14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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真っ赤な陽が地平線の彼方へと姿を消し、真っ白な月が姿を現し始めた頃である。
”都”の北側にある出入り口付近で、ある男が治安部隊を集め挨拶を交わしていた。
黒い長髪に丸眼鏡をかけたその男は、出で立ちこそは治安部隊所属のリンカーではあるが、何処か周りとは違う雰囲気を醸し出していた。
彼が隊員達と挨拶を交わしていると、後ろから隊員の一人が走り寄って、彼になにかを耳打ちした。

「・・・時間通りか。・・・流石、ハイン隊長。」

彼は腕を組み、小さく頷いた。

「・・・作戦通り、適度に交戦して道を開けろ。・・・あくまで、’強行突破された’ようにな。」

男の言葉に周りに居た隊員達は一斉に頷くと、其々の持ち場へと素早く散って行った。
男はその中の一人を呼びとめ、口を開いた。

「頃合を見計らい、街道警戒を担当している部隊に緊急の巡回計画変更を伝えるんだ。」
「・・・副隊長の独自判断による物ということですね?」

呼び止められた隊員が、確信めいた物を持っている表情で男に問い掛けた。
副隊長と呼ばれた男は眼鏡を軽く上に押し上げると、小さく頷いて答える。

「そうだ。・・・頼むぞ。」
「了解しました。」

隊員は駆け足で持ち場へと急いだ。
副隊長と呼ばれた男はマントを翻し【ひるがえし】向きを変えた。

(・・・隊長へ報告しにいかねばな。)

