14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

妄想の断片 > 30分小説その2


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「・・・さよなら、だ。」
「――っ!?」

彼の悲しそうな眼に、私の顔が青褪めていく様子が映る。
ゆっくりと目が見開かれていく様子が映る。

「・・・・・・。」

私はなにも言わない。
・・・なにも、言えなかった。

(・・・なんて言えば・・・分からないよ。)

それでも、なにかを言わなくては。
そうしなくては、私はきっと一生後悔する。
私は突き動かされるように、言葉を探し始めた。

(・・・なんで、こんな時に?)

言葉を考えないといけないのに、浮かんでくるのは情景ばかりだった。
彼と初めて出会った時の情景が。
眼に映る全てが怖くて逃げていた私が、初めて全てを向き合った時の情景が。
彼の笑顔が、眩しくて、愛しく感じた時の情景が。
もっと、彼を知りたくて、でも、どうすればいいのか分からなくて、ただ彼に付いてまわっていた時の情景が。
そんな私に、嫌な顔一つせず、語りかけてくれた彼が居た情景が。
水泡のように次々浮かんでは消えていく。

(・・・どうして、涙が?)

次々と浮かんでは消える情景を見送っていた時だった。
視界が涙で滲み出し、次いで息が苦しくなってきた。
苦しくて、仕方ないのに、でも、何処か心地良い感覚。

(・・・そう、なんだ。これが・・・私の・・・!!)

刹那、私の口が開かれ・・・。

「――っ!」

なにかが、出て行った。
滲んだ視界に、彼の驚く顔が映る。

「――っ!! ――――っ!!」

続けざまに、なにかが出て行く。

(なにが・・・出て行っているのっ!?)

確かになにかが出て行っている。
他ならぬ自分から出て行っているのに、それがなにかが分からない。

(でも・・・きっと・・・今・・・彼にっ!!)

――”私”を伝えている!
――”私”が伝わっている!

(気付いてっ!! ”私”に・・・気付いてっ!!)

祈るように、私は”私”を出し続けた。
その時だった。

「っ!?」

突然、彼に抱きしめられた。
私を抱く彼の腕は、暖かくて震えていた。
私は彼を見上げる。
もはや、なにがなんだか分からなくなっていた視界の中で、彼はきっと、泣いていた。

「・・・ありがと・・・なっ。」

彼が私の耳元で囁いた。
『ありがとう』と、決別の言葉を囁いた。

「・・・・・・。」

私はなにも言わない。
・・・なにも、言わなかった。

(・・・伝えたから。ちゃんと、伝えた。だからっ!)

遠ざかる彼の影を、私はずっと見ていた。
震えながら、奥歯を噛みしめながら、ずっと見ていた。

END