14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

誓いの輝石~Avenge~ > #12 > パートB


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「・・・お客、来ないですね。」

日没前、閉店時間も間近に迫った頃、一人きりの店内でラスは呟いた。
元々客の入りは悪いが、今日は雨のせいか余計に悪い。
ラスは街道に面したガラスを拭きながら、恨めしげに灰色の空を見上げた。

「・・・まぁ、かと言って沢山来られても、僕一人では捌ききれないのですが。」

ラスは失笑しながら、何気なく街道の方へと視線を流してみた。
その時である。

「・・・?」

ラスは街道を挟んだ向かい側の路地に、黒い塊のような物を見かけた気がした。

(・・・あれは?)

驚いたラスは一度外した視線を再び合わせ、その正体を探る。
ラスの見かけた黒い塊の正体は、真黒に汚れた人間であった。
服装の辛うじて原型を止めている部分から、ラスはそれが女性であると推測した。
彼女は千鳥足で此方へ向かってきている。

(彼女、今にも倒れそうですね。とりあえず、声を掛けた方が良いかもしれません・・・ね・・・っ!?)

その時、ラスは彼女と目が合った。
真黒な身体に血のような赤黒く鋭い瞳は良く映え、光を失っている様はまるで小さな血溜りのようだった。
その二つの血溜りの中、僅かに自分の姿を見た瞬間、ラスの身体に悪寒が走る。
しかし同時に、ラスは何故か彼女から視線を逸らすことができなくなっていた。

(とても怖い感じのする瞳ですが・・・少しでも目を離したら、彼女が何処かへ消えてしまいそうな気が・・・っ!?)

突然、彼女はその場に崩れ落ち、動かなくなった。
そこは街道の真ん中で、滅多に通らないとは言えカーゴの通り道である。
あのままではいつ轢【ひ】かれてもおかしくない。

(と、兎に角安全な所まで運ばないとっ!)

ラスは着の身着のままで飛び出し、彼女の傍まで走り寄った。

(うっ・・・凄い血の臭い・・・ですね・・・。)

彼女の全身は泥と砂、それから血によって黒く染められていた。
この雨の中でもあまり洗い落とされていない所を見ると、相当年季が入ってると見るのが妥当だろう。
意識がぐらつきそうになる臭いに耐え、ラスは彼女の横にしゃがみ声を掛ける。

「大丈夫ですか!? 僕の声、聞えてますか!?」
「く・・・・・・ぁぁ・・・・・・た・・・り・・・な・・・・・・ま・・・だ・・・・・・ぅっ・・・。」

彼女はラスの呼び掛けには答えず、小さな声で一度だけなにかを呟きそのまま黙り込んだ。
ラスは慌てて彼女の手を取り、脈を確かめる。

(とりあえず、まだ脈はあるようですね・・・。)

次いで、ラスは彼女の体温を診るため額に手を当てる。

「――わっ!? 凄い熱っ!?」

ラスはその予想外の熱さに思わず手を引っ込めた。
あまり医学には明るくないが、少なくともこのまま雨に晒しておくのは良くないだろう。
そう考えたラスは、彼女をとりあえず自室まで運ぶことにした。
ラスは彼女を背負うため、両肩に手を掛け上半身を起そうとする。

「・・・えっ?」

予想外の超重量に、ラスは思わず彼女から離れた。
そして全身をくまなく見て、原因を探してみる。
体型は女性としては標準的、服はどう見ても重そうには見えない。
背中に背負った剣はただの剣・・・。

(・・・ただの剣、にしてはなんだか凄い存在感ですね。)

ラスは自分の感性を確認してみることにした。
鞘と柄に手をかけ、ありったけの力で持ち上げてみる。

(なっ・・・なんですか、この剣っ!? 軽く、人間一人分以上の重量はありますよっ!?)

少し持ち上げただけなのに、ラスは肩で息をしていた。
今までの人生で、こんなに重い剣を持ったのは初めてである。
きっと、ただの剣ではないのだろう。
しかし、この剣の正体がなんであれ、このままでは彼女を運べそうにない。
そう考えたラスは、とりあえず剣をその場に残して行くことにした。

(ごめんなさい、旅のファイターさん・・・。でも、この重さなら恐らく誰も盗れやしませんので、少しの辛抱です。)

ラスは鞘のベルトを外して剣をどける。
ドサリと剣が地面に落ちた音とは思えない鈍い音がなり、ラスは少しだけ身を縮める。
ラスは一度深呼吸をして、再び彼女を背負うために両肩に手を掛け起した。