男は一息つくと、隊長が居るであろう場所を目指して歩きだした。

~~~~

丁度同じ頃、ラスの運転するボックスカーゴは、”都”の北側にある出入り口付近の路地裏で一時停止をしていた。
ラスは身体を捩り後部座席を覗き込みながら話し掛けた。

「・・・この辺りまでが限界ですね。」
「そのよう、ですわね。」

ラスの言葉にアスは小さく頷く。
ラスは申し訳なさそうな表情で口を開く。

「アスさん、こんなことに巻き込んでしまって、本当にすみません・・・。」
「構いませんわ。・・・万が一にも先を越されないためには、彼女についているのが一番ですもの。」

アスは窓の外へ首を向けながら言葉を続ける。

「そ、それに・・・そのっ、ラスさんを守るため、ですもの・・・。」
「・・・えっ?」
「なっ! なんでもありませんわっ!」

ラスに聞き返され、アスは真っ赤になった顔をなんとか誤魔化そうと両手を激しくバタつかせて否定してみせた。
その様子を不思議そうに見つめるラスを見て、最後部座席に居たタクトは呆れた表情で助け舟をだした。

「ほらほら、此処もいつ見つかるかわかんねーんだし、早いトコ準備しちまおうぜ?」
「そっ! そうですわねっ! タクトさん! 対治安部隊用に用意してきた例の輝石、取り出してくれませんこと?」
「ほいきたっ♪」

タクトは荷物の中から輝石を1つ取り出しアスに渡した。
アスはそれを受け取るなり発動させた。

「あ、あの・・・本当に大丈夫・・・ですよね?」

召喚されたのが極普通のアサルトガンであったので、ラスは思わず問い掛けた。
アスは不敵な笑みを浮かべ、アサルトガンの機関部をそっと撫でながら答える。

「この程度のこと、私の手に掛かればこれ一丁で十分・・・」
「そうではなくてですねっ! その・・・撃ってしまったら・・・。」

ラスの心配している事態をようやく悟ったアスは、笑顔で頷いて答えた。

「大丈夫ですわっ♪ 装填されているのは暴徒鎮圧用の特殊な弾丸ですので、打ち所を間違わなければ最悪でも骨折程度で済みますわっ♪」
「そうですか。・・・無茶なことを言ってしまい本当にすみませんが、できる限り、彼らを傷をつけないようお願いします。」

ラスは深く頭を下げた。

「ラスさんは本当に優しい方ですわね。・・・私、”疾風銃狂”にお任せくださいましっ♪ 」
「ありがとうございます。アスさん。」

ラスの屈託のない笑顔に、アスは素早く視線を逸らした。

「わっ! 私はっ、そのっ・・・ラスさんの、そういった所が・・す・・・すす・・・すすす・・・!!」
(あぁんっ! 私にはやはり、貴方は眩しすぎますわぁっ! ラスさぁああぁんっ!)
「・・・タクト、私にもくれ。」

アスの様子を呆れた表情で見ていたネスが、溜め息混じりにタクトに話し掛けた。
タクトは軽く頷いて、アスに渡した物と同じ輝石をネスに渡した。
ネスは受け取った輝石を発動させ、手元にアスと同じ仕様のアサルトガンを呼び出す。
アスは彼女の行動に至福の時間を邪魔され、怒りに眉を小さく痙攣させながら問い掛けた。

「なにをなさるつもりかしらっ? ”化物人間”さんっ?」
「決まってら、こっち側半分は任せろってこった。」

ネスはアサルトガンの銃床を左肩に押し当てるように構えながら答える。
アスは態と大きな溜め息をついてから再び問い掛けた。

「『打ち所を間違わなければ』というのが聞えなかったのかしら? 貴女のような女性【ひと】がそんな真似ができると思って?」
「・・・まっ、なんとかなんだろ。」

ネスは片手で窓を開け、欠伸をしながら答える。

「なっ、『なんとか』って! 貴女という女性は本当にっ・・・!」
「・・・ラス、路地を出たら真っ直ぐ門に向かえ。絶対速度を落とすなよ。」

ラスは軽く頷いて首を引っ込めると、すぐにボックスカーゴを発車させた。
アスは慌てて傍らのスイッチを操作して窓を開けながらネスに怒鳴った。

「ちょっと! 私の話はまだ終わっておりませんことよっ! 勝手に発車させないでくださいませんことっ!?」
「わーた、わーたからほら、・・・早速見つかったようだぜ?」

ネスは悪戯な笑顔を浮かべながら進行方向を指した。
そこには彼女の言うとおり、数名の治安部隊隊員が前方に立ち塞がって即時停車を勧告している光景があった。
アスは大きく溜め息をつき、窓側に身体を寄せながら怒鳴った。

「覚えておきなさいっ! 貴女には他にも言っておきたいことがありますわっ!」
「気が向いたらなっ。」

ネスは窓から身を乗り出しながら答えると、前方の隊員目掛けて発砲した。
殺傷能力の低い特殊弾丸とは言えかなりの衝撃だったらしく、直撃を受けた隊員は一撃で崩れ落ちた。
周りに居た隊員達はその光景を見るなり、手に持ったアサルトガンを次々と咆哮させる。

「ちょっと!! 少しでも閉門を遅らせるため、もっと引きつけてから仕掛ける算段でしたでしょうっ!?」

アスは慌てて窓から身を乗り出して応戦しながら叫んだ。

「いーんだよっ。・・・ホントはとっくの昔に見つかってんだからよ。」

ネスが呟くように付け足した一言に、アスは現状を悟って溜め息をついた。

「・・・やはり、そうでしたの。」

二人の会話に疑問を持ったタクトが、最後部座席で蹲ったまま顔だけ上げて問い掛ける。

「ど、どういうことだ? ネス、アメリアさん?」
「この計画、ハルには既にバレてんだよ。」
「そういうことですわ。私達は今、彼女の思惑通りに動いているんですわ。」
「な、なんだってー!」

タクトの驚愕の叫びで、彼の疑問が解決したことを悟ったアスは、再びネスに怒鳴った。

「でもそれでしたら、なおのことギリギリまで待つべきでっ」
「折角手に入れた特殊弾丸入りのコレ、試したくてしょーがねーって顔で見つめてたのは誰だよっ?」

ネスは勝ち誇った笑みを浮かべながら、アスに問い掛けた。
アスは小さく身体を撥ねさせ、それから慌てて反論した。

「ぅっ・・・そ・・・そんなこと・・・! ちっ・・・違いますわっ!!」
「違わねーなっ。アンタがなんと言おうが、結局、私と同じ類の人間さっ。・・・現に今、ホントは楽しいだろっ?」

アスが言葉を詰まらせたのを確認したネスは、高笑いをしながらアサルトガンを連射させた。
自分は違うと敢然と否定できない自身の性【さが】と、彼女に口論で負けたという悔しさにアスは身体を戦慄かせる。

「この・・・最低・・・女・・・っ!」

アスは呟くように言うと、雄叫びをあげ八つ当たりをするように次々と隊員を撃ち抜いていった。

「・・・っしゃぁ、このまま門まで直行だっ!」

~~~~

ネス達が治安部隊と交戦を開始して少し時が過ぎた頃、国立中央輝石研究所の一角にある隊長室にハルは居た。

「・・・そろそろ、突破した頃ね。」

ハルは隊長用の座席から、窓の外を眺めながら呟いた。
その傍らで直立不動の姿勢を全く崩さず立っていた副隊長が短く同意の言葉を述べる。

(・・・貴方の決意、見せてもらうわ、ラスちゃん。・・・いえ、ラグ=F=アルガス。私の、最愛なる・・・男性【ひと】!)

