人に自らの旅の話を伝えることで、孤独から少し遠ざかった気になれるからだ。
だから彼らは、一度ひとたび求められれば、夜通しになろうとも延々と語り続ける。
彼女もまた、そんな彼らの一人・・・のはずだった。

「た、旅の話?」
「はいっ♪ 私、旅人さんから、旅の話を聞くのが好きなんです♪」
「そ、そうなんだ・・・。」

彼女は少し顔を俯かせ、頭の中で話を組み立てている素振りをしつつ、エアの様子を窺った。
エアの目は期待で爛々とらんらんと
輝いていて、少し前のめりの体勢で彼女の顔を見つめていた。

(弱ったな・・・。 期待、されちゃってるよ・・・。)

彼女の顔から再び冷や汗が噴き出す。

(あたし、ただ、歩き回っていただけだから・・・。 聞いて面白いような話、ないよ・・・。)

彼女がどう誤魔化そうか悩んでいた時だった。
再び情けない轟音が部屋に響き渡り、主に助け舟をだした。

「・・・よ、よほどお腹が空いているようですね。」

エアが呆然とした表情で、問い掛ける。

「あっ・・・。 う、うん・・・。 はは、ははは・・・。」
(よくやった! よくやったよ! あたしのお腹の虫!)

彼女は軽く頷き、乾いた笑い声をあげながら頭を掻いた。

「・・・じゃ、じゃあ、早速、食事の用意しますね。」
「あ、うん。 頼むよ。」

エアは笑顔で一度頷くと、部屋を出て行った。
彼女はその様子を笑顔で見送り、エアが扉を閉めたのを確認すると、大きな溜め息をついた。

(・・・よし。)

彼女は一度大きく頷いて、扉へと近づく。

(カノジョには悪いけど・・・。)

彼女は取っ手にゆっくり手を掛ける。

(あたし、これで失礼するよ。 ・・・食べ物は惜しいけどね。)

