14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ
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14sure74
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車庫に降りるなり、アスは近くの壁に手を突いて項垂れた。
そして、溜め息混じりに呟いた。
「・・・なにを、しているんですの。私は・・・。」
アスはゆっくりと額を壁に押し付ける。
(彼女・・・。誤魔化そうとしてましたわ・・・。)
彼女が共倒れの危険を冒した理由を誤魔化していることを、あの時既にアスは感付いていた。
アスは今まで知り得た情報から、彼女が滅多なことでは目的遂行を断念し、それに加えて危険を冒す人物ではないと思っていた。
そして今回の場合、アスの見立てでは彼女が目的遂行を断念してまで、共倒れの危険がある選択をする理由は特に見当たらなかった。
そんな選択をする理由があるとすれば、それは相棒である彼を助ける機会を窺うためであるからだ。
彼女の弁を採るのであれば、彼女にとって彼はそんなことをするほど、大切な存在ではない。
従って、彼女に目的遂行を断念する理由はないはずである。
しかし実際には、彼女は目的遂行を断念し危険な道を選んだ。
(・・・やはり彼女は・・・ラスさんのことを・・・。)
アスは握り拳を作り、軽く壁に叩き付ける。
(それならそうと、素直にそう言えばいいものを何故・・・。誤魔化そうとするんですのっ・・・!!)
あの様子から察するに、彼女は恐らく彼女自身にも嘘をついているだろう。
彼女は自分の感情に嘘をつくような人物ではない、アスはそう思っていた。
その彼女がその感情に嘘をつき、彼を想う気持ちを否定しようとしている。
(人を・・・想うのは・・・悪いことではありませんのにっ!!)
何故そんなことをするのか、アスには理解することができなかった。
そして、恐らくは彼女自身ですら理解できていないこともなんとなくではあるが感じていた。
(ラスさんの想い・・・分からないワケでは・・・ないでしょうに・・・っ!!)
彼が彼女を大切に想っていることは、誰が見ても容易に想像がつく。
いくら鈍感な彼女でも、少しはそのことを感付いているだろう。
それだけにアスは彼女の言動が腹立たしくて仕方なかった。
(貴女は・・・っ! 私が、欲しくて仕方がない物を・・・持っているのですわよっ! それを・・・それをどうしてっ!)
アスは奥歯を食いしばり、拳に力を入れ全身を震わせる。
程なくして、大粒の涙が彼女の頬を伝い足元を滲ませる。
「・・・泣いて・・・どうするんですの・・・っ!!」
アスはきつく目を閉じ、左腕で乱暴に涙を拭う。
しかし、いくら拭っても涙が溢れアスの足元に滲みを作っていく。
「最低なのは・・・私・・・ですわっ!! 羨んで・・・妬んで・・・っ!!」
あんな仕打ちを受けてなお何故、彼は彼女を想うのかアスには理解できなかった。
唯一つ分かることは、彼はあんな仕打ちも帳消しになるほど、彼女に惚れ込んでいるということだ。
「あろうことか、『くれてやる』って言われて一瞬・・・心が揺らいで・・・っ! 負けそうになって・・・っ!」
あの時、買い言葉で貰ってやると彼を引き摺って出て行けば、彼は自分についてきてくれたに違いない。
しかし、それでは彼の気持ちは変わらないし、彼を酷く悲しませてしまうだろう。
アスはそこまで分かっていながら、一瞬でも実行に移そうと思ってしまった自分がとても情けなかった。
「・・・負け・・・ませんわっ!」
アスは呟くように言うと、更に歯を食いしばって無理矢理涙を止める。
(一筋縄ではいかないこと・・・。覚悟は、していたはずですわっ!)
アスはもう一度乱暴に涙を拭うと、壁から一歩離れて大きく深呼吸する。
「・・・絶対に・・・負けませんわっ!」
(貴女がそのつもりならば・・・私は、その間に実力で彼を振り向かせて見せますわっ!!)