ハルは徐に席を立つと、一息ついてから副隊長へと向き直り口を開いた。

「全治安部隊に通達、以下の条件を満たす者を危険分子と認定、発見次第拘束、”都”まで連行しなさい。」

ハルは一旦言葉を切り、伏し目がちに俯く。
しかしすぐに勢いよく顔をあげると言葉を続けた。

「暴徒鎮圧用火器系輝石の使用を無条件で許可します。また、激しく抵抗する場合は、現場の判断にて如何なる輝石の使用も許可します。」
「・・・よろしいので?」

副隊長の問い掛けに、ハルは無言のまま振り返る。
そして、なにも聞かなかったかのように言葉を続けた。

「治安部隊の誇りに賭け、必ず捕らえるよう通達しなさい。・・・殺してでもね。」

副隊長はほんの僅かに間を空けた後、短く同意の言葉を発して踵を返す。

(命令である以上、遂行させよう。・・・だが、貴女は本当に、愛する弟が討たれても良いとお考えなのか? ・・・ハイン隊長。)

外へと出るなり、副隊長は全治安部隊へ伝えるため、伝令係に命令内容を伝える。
その最中、隊長室の窓の方を一瞥しながら呟く。

「・・・隊長。」

~~~~

すっかり陽も落ち、辺りが月の淡い明かりに包まれた頃、ネス達一行は北東へとボックスカーゴを走らせていた。
・・・否、正確には走らせざるを得なかった。

「・・・ネスさん達の言うとおりですね。」

ラスは呟くように、ネスとアスの『ハルの思惑通りに動いている』という推測を肯定した。
ネスは笑顔で大きく何度も頷くと、自慢げに口を開いた。

「この様子だと、ハルのヤツ。私らにサート地方へ向かって貰いてぇよーだな。」

聞き慣れない地名が飛び出し、思わずタクトは聞き返した。

「サート地方・・・?」

タクトの疑問にラスが慌てて答える。

「かっ、簡単に言えば、協会とダイア・スロンが最も激しくぶつかり合っている地方ですよっ!」
「・・・つまり、超危険地帯ってことだな。」
「・・・つまり、そういうこと、です。」

タクトはネスとアスを取り巻く雰囲気が心なしか爛々している感じがしていたので、何となくこれから向かう地がどんな場所か予想していた。
その予想が見事的中していたことを知り、タクトはラスと同時に大きく溜め息をついた。

「・・・アス。」

突然、ネスは低く僅かな殺気の篭った声音でアスを呼び、真っ直ぐに見据えた。
アスは彼女がこれから言わんとしていることを瞬時に悟り、険しい表情で見据え返す。

「・・・次はもう、容赦しない。邪魔になったら、斬り捨てる。」

それからネスはラスとタクトを一瞥して、呟くように付け加える。

「・・・タクト、ラスもだ。邪魔をするようならば・・・」
「・・・分かったよ。」
(と言っても、恐らくは邪魔をすることになると思うけどな。)

タクトはそう言うと一度だけ小さく頷き、それから周りに聞えないように短い溜め息をついた。
アスはネスの言葉を軽く鼻で笑い、真剣な表情で切り返した。

「私も、次は一切、躊躇わず・・・撃ちますわ。」

アスは態と大きな溜め息をつくと、勝ち誇った笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「でも、ご安心なさいっ。もし貴女が私の弾丸の前に倒れたとしても、用件を済ました後は貴女の望み通り、彼を冥府へと送って差し上げますわっ♪」
「・・・ほぉー、そりゃぁ頼もしいこったっ♪」

それから程なくして、一行の前にサート地方の象徴とも言うべき山脈がその黒く大きな影を現した・・・。

~つづく~
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