14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ
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14sure74
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ネスは面倒臭そうな表情で問い掛ける。
ハルは小さく溜め息をつくと、これから説明しようとしたと言わんばかりに、淡々と答える。
「・・・治安部隊が駐留する全集落での無断外出禁止、及び主要な街道の交通規制が始まるのよ。」
「ふーん・・・。」
「それに併せて、治安部隊の緊急増員と戦闘用装備の緊急配備も行われているわ。」
「・・・私らにそれに入れと?」
ネスの気だるそうな問い掛けにハルは首を横に振った。
「・・・二人には、もっと別の仕事を頼みたいのよ。」
「別の仕事・・・ってどういうことですの?」
「そうね、一言でいうならば特殊遊撃隊って感じの仕事かしら。私の指示する戦場で、私の出す指令をこなして欲しいのよ。」
「それは別に構いませんが・・・。今から行くんですの?」
アスの問い掛けにハルはゆっくりと頷く。
「そうよ。勿論、現場までの移動手段や諸経費は、私が全て手配するわ。だから、貴女達は・・・」
「・・・ちょっと、待ってください。」
三人の会話に、突然ラスが口を挟んだ。
三人の視線がラスに注がれ、ラスは少しだけ引いてしまう。
しかし、軽く首を横に振って持ち直すと、僅かに前に出て言葉を続ける。
「今すぐって・・・ネスさんはまだ怪我が完治してませんし、アスさんもまだ全快はしてないですよ?」
ハルは溜め息をついて、ラスへと振り向いて答えた。
「・・・ラスちゃん。心配なのは分かるけど、仕事を請けるかどうかは彼女達が決めることよ。」
「そ、それはそうですが・・・でも・・・!」
「・・・私は、構わねーよ。」
「ネスさんっ!?」
ラスは慌ててネスを説得する。
「無茶ですよっ! ネスさんっ! その身体では・・・」
ラスの支援をするべく、タクトは彼の意見に同調することにした。
「そっ、そうだぜネスッ! せめて怪我を治してからだな・・・」
「構わねーって言ってるだろ、ラス、タクト。」
二人は反論をしようとしたが、ネスの冷たい視線に思わず言葉を詰まらせてしまう。
アスはネスの顔を一瞥すると、溜め息混じりに口を開いた。
「・・・私も、構いませんわ。」
「そう、それなら早速・・・」
「・・・今夜まで、待ってください。」
ラスの言葉にハルがゆっくりと振り返る。
「ラスちゃん・・・。それは、貴方ではなく彼女達が決めることで・・・」
「お願いですっ! 今夜まで待ってくださいっ!」
ラスはハルに深く頭を下げた。
ラスの行動にハルは言葉を詰まらせ、立ち尽くしてしまう。
ラスは素早くアスの方を向き真っ直ぐ見据える。
「アスさんも、今夜まで休養を取ってくださいっ!!」
「私なら大丈夫で・・・」
「お願いですからっ! たまには身体を労ってくださいっ!」
ラスの真剣な眼差しに、アスは思わずたじろいだ。
そして、少しずつ頬が赤くなっていくのを感じ、アスは慌てて背を向けて答える。
「わっ! 分かりましたわよっ! そ、そこまで言うのでしたら、しし、仕方ありませんわねっ!」
「・・・ありがとうございます。」
ラスは満面の笑顔で深く頭を下げる。
そして、すぐに真剣な表情に戻りネスの方へ振り向いた。
ネスは顔を合わせるなり、舌打ちをして気だるそうに口を開く。
「・・・断らせて、くれねーんだろ。・・・好きにしろ。」
「ありがとうございます。」
深く頭を下げるラスを一瞥すると、ネスはベッドに倒れ込み、頭を抱えるように寝返りを打った。
ラスはハルの方へ向き直ると、呆然としているハルに問い掛ける。
「これで、文句はありませんよね、義姉さん?」
「・・・う、分かったわよ、ラスちゃん。・・・二人とも、今夜改めて依頼に来るわ。」
頭を下げようとするラスを手で制して、ハルは部屋から出て行った。
~~~~
外へと向かう途中、ハルは物思いに耽る【ふける】。
(ラスちゃんが、あんな真剣な眼で私を見たの・・・って。)
ハルは出口付近で立ち止まった。
(彼女と旅をすることを伝えにきた時・・・以来だわ。)
ハルはゆっくりと俯く。
(私の言うことには素直だったあのコが・・・初めて拒絶したあの時・・・。)
その当時、ハルはネスとの二人旅に断固として反対した。
彼女が手当たり次第に因縁をつけて回っていることを伝え聞いていたからだった。
彼女と一緒に居れば、必ず危険な目に巻き込まれる。
それが分かっていて一緒に行かせることなど、ハルには断じて許せなかった。
(あのコ、『どうしても、ついていく』と言って・・・最後には半ば逃げるように行ってしまった・・・。)
ハルはゆっくりと拳を握り締める。
(・・・彼女の何処に、そんなに惹かれたというのっ! あんな・・・あんな・・・女の何処にっ!!)
