14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

誓いの輝石~Avenge~ > #11 > パートC

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しかし、エインの喜びは長くは続かなかった。
固唾を呑んで事の次第を見守っていた観客が、歓声で湧き上がったからである。

「あ・・・姉貴・・・あれ・・・・・・。」
「・・・う、うそ・・・。」

歓声の原因は至極単純。
あのまま気を失うはずだったネスが、荒く息をしながら立ち上がろうとしている。
その様子に二人は言葉を失った。

「――ひっ!?」

二人とネスの目が合った。
二人は歳相応の少女みたいな、情けない悲鳴を小さく上げて一歩後退る。
精神の奥底に幾重にも鍵を掛け閉じ込めていた、”恐怖”という感情が暴れ出す。
一つ、また一つと鍵が壊れ鎖が千切れ飛ぶ。
分厚い扉が全身を戦慄かせ、不規則に鳴る轟音に合わせて撓る。

「あ・・・あぁ・・・ぅ・・・ぁぁ・・・っ・・・ぁ・・・。」

扉の戦慄きは身震いという形で表に現れる。
隣に居る生き写しに助けを求めたくとも歯の根が合わず、まともに喋れない。
二人は時折視線を合わせながら、独りで強大な化物を相手にする。

「ま・・・まだ・・・・・・今なら・・・・・・まだっ・・・!!」

方や、一歩前へ。

「ぁ・・・ぁぁ・・・・・・ぃ・・・ぃゃ・・・!!」

方や、一歩後ろへ。
対峙した化物を相手に二人は正反対の行動を採った。
一歩前へ出た方、アインはそのまま一気に加速して距離を詰めながら拳を引く。

「これで・・・終わらせてやるっす!!」

アインは祈るような思いで拳を放つ。
しかし、アインの拳は宙を捉えただけだった。
驚愕したアインの目に映るのは、水平に流れる血の様に真っ赤な閃光。

「うがっ!!」

ネスの当身にも似た飛び膝蹴りがアインに直撃する。
アインは身体をくの字に折らせる。

「ぎゃんっ!!」

ネスの手刀がアインの後頭部を叩く。
アインはその衝撃で顔面から地面へと倒れた。
白目を剥き、だらしなく口を開いたまま全身を時折小さく痙攣させる。

「・・・・・・アイ・・・ン・・・?」

エインは目の前で地に伏したままの妹の名を呟く。
試合のことも恐怖のことも忘れ、妹の傍へと駆け寄り抱き起こす。

「アイン・・・うそでしょ・・・だって・・・!」

エインは何度もアインの身体を揺らす。
この場で人が死ぬことはありえない。
特に、今対峙している者は命よりも勝つことを優先している。
人を殺めればどうなるかぐらいは分かっているはずだ。

「・・・ひっ!?」

背後に気配を感じ振り返ると、そこには真っ赤な目をした化物が立っていた。
冷たく鋭い視線がエインの心を抉る。

「何かを・・・守りたいなら・・・」
「・・・えっ?」
「大切なヤツを・・・本当に守りたいなら・・・躊躇うな!全力を尽くせ!」

突然の叱責にエインは抱いていたアインを落としそうになる。

「お前があの時、私を殺せばこうならずに済んだ!」
「そん・・・な・・・!?」
「お前が躊躇えば!そのツケを誰かが背負わなきゃいけなくなるんだ!」
「!!」

ネスの叱責でエインは少しだけ冷静さを取り戻した。
そして、腕を通して伝わってくる温もりで、アインが気を失っているだけだと知る。

(私が躊躇ったせいで・・・アインは・・・!!)

アインの身体には、この戦闘で受けた物以外にも沢山の傷跡が刻まれていた。
エインは久しぶりに至近距離で見る妹の、凄惨な姿に言葉を失う。

(アインが・・・こんなに傷だらけだった・・・なんて・・・!!)

思い起こしてみればアインはいつだって矢面に立ち、私はその後ろで彼女の援護をしていた。
・・・否。援護なんてしていなかった。
本当に援護をしていたのならば、こんなに傷だらけになるはずがない。

(『お前が躊躇えば!そのツケを誰かが背負わなきゃいけなくなるんだ!』)

確かにその通りだった。
彼女に刻まれた傷跡には、私が受けるべき傷跡も含まれている。
何があってもアインを守りたい。
そう思っていたのに結局の所、私は私が一番可愛いのだ。

(ち、ちがっ・・・私、は・・・!!)

否定したいのに、その言葉が全く出てこない。
それもそのはず、目の前に圧倒的存在感を放つ物的証拠があるのだ。
エインは弱々しく首を横に振る。

「・・・で、どーするんだ?」
「ぇっ・・・?」
「私と戦うか、このまま逃げるか・・・。さっさと選べ。」
「ぅっ・・・わ・・・わたし・・・。」

喧騒の中、この場だけが静まり返る。
エインにはまるで時が止まったかのように感じられた。
何か言わなくてはと思うが、全く声が出せない。

「わた・・・し・・・その・・・」

エインはもう一度、アインの姿を見る。
そして、決心した。

(・・・戦うんだ・・・今度こそ、アインのために・・・!)