彼女が決意の拳を車庫の壁に打ちつけた時である。
「・・・ちょっと、貴女。ひとの家を叩き壊すつもりかしら?」
「――ひゃぁっ!?」
突然横から声を掛けられ、アスは情けない声と供に飛び跳ねる。
そして、素早く身を固め声を掛けた人物を確めるべく視線を向けた。
(――えっ!?)
声の主の見るなり、アスは目を丸くして、すぐさま自分の知っている情報と照らし合わせる。
(緑色の瞳、桃色の髪、蒼い鉢巻、そして目元にホクロのある女性リンカー・・・間違いありませんわっ! 彼女はっ!!)
アスはその人物を指差して叫んだ。
「治安部隊統括部部長兼、”都”治安部隊隊長、”慈母神”ハイン=M=フランドールッ!?」
「・・・そういう貴女は確か、”疾風銃狂”【ゲイルトリガーハッピー】アメリア=L=リリスね。」
呆れた表情で立ち尽くすハルから、アスは飛び退くように距離を離し腰に手を回す。
しかし予想していた感触がなく、アスは驚愕の余り思わず3度ほど宙を掻いてしまう。
(・・・しまった! 輝石は上ですわっ!)
アスはあの剣を運んできた疲労のあまり、2階の居間に外して置いといたことを思い出した。
すぐにアスは肉弾戦の構えに切り替え、呆れた表情で立ち尽くしたままのハルに問い掛ける。
「どうして此処にいるんですのっ!?」
(・・・自らの手で私を捕らえるため、態々追いかけてきたとでもいうんですのっ!?)
「『どうして』って・・・寧ろ【むしろ】、私が聞きたいわ。・・・どうして、貴女が私の家に居るの?」
「・・・へっ?」
アスはあまりに衝撃的な回答に思わず構えを解いて聞き返す。
「『私の、家』って・・・」
「此処は紛れもなく、私の自宅よ。立場上、表向きは別人が住んでることになってるけどね。」
「本当・・・ですの・・・?」
「・・・嘘をついて、どうするのよ。」
溜め息混じりに答える彼女が嘘をついていないことを悟り、アスはあんぐりと口を開けたまま硬直してしまう。
ハルは情けない格好で硬直しているアスの脇を横切りつつ、話し掛ける。
「・・・丁度いいわ、貴女も上に来てくれるかしら。話があるのよ。」
(コマは、多い方がいいものね・・・。)
「えっ・・・ぁ・・・は・・・はい・・・ですゎ・・・。」
(この辺りに住んでるとは聞いてましたが・・・。まさか、此処でしたとは・・・。)
アスはハルに言われるがまま、後について2階へと上がって行った。
~~~~
アスが出て行った後、室内は日の出の柔らかな光では照らせないほど重く昏い空気に包まれていた。
そこでネスは床を見つめたまま、ラスは部屋の隅で座り込み壁に寄りかかって呆然としていた。
(彼女の言うとおり・・・です。)
ラスは小さく溜め息を漏らし、天井を見上げる。
(強くならなくては、って分かっているのに・・・。)
ラスは静かに拳を握り締める。
(彼女の強さに、気付けば僕は甘えて、つい先送りにしてばかりで・・・。)
ラスの拳が小刻みに震えだす。
(それで、いざとなったら『彼女は僕が守る』だなんて・・・。そんなのできるワケ、ないじゃないですかっ!)
ラスはゆっくりと奥歯を噛み締める。
(・・・強く、ならなくてはっ! 彼女を守るためにっ! 僕は・・・強く、なりたいっ!!)