彼もいずれは愛する女性を見つけ、自分の手元を離れていくということは覚悟していた。
確かに悲しいし悔しいが、相手が例えどんな女性であろうと彼の気持ちを尊重するつもりではいた。
だがしかし、流石に彼女だけは認められそうにない。
彼女はまるで性質の悪い物の怪の類に、とり憑かれたかのように戦い傷付いている。
そんな人間に想いを寄せた所で、不幸な結末を迎えるのは明らかだろう。
(・・・できれば、貴方を傷つけたくないの。だから、強引に引き剥がすことを必死に我慢してきたの。)
ハルは強攻策を採らない代わりとして、ネスに極秘の仕事を与えていた。
報酬として彼女が知りたがっている情報を提供すると言えば、彼女に断る理由はない。
結果、極秘で仕事を請け負った彼女は、彼を振り回さざるを得なくなる。
流石の彼でも振り回され続ければ、いつかは音を上げてくれると思っていた。
(・・・でも貴方は、必死について行こうとしてる。あの時のように・・・強引に出て行こうとしてる。)
恐らく彼は、今夜にはあの家に居ないだろう。
自分が出ていくなり厳重警戒体制の中、密かに出発する準備をするに違いない。
(もし見つかれば、危険分子として問答無用で殺されても仕方ないというのに・・・。なのに、貴方は・・・。)
ハルは俯いたまま、徐に壁に拳を叩きつける。
(・・・ごめんね。・・・そろそろ・・・私っ・・・・・・限っ・・・界っ・・・かもっ!!)
~~~~
「・・・さて。」
(ごめんなさい、義姉さん。・・・僕はやはり、どうしても彼女の旅についていきたいのです。)
ハルが表へと出て行ったのを窓から確認したラスは、一息ついてからネスへ話し掛けた。
「あの、ネスさん・・・」
「好きにしろと言ったろ?」
ネスは寝転がったまま、一言だけ答えた。
ラスは笑顔で頷くと、タクトの傍へと歩み寄る。
「・・・オーケー、大したことはできねーとは思うけど手伝うぜっ。」
タクトはラスがやろうとしていることを悟り、彼が口を開くより先に同意した。
そして、ラスよりも先に扉の前へと立って彼を手招いた。
「助かります。タクトさん。」
「――お待ちなさい。」
二人が部屋の外へと出ようとした矢先、アスが二人を呼び止めた。
二人はアスの方を振り向く。
「私が行きますわ。」
「しかし、アスさんは休養を・・・」
「二人よりは、一人で行動した方が目立たないでしょう?」
「それは・・・そうですが・・・。」
アスの問い掛けに、ラスは言葉を詰まらせてしまった。
アスはその様子を一瞥してタクトに向かって問い掛ける。
「それに、タクトさんはこういうこと、慣れてないのではなくて?」
「ん・・・まぁ・・・そりゃぁそうだけどよ・・・。」
タクトは鼻先を軽く掻きながら苦笑いで頷く。
アスは二人を追い越し、扉を開けて外へとでた。
そして振り返り、満面の笑顔で口を開く。
「・・・私にとって出発準備を整えるのは、休養をとっているのと同じような物ですわ♪」
ラスは観念の溜め息を漏らして応える。
「・・・分かりました。お願いします、アスさん。」
アスは親指を立てて、片目を瞑ってみせると早速行動を開始した。
~~~~
窓から見える陽が、地平線の向こうへ沈み始めた頃である。
いつもなら家路に着く者で賑わっているはずの大通りが、今は時々物々しい装備をした治安部隊の人間が通り過ぎるだけであった。
彼らが鳴らす小さな靴音だけが響き、”都”が今までにない緊張感と静寂に包まれていることを物語っていた。
「・・・ただいま、戻りましたわ。」
窓の外を呆然と眺めていたラスとタクトに、後ろからアスが話し掛けた。
二人はアスの方へとゆっくりと振り向く。
「おかえり、アメリアさん。」「無事でなによりです、アメリアさん。」
二人は同時に片手を軽くあげて挨拶をした。
アスは余裕の笑顔で頷くと、担いでいた大きな袋を床に下ろし、中身を広げ出した。