「・・・っとわぁっ!?」

うっかり剣をどかした時の力加減で彼女を持ち上げてしまい、勢いでラスはよろけてしまう。
すぐに体勢を立て直したラスは、安堵の溜め息をついてから改めて彼女を背負い、店の上にある自室へと向かった。

~~~~

ラスは彼女をベッドへと寝かせると、外に置いてきた剣を自室へと上がる階段の入口辺りまで運んだ。
そして、再び彼女の様子を見るため自室へと上がる。

(・・・うーん、このままでは流石に臭いが酷すぎますね。とりあえず、この汚れを拭きとってみましょう。)

そうすれば少しはマシになるかもしれないと思い、ラスは水場から水を桶に汲んだ。
そして、ベッドの傍まで運び、布巾を水に浸け固く絞る。

(できれば全身を拭いてあげたいのですが・・・女性の服を男性の僕が脱がすワケにもいきませんし・・・。)

ラスはそう考え、とりあえず彼女の頭と顔、それと両腕両足の汚れだけ拭きとることにした。

(・・・しかし、こうして見るとかなり奇麗な女性【ひと】ですね。)

彼女の顔についた汚れを拭き取りながら、ラスは彼女の顔を見つめた。
汚れの取れた彼女の顔立ちはとても凛々しく、美しいものだった。
右目の大きな刀傷は、とてもおぞましくて痛々しいはずなのに、何故か魅力的にも見えていた。
ラスは思わず手を止め見入ってしまう。

「・・・って!? 僕はなにを考えているんですかっ!? ぼ、僕はただ彼女を助けたいだけでっ!!」
「・・・・・・んっ・・・・・・んぅ・・・。」
「――ひゃぁっ!?」

ラスは突然の彼女の呻き声に面食らい、情けない叫び声と同時にその場を飛び退いた。
直後、彼女はゆっくりと目を開ける。
ラスは彼女に声を掛けてみることにし、恐る恐る近づいた。

「・・・こ・・・・・・此処・・・は・・・?」
「あ、あの・・・。」
「・・・・・・そう・・・か。」

彼女は一度深く呼吸をすると、ゆっくり身体を起そうとする。
ラスは慌てて彼女の肩を押さえ再び寝かそうとした。

「・・・・・・なんの、つもりだ?」
「そっ、それは此方の台詞ですよっ!? そんな状態でなにをするつもりだったのですかっ!?」
「なに・・・って、・・・出て行く・・・だけだ。」
「出て行くって、そんなのは無理ですよっ!」
「うるせぇぞ・・・お前。・・・私の・・・邪魔を・・・するな・・・。」
「邪魔って!! 僕は貴女の身体を心配して――うわっ!?」

突然、彼女は身体を撥ね上げてラスの体勢を崩すと、ベッドから転げ落ちるようにラスを床へ押し倒す。
そして、ラスの上に跨って首に両手をかけた。

「うぐ、ぐっ・・・苦し・・・!!」
「・・・邪魔を・・・するなら・・・消す・・・だけだ・・・。」
「だ・・・だから・・・僕は・・・ぐぅっ・・・!!」

彼女の両手に更に力が入る。
ラスは縛めを解こうと彼女の両手に手を掛け引くが、まるで効果がなかった。

「うぐっ・・・くっ・・・ぁっ・・・!」
(くっ・・・もう・・・意識が・・・。)

ラスの意識が白濁していった時、何故かラスの縛めが解かれた。
ラスは原因を探るため、頭を振って意識を無理矢理覚醒させる。

「く・・・邪魔・・・を・・・す・・・・・・ぅぁ・・・。」
「だっ、大丈夫ですかっ!?」

ゆっくりと崩れ落ちてくる彼女に、ラスは思わず声を掛ける。
彼女はラスの呼びかけに応えることもなく、ラスに圧し掛かったまま気を失った。
ラスはそっと彼女をどけて立ち上がり、再び彼女をベッドへと運んだ。

~~~~

翌朝。
床にしゃがみ込みベッドに寄りかかるようにして寝ていたラスは、彼女の呻き声で目を覚ます。
ラスが顔を起こすと、既に目を覚ましていた彼女と目が合った。
ラスはまた襲われると思って一瞬だけ身を固める。
しかし、彼女にその気はないを悟り、ラスは恐る恐る話しかけた。