ラスが決意を固めた刹那、勢いよく扉が開き一筋の蒼い流線がラスに襲い掛かった。
「ラスちゃぁぁーんっ!! 無事でよかったわぁぁぁぁあんっ!!」
「ね、義姉【ねえ】さっ!? うわっぷっ!?」
ラスの困惑を余所にハルは彼を抱きしめ何度も頬擦りをする。
「や、やめてくださいっ、義姉さんっ!!」
「もぉんっ! 恥ずかしがることないじゃないのぉんっ! ラスちゃぁーんっ!」
「というか、し、仕事はどうしたんですかっ!?」
「そんなのどうだっていいのよっ! ラスちゃんの安否の方が120倍大切なんだものぉんっ!」
「そ、そんな無責任でっ・・・ひぎぃっ!」
ハルはラスに圧し掛かるようにしてきつく抱きしめ、頬や額にくちづけの雨を浴びせる。
「・・・なん、ですの・・・あれ・・・っ!!」
その光景を目の当たりにしたアスはあまりに衝撃的な光景に、暫く呆然と立ち尽くしてしまう。
アスの拳が小刻みに震えているのを見たタクトが慌てて二人の関係を説明した。
「そっ! そのだなっ! ハルッ、いや、ハインさんは、ラ、ラスのお姉さんでよっ! ラスに会うといつもあんな調子なんだ!」
「・・・そうなん・・・ですの・・・。」
アスの握り拳から力が抜けていくのを確認したタクトは、安堵の溜め息をついて言葉を続ける。
「・・・ま、血は繋がってないんだけどな。」
「そう、血は繋がってないんですの・・・。・・・・・・へっ?」
(・・・あっ! しまっ・・・)
タクトはつい余計なことまで教えてしまったことに気付き慌てて口を塞いだ。
しかし時既に遅く、アスの拳が激しく戦慄き、彼女は大きく息を吸い込んでいた。
「・・・ちょっとハインさんっ!! いつまでやっているんですのっ!! 私に話があるんじゃなくてっ!!」
アスの凄まじい怒声に、すぐ傍に居たタクトは思わず飛び上がった。
ハルは不満そうな表情でアスへと首を向けて答えた。
「もぉ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないのよぉ・・・。怒ってばかりじゃ、可愛い顔が台無しよっ?」
「よっ! 余計なお世話よっ!! さっさと本題に入って頂けませんことっ!?」
「・・・そうだぜ。態々ラスの顔見るためだけにすっ飛んで来たワケじゃねーだろ?」
アスの言葉に、ネスが気だるそうな表情で呟くように同調する。
ハルは二人の視線を一身に受け、観念したかのように大きな溜め息をついて口を開く。
「・・・深夜、国立資料館が襲撃されたわ。」
「・・・そうか。」「・・・そ、そうなんですの。」
ハルの言葉に、二人はあたかも今知ったかのように相槌を打つ。
ハルはアスの反応のぎこちなさに少しだけ呆れながら、言葉を続ける。
「幸い、人的被害や建造物の被害は最小限に食い止められたわ。」
「あの辺りは、近い内に壊す予定だった古い工場や事務所が多いもんな・・・。」
ネスにこれから説明しようとしていた理由を気だるそうに先に言われ、ハルは僅かに眉を顰める。
しかし、すぐに一息ついて気を持ち直すと、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「でも、中央資料室は焼かれ、焼け跡から資料が持ち出された形跡が見つかったわ。」
「・・・でも中央資料室の資料って全部写しなのでしょう? では、大した被害ではないのではなくて?」
「・・・写しとは言え、重要な資料であることに変わりはないわ。それにね・・・。」
ハルは一旦言葉を切り、ネスとアスの顔を見てから口を開く。
「今回の襲撃は、私達リンカー協会と長らく対立しているダイア・スロンの手の者と判明したのよ。」
「ほほぉー・・・。」
ネスは欠伸混じりに相槌を入れる。
「彼らは今回の襲撃を足がかりに、長い膠着状態を打破しようと企んでいるとの情報があるの。」