一頻り広げると一度部屋からでて、また新しい袋を持ってきては広げる。
そういった作業を数回繰り返した所で、アスは溜め息混じりに口を開く。
「・・・これで、全部ですわ。」
「おおー・・・よくもまぁこの短時間で・・・流石だぜ・・・。」
「本当に凄いですね・・・アメリアさん。」
二人はアスの手に入れてきた物資の予想以上の多さに舌を巻いた。
一通りの確認を終えた三人は、荷造りの準備に取り掛かった。
その最中、ラスは突然なにかを思い出したかのような仕草をすると、輝石入れから1つの輝石を取り出しアスに差し出した。
「・・・なんですの?」
「えっと、アスさんが出掛けている間に、手持ちの輝石を使って”リンク”しておいた輝石です。」
ラスの言葉で、アスの身体が小さく撥ねた。
ラスは少し恥ずかしそうに上目遣いで頭を掻きながら言葉を続ける。
「その、剣を運んでもらったり、旅支度を手伝って頂いた御礼です。受け取ってください。」
アスは掠め取るように素早く輝石を取ると、その勢いで背中を向けて応える。
「そっ! そんなっ!! わわわっ! 私は、ただっ・・・ラスさんのために、その・・・っ!」
「色々と試行錯誤をしてはみたのですが、ハンドガンしか”リンク”させられなくてすみません・・・。」
「べべっ! 別に、構いませんことよっ!!」
(ラスさんが私のために”リンク”してくれたってだけでっ!! 私はっ!! 私はぁぁっ!!)
アスは受け取った輝石をきつく握り締める。
そしてゆっくり輝石入れにしまうと、大きく深呼吸をして勢いよく振り返った。
「大切に、使わせて貰いますわっ♪」
(コレは一生の宝物にしますわぁっ!!)
アスの満面の笑顔にラスは笑顔で頷くと、最後の荷物を作り終えた。
その直後である。
「・・・ほら、さっさと行くぞ。」
今までずっと横になったまま、静かにしていたネスが何時の間にか三人の傍らに腕を組んで立っていた。
ラスとタクトは思わず手に持っていた荷物を落としそうになり、慌てて持ち直す。
ネスは大きく溜め息をついて、車庫へと向かいだした。
「・・・って、ちょっと待てよ。まだ経路や出発時間について聞いてないぜ?」
タクトに呼び止められ、ネスは呆れた表情で振り返って答えた。
「聞くまでもねーよ。」
ネスはアスへと視線を移して言葉を続ける。
「強行突破するしかねーんだろ? 違うか?」
ネスの問い掛けにアスは含み笑いで答える。
「・・・その通りですわ。悔しいけど、彼女の敷いた”都”の警戒体制は完璧でしたわ。」
「てーっと、この荷物の量は・・・。」
「・・・強行突破してお尋ね者扱いされても暫くは旅ができるように、ってことだな。」
ネスの言葉に、タクトとラスは顔を見合わせ同時に俯いた。
ネスは不敵な笑みを浮かべ、軽く肩を回しながら言葉を続ける。
「まっ、私とアスがいりゃ大丈夫だ。心配ねーよ。・・・なぁっ?」
「・・・私一人で十分過ぎますわ。」
ネスの問い掛けに、アスは溜め息混じりに答える。
ネスは含み笑いで切り返すと、床に置いてある荷物の半分近くを器用に担ぎ上げ車庫へと降りて行った。
アスがそれを追うように残りの荷物を持って降りていく。
残されたタクトとラスが慌てて、手に持っていた荷物を持って後を追った。
ハルは小さく溜め息をつくと、これから説明しようとしたと言わんばかりに、淡々と答える。
「・・・治安部隊が駐留する全集落での無断外出禁止、及び主要な街道の交通規制が始まるのよ。」
「ふーん・・・。」
「それに併せて、治安部隊の緊急増員と戦闘用装備の緊急配備も行われているわ。」
「・・・私らにそれに入れと?」
ネスの気だるそうな問い掛けにハルは首を横に振った。
「・・・二人には、もっと別の仕事を頼みたいのよ。」
「別の仕事・・・ってどういうことですの?」
「そうね、一言でいうならば特殊遊撃隊って感じの仕事かしら。私の指示する戦場で、私の出す指令をこなして欲しいのよ。」