彼女がこっそりと部屋を出ようとした、まさにその瞬間。

「――たっ、大変ですっ!! 旅人さぁんっ!!」
「ふぎゃっ!?」

凄い勢いで扉が開かれ、彼女は顔面を強打し床に倒れた。

「しょ、食料がっ! 食料がぁっ!!」
「むぎゅっ!?」

扉を開けた人物、エアが彼女のお腹を踏んづけた。

「・・・って、あれ?」

エアはその場で立ち止まり、部屋を見渡す。
そして、首を傾げながら呟いた。

「旅人さん、何処へ行っちゃったのかしら?」

エアは首を傾げたまま腕を軽く組み、この部屋に来るまでの道中を思い返す。

「お手洗い・・・だとしたら、廊下で擦れ違ってるはずですし・・・。」

エアはその場でくるりときびすを返し、一応お手洗いを見に行こうとした。
その時だった。

「・・・って、この部屋。 こんなに扉小さかったかな?」

扉の上の部分と壁の境目が、いつもよりも低く感じられたエアは、ぐるりと回りを見渡した。

「それに、心なしか・・・全体的に視界が高くなってるような・・・?」

その直後、足元から聞える小さな呻き声に気付いたエアは、ゆっくりと足元へ視線を落とした。

「ぁっ・・・。」

足元にあったもの。
それは・・・漫画みたいに目をグルグル回して伸びている彼女だった。
暫しの沈黙の後、エアは大きく息を吸って・・・。

「きゃああああああああああああああぁああああぁぁぁあああああーーっ!!」

~~~~

「ごめんなさいっ!! 気付かなかったとはいえ、あんな酷いことして・・・本当にごめんなさいっ!!」

エアは涙目で何度も深く頭を下げる。
ベッドに座った彼女は、踏まれたお腹をゆっくりさすりながら、笑顔で答えた。

「そんな謝らなくたって、いいんだよ。気にしてないし。」

彼女の優しい言葉に、エアは感謝の涙を流し、更に何度も頭を下げた。
泣きながら謝るエアに困り果てた彼女は、慌てて立ち上がり彼女の双肩を押さえ問い掛けた。

「それで、どうしたっていうんだい?」
「・・・ふぇっ?」
「酷く慌ててたみたいだけど?」
「あっ!!」

彼女の言葉で、エアはこの部屋に飛び込んできた目的を思い出し、口を開いた。

「大変なんですっ! 家の食料が泥棒に盗まれちゃったんですっ!!」
「な、なんだってー!」

エアの告白に彼女は驚愕で目を丸くした。

「きっと、最近この町を荒らしてる食料泥棒です・・・。 ですから、旅人さん!」
「は、はいなっ!」

エアに突然呼ばれ、彼女は背筋を真っ直ぐ伸ばして答えた。

「お願いしますっ! 食料泥棒を懲らしめてくださいっ!」
「あいよっ!」

彼女は元気よく返事をし、部屋から飛び出そうと駆け出した。

「・・・って。」

しかし、扉の前で突然、彼女は立ち止まった。
彼女は鼻先を軽く掻きながら振り返り、問い掛けた。

「そういうのは普通、自衛官とか、そういう人がやってくれるんじゃないのかい?」

彼女の問い掛けは尤もだった。
この星では、”治安”と呼べる物は存在していない。
皆、生きるために必死だからだ。
生きるために、町を襲う輩も多い。
故に、普通は戦う力を持った者が一人や二人、そうした輩から町を守っている。

「実は、この町の若い男性は殆ど、近くの大きな町に出稼ぎに行っているのです。」
「へぇー・・・。 でも、誰かこういう時のために残したりとかはしないの?」

確かに小さな町の若者は、仕事を求めて近隣の大きな町へと、出稼ぎに行くというのが珍しくない。
その道中の護衛を専門に行う人間もいるぐらいに、当たり前の光景となっている。
とはいえそんな町でも、町を守るための人手は確保しておくのが普通だ。

「はい・・・。 こういうこと、今まで無かったので・・・。」
「そうなんだ・・・。」
(凄く、平和な場所だったんだなぁ・・・。)

エアの言葉に、彼女はしみじみと何度か頷いて、再び問い掛けた。

「・・・それで、あたしなんかに頼んでいいの?」
「ええ。 一人で旅をする女性の旅の人は、下手な男性の旅の人よりもずっと強いと聞きますし。」

旅をしていると、様々な外敵に襲われることがある。
そして、女性は男性に比べ襲われる確率が高い。
なぜならば、その柔らかな体躯たいくから戦う力がないと見られやすいからだ。
当然、戦う力がないものは襲われやすい。
更には、生物としての本能、つまり性欲を満たすために襲うという輩も多い。
そうした状況の中で、女性がたった一人で旅をすることは自殺行為に近い。
故に、一人で旅をしている女性は、下手な男性の旅人よりも強いと、そう言われていた。

「それに・・・。」

エアは彼女の腰に携えている物を一瞥して、問い掛けた。

「その剣は、飾りじゃないんですよね?」

エアの視線に気付いた彼女は、エアの視線を目で追う。
その視線の先にはよく使い込まれた痕跡のある、剣の柄があった。
彼女はそれを軽く握りながら答えた。

「・・・まぁ、そうだね。」

彼女は深呼吸を一度すると、胸の前で両手を一度叩いた。

「分かったっ! あたしに任せてよっ!」
「あ、ありがとうございますっ! お願いしますっ!」

エアは深く頭を下げた。

「・・・では早速、詳しいお話を・・・って。」

エアが事件の詳細を説明しようと顔を上げた時、既に彼女は部屋を飛び出していた。

「・・・もう・・・行っちゃっ・・・たんだ・・・。」

質素だけど暖か味のある小さな部屋で一人、エアは呆然と佇んでいた。

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