「・・・外の騒々しさはそのためですのね?」
アスの問い掛けにハルは一度頷いて言葉を続ける。
「そうよ。彼らのあらゆる攻撃に備えるため、本日日の出を持って、厳重警戒体制が発令されることになるわ。」
「なんだ、そりゃ?」
そして、溜め息混じりに呟いた。
「・・・なにを、しているんですの。私は・・・。」
アスはゆっくりと額を壁に押し付ける。
(彼女・・・。誤魔化そうとしてましたわ・・・。)
彼女が共倒れの危険を冒した理由を誤魔化していることを、あの時既にアスは感付いていた。
アスは今まで知り得た情報から、彼女が滅多なことでは目的遂行を断念し、それに加えて危険を冒す人物ではないと思っていた。
そして今回の場合、アスの見立てでは彼女が目的遂行を断念してまで、共倒れの危険がある選択をする理由は特に見当たらなかった。
そんな選択をする理由があるとすれば、それは相棒である彼を助ける機会を窺うためであるからだ。
彼女の弁を採るのであれば、彼女にとって彼はそんなことをするほど、大切な存在ではない。
従って、彼女に目的遂行を断念する理由はないはずである。
しかし実際には、彼女は目的遂行を断念し危険な道を選んだ。
(・・・やはり彼女は・・・ラスさんのことを・・・。)
アスは握り拳を作り、軽く壁に叩き付ける。
(それならそうと、素直にそう言えばいいものを何故・・・。誤魔化そうとするんですのっ・・・!!)
あの様子から察するに、彼女は恐らく彼女自身にも嘘をついているだろう。
彼女は自分の感情に嘘をつくような人物ではない、アスはそう思っていた。
その彼女がその感情に嘘をつき、彼を想う気持ちを否定しようとしている。
(人を・・・想うのは・・・悪いことではありませんのにっ!!)
何故そんなことをするのか、アスには理解することができなかった。
そして、恐らくは彼女自身ですら理解できていないこともなんとなくではあるが感じていた。
(ラスさんの想い・・・分からないワケでは・・・ないでしょうに・・・っ!!)
彼が彼女を大切に想っていることは、誰が見ても容易に想像がつく。
いくら鈍感な彼女でも、少しはそのことを感付いているだろう。
それだけにアスは彼女の言動が腹立たしくて仕方なかった。
(貴女は・・・っ! 私が、欲しくて仕方がない物を・・・持っているのですわよっ! それを・・・それをどうしてっ!)
アスは奥歯を食いしばり、拳に力を入れ全身を震わせる。
程なくして、大粒の涙が彼女の頬を伝い足元を滲ませる。
「・・・泣いて・・・どうするんですの・・・っ!!」
アスはきつく目を閉じ、左腕で乱暴に涙を拭う。
しかし、いくら拭っても涙が溢れアスの足元に滲みを作っていく。
「最低なのは・・・私・・・ですわっ!! 羨んで・・・妬んで・・・っ!!」
あんな仕打ちを受けてなお何故、彼は彼女を想うのかアスには理解できなかった。
唯一つ分かることは、彼はあんな仕打ちも帳消しになるほど、彼女に惚れ込んでいるということだ。
「あろうことか、『くれてやる』って言われて一瞬・・・心が揺らいで・・・っ! 負けそうになって・・・っ!」
あの時、買い言葉で貰ってやると彼を引き摺って出て行けば、彼は自分についてきてくれたに違いない。
しかし、それでは彼の気持ちは変わらないし、彼を酷く悲しませてしまうだろう。
アスはそこまで分かっていながら、一瞬でも実行に移そうと思ってしまった自分がとても情けなかった。
「・・・負け・・・ませんわっ!」
アスは呟くように言うと、更に歯を食いしばって無理矢理涙を止める。
(一筋縄ではいかないこと・・・。覚悟は、していたはずですわっ!)
アスはもう一度乱暴に涙を拭うと、壁から一歩離れて大きく深呼吸する。
「・・・絶対に・・・負けませんわっ!」
(貴女がそのつもりならば・・・私は、その間に実力で彼を振り向かせて見せますわっ!!)