「それは別に構いませんが・・・。今から行くんですの?」
アスの問い掛けにハルはゆっくりと頷く。
「そうよ。勿論、現場までの移動手段や諸経費は、私が全て手配するわ。だから、貴女達は・・・」
「・・・ちょっと、待ってください。」
三人の会話に、突然ラスが口を挟んだ。
三人の視線がラスに注がれ、ラスは少しだけ引いてしまう。
しかし、軽く首を横に振って持ち直すと、僅かに前に出て言葉を続ける。
「今すぐって・・・ネスさんはまだ怪我が完治してませんし、アスさんもまだ全快はしてないですよ?」
ハルは溜め息をついて、ラスへと振り向いて答えた。
「・・・ラスちゃん。心配なのは分かるけど、仕事を請けるかどうかは彼女達が決めることよ。」
「そ、それはそうですが・・・でも・・・!」
「・・・私は、構わねーよ。」
「ネスさんっ!?」
ラスは慌ててネスを説得する。
「無茶ですよっ! ネスさんっ! その身体では・・・」
ラスの支援をするべく、タクトは彼の意見に同調することにした。
「そっ、そうだぜネスッ! せめて怪我を治してからだな・・・」
「構わねーって言ってるだろ、ラス、タクト。」
二人は反論をしようとしたが、ネスの冷たい視線に思わず言葉を詰まらせてしまう。
アスはネスの顔を一瞥すると、溜め息混じりに口を開いた。
「・・・私も、構いませんわ。」
「そう、それなら早速・・・」
「・・・今夜まで、待ってください。」
ラスの言葉にハルがゆっくりと振り返る。
「ラスちゃん・・・。それは、貴方ではなく彼女達が決めることで・・・」
「お願いですっ! 今夜まで待ってくださいっ!」
ラスはハルに深く頭を下げた。
ラスの行動にハルは言葉を詰まらせ、立ち尽くしてしまう。
ラスは素早くアスの方を向き真っ直ぐ見据える。
「アスさんも、今夜まで休養を取ってくださいっ!!」
「私なら大丈夫で・・・」
「お願いですからっ! たまには身体を労ってくださいっ!」
ラスの真剣な眼差しに、アスは思わずたじろいだ。
そして、少しずつ頬が赤くなっていくのを感じ、アスは慌てて背を向けて答える。
「わっ! 分かりましたわよっ! そ、そこまで言うのでしたら、しし、仕方ありませんわねっ!」
「・・・ありがとうございます。」
ラスは満面の笑顔で深く頭を下げる。
そして、すぐに真剣な表情に戻りネスの方へ振り向いた。
ネスは顔を合わせるなり、舌打ちをして気だるそうに口を開く。
「・・・断らせて、くれねーんだろ。・・・好きにしろ。」
「ありがとうございます。」
深く頭を下げるラスを一瞥すると、ネスはベッドに倒れ込み、頭を抱えるように寝返りを打った。
ラスはハルの方へ向き直ると、呆然としているハルに問い掛ける。
「これで、文句はありませんよね、義姉さん?」
「・・・う、分かったわよ、ラスちゃん。・・・二人とも、今夜改めて依頼に来るわ。」
頭を下げようとするラスを手で制して、ハルは部屋から出て行った。
~~~~
外へと向かう途中、ハルは物思いに耽る【ふける】。
(ラスちゃんが、あんな真剣な眼で私を見たの・・・って。)
ハルは出口付近で立ち止まった。
(彼女と旅をすることを伝えにきた時・・・以来だわ。)
ハルはゆっくりと俯く。
(私の言うことには素直だったあのコが・・・初めて拒絶したあの時・・・。)
その当時、ハルはネスとの二人旅に断固として反対した。
彼女が手当たり次第に因縁をつけて回っていることを伝え聞いていたからだった。
彼女と一緒に居れば、必ず危険な目に巻き込まれる。
それが分かっていて一緒に行かせることなど、ハルには断じて許せなかった。
(あのコ、『どうしても、ついていく』と言って・・・最後には半ば逃げるように行ってしまった・・・。)
ハルはゆっくりと拳を握り締める。
(・・・彼女の何処に、そんなに惹かれたというのっ! あんな・・・あんな・・・女の何処にっ!!)