「・・・あっ、あの。」
「・・・すまなかった。」
「えっ?」

ラスは突然の謝罪に戸惑い、聞き返す。

「な・・・なにが・・・?」
「アンタを・・・殺そうとした・・・。」

彼女は申し訳なさそうに視線を逸らし黙り込んだ。

「・・・ああ。そのこと、ですか。・・・気にしてませんよ。」
「・・・えっ?」

ラスの笑顔の意味が分からず、彼女は聞き返す。

「気にして・・・ない・・・? アンタ、私が気を失わなかったら・・・」
「僕はこうして、生きてます。貴女も無事、目を覚ましました。それで、いいじゃないですか。少なくとも、僕はそれでいいかなと思ってます。」
「・・・・・・。」

彼女は暫しの沈黙の後、一度溜め息をついてから再び口を開いた。

「・・・でだ。いつまで、私の手を握ってるつもりだ?」
「えっ・・・? ――っ!?!!」

彼女の指摘に、ラスは今までずっと彼女の手を握っていたことを知り、慌てて手を離した。

「ごごごっ、ごめんなさいっ! ホントに、も、申し訳ないですっ!」
「・・・何故、謝るんだ? ・・・耳まで真っ赤にしてさ。」
「なな、何故って! そっ、それはそのっ!」
「・・・・・・アンタ、面白いヤツだな。」

彼女はラスに笑顔を見せる。
彼女が初めて見せた笑顔に釣られラスは苦笑した。
二人の笑い声が暫く続いた後、彼女は急に真剣な表情になりベッドから起き上がろうとする。
ラスが慌てて止めに入ろうとするが、彼女は視線でそれを制した。
彼女はゆっくりと身体を起こしベッドから降りた。

「・・・世話になったな。」
「本当に、大丈夫なのですか? 一度、医療施設でちゃんと診察を受けた方が・・・」
「――っ!?」

ラスがベッドから降りる彼女に、医療施設へ行くことを勧めていた時である。
ラスは突然彼女に飛びつかれ、昨晩と同じように床へと押し倒された。
その直後、窓が割られる音と、なにかが床に落ちる音が部屋に響く。
一瞬の静寂の後、耳を劈く轟音と同時に熱を帯びた突風が巻き起こった。

「ぐっ!! う゛ぅ゛ぅ゛・・・っ!!」
「!?」

ラスはすぐ傍で苦痛に耐える呻きが聞こえ驚愕した。
同時に、肉が焼ける臭いが漂う。

(なっ、なんでボムが僕の部屋にっ!? って、今はそれよりもっ!!)
「――だっ!? 大丈夫ですかっ!?」
「アンタ・・・生きてる・・・みたい・・・だな・・・・・・っ。」

ラスの問い掛けに、彼女は肩で荒く呼吸をしながら笑顔を見せた。

「『生きてるみたい』って、人の心配をしている場合ではないでしょうっ!? 大丈夫なんですかっ!?」
「・・・・・・このまま、静かになるまで黙ってろ。」
「だっ、黙ってろって・・・」
「黙ってるんだ。・・・いいな?」

彼女の怒気を含んだ低い声に、ラスは言葉を失った。
ラスが大人しくなったことを確認した彼女は、歯を食いしばってゆっくりと立ち上がる。

「この借りは・・・いつか、返しにくる。・・・じゃな。」

彼女は辛うじて原型を留めていた扉を蹴破って出て行くと、そのまま階下へと飛び降りた。
ラスはその様子をただ、黙って見ていることしかできなかった。
彼女の姿が階下へ消えた直後、店の方で複数の怒声と発砲音が鳴り響いた。
それから暫くして、店の外へとその騒ぎが遠ざかっていくのをラスは感じ、ゆっくり立ち上がる。

(・・・静かに、なりましたね。)

ラスは店の様子を確認するため階段を降りた。
店中に争った跡があり、売り物が酷く散乱していた。
しかし、なぜか倒れている者の姿は一人も居なかった。
彼女なりのせめてもの配慮だったのだろう。
ラスはそう思い、最後に見た彼女の姿を思い浮かべる。

「・・・彼女、大丈夫なのでしょうか?」

ラスは騒ぎが遠ざかって行った方向へと視線を移す。
嘗て扉があった場所には、爆発物で開けられたような大きな風穴が開いていた。
ラスはその光景を前に彼女のことが心配になった。

(あんな状態で戦って・・・無事なワケがありませんよね・・・。)

ラスは大きく深呼吸をしてから、軽く身支度を済ませる。
それから店の様子をもう一度見回してから、彼女を捜すため外へと走っていった。