彼女が決意の拳を車庫の壁に打ちつけた時である。
「・・・ちょっと、貴女。ひとの家を叩き壊すつもりかしら?」
「――ひゃぁっ!?」
突然横から声を掛けられ、アスは情けない声と供に飛び跳ねる。
そして、素早く身を固め声を掛けた人物を確めるべく視線を向けた。
(――えっ!?)
声の主の見るなり、アスは目を丸くして、すぐさま自分の知っている情報と照らし合わせる。
(緑色の瞳、桃色の髪、蒼い鉢巻、そして目元にホクロのある女性リンカー・・・間違いありませんわっ! 彼女はっ!!)
アスはその人物を指差して叫んだ。
「治安部隊統括部部長兼、”都”治安部隊隊長、”慈母神”ハイン=M=フランドールッ!?」
「・・・そういう貴女は確か、”疾風銃狂”【ゲイルトリガーハッピー】アメリア=L=リリスね。」
呆れた表情で立ち尽くすハルから、アスは飛び退くように距離を離し腰に手を回す。
しかし予想していた感触がなく、アスは驚愕の余り思わず3度ほど宙を掻いてしまう。
(・・・しまった! 輝石は上ですわっ!)
アスはあの剣を運んできた疲労のあまり、2階の居間に外して置いといたことを思い出した。
すぐにアスは肉弾戦の構えに切り替え、呆れた表情で立ち尽くしたままのハルに問い掛ける。
「どうして此処にいるんですのっ!?」
(・・・自らの手で私を捕らえるため、態々追いかけてきたとでもいうんですのっ!?)
「『どうして』って・・・寧ろ【むしろ】、私が聞きたいわ。・・・どうして、貴女が私の家に居るの?」
「・・・へっ?」
アスはあまりに衝撃的な回答に思わず構えを解いて聞き返す。
「『私の、家』って・・・」
「此処は紛れもなく、私の自宅よ。立場上、表向きは別人が住んでることになってるけどね。」
「本当・・・ですの・・・?」
「・・・嘘をついて、どうするのよ。」
溜め息混じりに答える彼女が嘘をついていないことを悟り、アスはあんぐりと口を開けたまま硬直してしまう。
ハルは情けない格好で硬直しているアスの脇を横切りつつ、話し掛ける。
「・・・丁度いいわ、貴女も上に来てくれるかしら。話があるのよ。」
(コマは、多い方がいいものね・・・。)
「えっ・・・ぁ・・・は・・・はい・・・ですゎ・・・。」
(この辺りに住んでるとは聞いてましたが・・・。まさか、此処でしたとは・・・。)
アスはハルに言われるがまま、後について2階へと上がって行った。
~~~~
アスが出て行った後、室内は日の出の柔らかな光では照らせないほど重く昏い空気に包まれていた。
そこでネスは床を見つめたまま、ラスは部屋の隅で座り込み壁に寄りかかって呆然としていた。
(彼女の言うとおり・・・です。)
ラスは小さく溜め息を漏らし、天井を見上げる。
(強くならなくては、って分かっているのに・・・。)
ラスは静かに拳を握り締める。
(彼女の強さに、気付けば僕は甘えて、つい先送りにしてばかりで・・・。)
ラスの拳が小刻みに震えだす。
(それで、いざとなったら『彼女は僕が守る』だなんて・・・。そんなのできるワケ、ないじゃないですかっ!)
ラスはゆっくりと奥歯を噛み締める。
(・・・強く、ならなくてはっ! 彼女を守るためにっ! 僕は・・・強く、なりたいっ!!)