彼もいずれは愛する女性を見つけ、自分の手元を離れていくということは覚悟していた。
確かに悲しいし悔しいが、相手が例えどんな女性であろうと彼の気持ちを尊重するつもりではいた。
だがしかし、流石に彼女だけは認められそうにない。
彼女はまるで性質の悪い物の怪の類に、とり憑かれたかのように戦い傷付いている。
そんな人間に想いを寄せた所で、不幸な結末を迎えるのは明らかだろう。
(・・・できれば、貴方を傷つけたくないの。だから、強引に引き剥がすことを必死に我慢してきたの。)
ハルは強攻策を採らない代わりとして、ネスに極秘の仕事を与えていた。
報酬として彼女が知りたがっている情報を提供すると言えば、彼女に断る理由はない。
結果、極秘で仕事を請け負った彼女は、彼を振り回さざるを得なくなる。
流石の彼でも振り回され続ければ、いつかは音を上げてくれると思っていた。
(・・・でも貴方は、必死について行こうとしてる。あの時のように・・・強引に出て行こうとしてる。)
恐らく彼は、今夜にはあの家に居ないだろう。
自分が出ていくなり厳重警戒体制の中、密かに出発する準備をするに違いない。
(もし見つかれば、危険分子として問答無用で殺されても仕方ないというのに・・・。なのに、貴方は・・・。)
ハルは俯いたまま、徐に壁に拳を叩きつける。
(・・・ごめんね。・・・そろそろ・・・私っ・・・・・・限っ・・・界っ・・・かもっ!!)
~~~~
「・・・さて。」
(ごめんなさい、義姉さん。・・・僕はやはり、どうしても彼女の旅についていきたいのです。)
ハルが表へと出て行ったのを窓から確認したラスは、一息ついてからネスへ話し掛けた。
「あの、ネスさん・・・」
「好きにしろと言ったろ?」
ネスは寝転がったまま、一言だけ答えた。
ラスは笑顔で頷くと、タクトの傍へと歩み寄る。
「・・・オーケー、大したことはできねーとは思うけど手伝うぜっ。」
タクトはラスがやろうとしていることを悟り、彼が口を開くより先に同意した。
そして、ラスよりも先に扉の前へと立って彼を手招いた。
「助かります。タクトさん。」
「――お待ちなさい。」
二人が部屋の外へと出ようとした矢先、アスが二人を呼び止めた。
二人はアスの方を振り向く。
「私が行きますわ。」
「しかし、アスさんは休養を・・・」
「二人よりは、一人で行動した方が目立たないでしょう?」
「それは・・・そうですが・・・。」
アスの問い掛けに、ラスは言葉を詰まらせてしまった。
アスはその様子を一瞥してタクトに向かって問い掛ける。
「それに、タクトさんはこういうこと、慣れてないのではなくて?」
「ん・・・まぁ・・・そりゃぁそうだけどよ・・・。」
タクトは鼻先を軽く掻きながら苦笑いで頷く。
アスは二人を追い越し、扉を開けて外へとでた。
そして振り返り、満面の笑顔で口を開く。
「・・・私にとって出発準備を整えるのは、休養をとっているのと同じような物ですわ♪」
ラスは観念の溜め息を漏らして応える。
「・・・分かりました。お願いします、アスさん。」
アスは親指を立てて、片目を瞑ってみせると早速行動を開始した。
~~~~
窓から見える陽が、地平線の向こうへ沈み始めた頃である。
いつもなら家路に着く者で賑わっているはずの大通りが、今は時々物々しい装備をした治安部隊の人間が通り過ぎるだけであった。
彼らが鳴らす小さな靴音だけが響き、”都”が今までにない緊張感と静寂に包まれていることを物語っていた。
「・・・ただいま、戻りましたわ。」