エインはゆっくりとアインの身体を下ろす。
そして、ネスの方へと振り返りながら立ち上がる。

「た・・・倒す・・・さ。私・・・アンタを・・・倒すさねっ!」

その時である。
エインの背後で乾いた音が1回鳴った。
エインは驚き、慌てて振り向く。
そこには天高く片腕を突き出したアインの姿があった。
小さく痙攣する手の中には、小さなハンドガンが握られていて、音の主の証拠たる硝煙を発していた。

「・・・ア、アイン選手の輝石の使用を確認!よって、この試合エイン、アイン組の反則負けとする!」
「アイン!?なんでさっ!?」

エインは再びアインを抱き起こし問い詰める。
アインは今にも消えてしまいそうな小さな声で答えた。

「あ・・・姉貴は・・・優しくて奇麗な・・・姉貴のままで居て欲しいっす。」
「アイン・・・。」
「誰かと戦ったり・・・誰かを殺したりするのは・・・アタイの役目・・・汚れていくのはアタイだけで十分っす!」
「で、でも!これじゃ・・・私達は・・・!!」
「大丈夫っす・・・姉貴は・・・アタイが命に代えても棄てさせたりしないっす・・・。」

アインの触れたら崩れそうな笑顔に、エインは返す言葉を失った。
エインは何度も彼女の名を呼びながら抱きしめる。
ネスは咽び泣く姉と精一杯の笑顔を崩さない妹に背を向ける。

「な、なんという波乱に満ちた大会だったのでしょうか・・・。私が殆ど試合の実況をすることができないまま、終わってしまいました・・・。」

実況者が今大会の総括を簡単に述べる。
競技場内がさんざめき、唖然としていた運営員が思い出したように其々の仕事を再開する。
行き交う運営員の中をネスはゆっくりと歩く。
そして、入退場口の辺りで立ち止まった。

「・・・もっと寝ててもよかったんだぜ?」
「残念、貴女がしっかり約束を守るか心配で、うかうか休んでもいられませんわ。」
「うわっ、ひでぇ、信用してねーの。」
「あらっ、貴女の今までの言動から察すれば、信用するにたる人物かどうか明らかですわよ?」

アスはネスの脇を通り過ぎるように会場へと入る。
ネスは軽く溜め息をついてからアスの後を追って舞台へと向かった。

~~~~

二人の優勝を祝福する式典が行われている頃、頭を抱える人物達が居た。

「くそっ!予選の時から考えうる最強の敵をぶつけ、本選では我が国の精鋭をぶつけたというのに!」
「アメリアとかいう伏兵を反則負け覚悟で潰させたのに、あの双子めしくじりおって!!」
「こうなれば今すぐにでも傭兵どもを乱入させ、彼女らを殺すか?今なら消耗しているし或いは・・・」
「いや、この大会は協会の目が厳しい。乱入騒動をウマく反協会派のテロに見せても、それを理由に来年以降開催禁止令が出されるやもしれん。」
「しかしだな、このまま放置しておけば我々の本業、傭兵派遣に更なる悪影響を及ぼすぞ。」

彼らを重苦しい空気が包みこむ。
一度ならず二度までも、しかも今回は選りすぐりの傭兵を投入したにも関わらず防ぐことができなかった。
このままではこの国の傭兵は絶対無敵、唯一無二の存在ではなくなってしまう。
そうなれば顧客は減少し、ゆくゆくはこの国の崩壊に繋がるだろう。

「かくなる上は今派遣している全傭兵をできる限り呼び戻し、反協会派の夜襲に見せかけアイツらを殺すのだ。」
「そうだな・・・。彼女らを生かしてこの国から出さねば、まだ弁明のしようもあるはずだ。」

彼らは暫しの沈黙をもって夜襲案を受け入れると、其々の役割を果たすため解散した。

~~~~

「あ・・・アメリア=L=リリス様と、・・・ネス様ですね・・・?」

式典も終わり、賞金、賞品を受け取った二人は競技場を後にするべく歩き出す。
そんな折、案内係が大会開始時に預かっていた二人の装備を両手に抱えながら現れた。

「お、お預かりしていた・・・装備を・・・うわぁっ!?」

見た目に似合わない重さを誇る剣のせいで重心がうまく調節できず、案内係の身体が前方へと投げ出される。

「ったく、無理すんなって。一言言ってくれりゃ取りに行ったのによ。」
「そうですわよ。怪我でもなさったら如何なさるおつもりですの?」

ネスは宙に舞った装備を素早く掴み集め、アスは投げ出された彼の身体を支えた。
そして呆れ顔で彼の無茶な行動を誡める。
案内係は穴があったら入りたい思いでいっぱいになった。

「・・・と、アス。」
「・・・なんですの?」

受け取った装備を身に着けたネスは、服の汚れや髪の乱れを気にするアスに話しかける。

「ちょっくら付き合わねぇか?」
「・・・私【わたくし】は私のやりたいようにやらせて・・・」
「――あっ!ネスさーん!」

突然聞こえた想い人の明るい声で、アスは持っていた櫛【くし】と手鏡を落としそうになって慌てて掴みなおす。
そして、声のした方とは反対方向を向いて何度も深呼吸を繰り返した。

「よっ!ラス。頼んでたモンは見つかったか?」
「ええ、何とか。・・・これが、その場所を示した物です。」
「おおーっ♪やっぱ、ラスは最高の相棒だぜっ♪」
「・・・止めても無駄でしょうから止めはしません。ですが、回復しきってない状態なのに一人で行くのは流石に危険すぎます。」
「ダーイジョブだって!アスも協力してくれるからなっ♪なっ!アス?」
「――!?」

アスはネスに肩を叩かれ、してもいない約束をでっちあげられた。
アスが振り返り反論しようとした矢先のことである。

「本当ですか!?それなら安心です!ありがとうございます、アメリアさん!」
「えっ!?そ、その!!えとっ!?ま、任せてくださいまし!ラスさん!!」
(くぅぅー!!この借りはいずれ100倍にしてお返し致しますわよ!ネスさん!!)

ネスの勝ち誇った笑顔を心の中で呪いながら、真っ赤になった顔をラスに見られないよう再び背を向けるアスであった。