ラスが決意を固めた刹那、勢いよく扉が開き一筋の蒼い流線がラスに襲い掛かった。
「ラスちゃぁぁーんっ!! 無事でよかったわぁぁぁぁあんっ!!」
「ね、義姉【ねえ】さっ!? うわっぷっ!?」
ラスの困惑を余所にハルは彼を抱きしめ何度も頬擦りをする。
「や、やめてくださいっ、義姉さんっ!!」
「もぉんっ! 恥ずかしがることないじゃないのぉんっ! ラスちゃぁーんっ!」
「というか、し、仕事はどうしたんですかっ!?」
「そんなのどうだっていいのよっ! ラスちゃんの安否の方が120倍大切なんだものぉんっ!」
「そ、そんな無責任でっ・・・ひぎぃっ!」
ハルはラスに圧し掛かるようにしてきつく抱きしめ、頬や額にくちづけの雨を浴びせる。
「・・・なん、ですの・・・あれ・・・っ!!」
その光景を目の当たりにしたアスはあまりに衝撃的な光景に、暫く呆然と立ち尽くしてしまう。
アスの拳が小刻みに震えているのを見たタクトが慌てて二人の関係を説明した。
「そっ! そのだなっ! ハルッ、いや、ハインさんは、ラ、ラスのお姉さんでよっ! ラスに会うといつもあんな調子なんだ!」
「・・・そうなん・・・ですの・・・。」
アスの握り拳から力が抜けていくのを確認したタクトは、安堵の溜め息をついて言葉を続ける。
「・・・ま、血は繋がってないんだけどな。」
「そう、血は繋がってないんですの・・・。・・・・・・へっ?」
(・・・あっ! しまっ・・・)
タクトはつい余計なことまで教えてしまったことに気付き慌てて口を塞いだ。
しかし時既に遅く、アスの拳が激しく戦慄き、彼女は大きく息を吸い込んでいた。
「・・・ちょっとハインさんっ!! いつまでやっているんですのっ!! 私に話があるんじゃなくてっ!!」
アスの凄まじい怒声に、すぐ傍に居たタクトは思わず飛び上がった。
ハルは不満そうな表情でアスへと首を向けて答えた。
「もぉ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないのよぉ・・・。怒ってばかりじゃ、可愛い顔が台無しよっ?」
「よっ! 余計なお世話よっ!! さっさと本題に入って頂けませんことっ!?」
「・・・そうだぜ。態々ラスの顔見るためだけにすっ飛んで来たワケじゃねーだろ?」
アスの言葉に、ネスが気だるそうな表情で呟くように同調する。
ハルは二人の視線を一身に受け、観念したかのように大きな溜め息をついて口を開く。
「・・・深夜、国立資料館が襲撃されたわ。」
「・・・そうか。」「・・・そ、そうなんですの。」
ハルの言葉に、二人はあたかも今知ったかのように相槌を打つ。
ハルはアスの反応のぎこちなさに少しだけ呆れながら、言葉を続ける。
「幸い、人的被害や建造物の被害は最小限に食い止められたわ。」
「あの辺りは、近い内に壊す予定だった古い工場や事務所が多いもんな・・・。」
ネスにこれから説明しようとしていた理由を気だるそうに先に言われ、ハルは僅かに眉を顰める。
しかし、すぐに一息ついて気を持ち直すと、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「でも、中央資料室は焼かれ、焼け跡から資料が持ち出された形跡が見つかったわ。」
「・・・でも中央資料室の資料って全部写しなのでしょう? では、大した被害ではないのではなくて?」
「・・・写しとは言え、重要な資料であることに変わりはないわ。それにね・・・。」
ハルは一旦言葉を切り、ネスとアスの顔を見てから口を開く。
「今回の襲撃は、私達リンカー協会と長らく対立しているダイア・スロンの手の者と判明したのよ。」
「ほほぉー・・・。」
ネスは欠伸混じりに相槌を入れる。
「彼らは今回の襲撃を足がかりに、長い膠着状態を打破しようと企んでいるとの情報があるの。」
「・・・外の騒々しさはそのためですのね?」
アスの問い掛けにハルは一度頷いて言葉を続ける。
「そうよ。彼らのあらゆる攻撃に備えるため、本日日の出を持って、厳重警戒体制が発令されることになるわ。」
「なんだ、そりゃ?」