窓の外を呆然と眺めていたラスとタクトに、後ろからアスが話し掛けた。
二人はアスの方へとゆっくりと振り向く。
「おかえり、アメリアさん。」「無事でなによりです、アメリアさん。」
二人は同時に片手を軽くあげて挨拶をした。
アスは余裕の笑顔で頷くと、担いでいた大きな袋を床に下ろし、中身を広げ出した。
一頻り広げると一度部屋からでて、また新しい袋を持ってきては広げる。
そういった作業を数回繰り返した所で、アスは溜め息混じりに口を開く。
「・・・これで、全部ですわ。」
「おおー・・・よくもまぁこの短時間で・・・流石だぜ・・・。」
「本当に凄いですね・・・アメリアさん。」
二人はアスの手に入れてきた物資の予想以上の多さに舌を巻いた。
一通りの確認を終えた三人は、荷造りの準備に取り掛かった。
その最中、ラスは突然なにかを思い出したかのような仕草をすると、輝石入れから1つの輝石を取り出しアスに差し出した。
「・・・なんですの?」
「えっと、アスさんが出掛けている間に、手持ちの輝石を使って”リンク”しておいた輝石です。」
ラスの言葉で、アスの身体が小さく撥ねた。
ラスは少し恥ずかしそうに上目遣いで頭を掻きながら言葉を続ける。
「その、剣を運んでもらったり、旅支度を手伝って頂いた御礼です。受け取ってください。」
アスは掠め取るように素早く輝石を取ると、その勢いで背中を向けて応える。
「そっ! そんなっ!! わわわっ! 私は、ただっ・・・ラスさんのために、その・・・っ!」
「色々と試行錯誤をしてはみたのですが、ハンドガンしか”リンク”させられなくてすみません・・・。」
「べべっ! 別に、構いませんことよっ!!」
(ラスさんが私のために”リンク”してくれたってだけでっ!! 私はっ!! 私はぁぁっ!!)
アスは受け取った輝石をきつく握り締める。
そしてゆっくり輝石入れにしまうと、大きく深呼吸をして勢いよく振り返った。
「大切に、使わせて貰いますわっ♪」
(コレは一生の宝物にしますわぁっ!!)
アスの満面の笑顔にラスは笑顔で頷くと、最後の荷物を作り終えた。
その直後である。
「・・・ほら、さっさと行くぞ。」
今までずっと横になったまま、静かにしていたネスが何時の間にか三人の傍らに腕を組んで立っていた。
ラスとタクトは思わず手に持っていた荷物を落としそうになり、慌てて持ち直す。
ネスは大きく溜め息をついて、車庫へと向かいだした。
「・・・って、ちょっと待てよ。まだ経路や出発時間について聞いてないぜ?」
タクトに呼び止められ、ネスは呆れた表情で振り返って答えた。
「聞くまでもねーよ。」
ネスはアスへと視線を移して言葉を続ける。
「強行突破するしかねーんだろ? 違うか?」
ネスの問い掛けにアスは含み笑いで答える。
「・・・その通りですわ。悔しいけど、彼女の敷いた”都”の警戒体制は完璧でしたわ。」
「てーっと、この荷物の量は・・・。」
「・・・強行突破してお尋ね者扱いされても暫くは旅ができるように、ってことだな。」
ネスの言葉に、タクトとラスは顔を見合わせ同時に俯いた。
ネスは不敵な笑みを浮かべ、軽く肩を回しながら言葉を続ける。
「まっ、私とアスがいりゃ大丈夫だ。心配ねーよ。・・・なぁっ?」
「・・・私一人で十分過ぎますわ。」
ネスの問い掛けに、アスは溜め息混じりに答える。
ネスは含み笑いで切り返すと、床に置いてある荷物の半分近くを器用に担ぎ上げ車庫へと降りて行った。
アスがそれを追うように残りの荷物を持って降りていく。
残されたタクトとラスが慌てて、手に持っていた荷物を持って後を追った。