14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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「・・・んっ・・・んん・・・。」

目を開けるとそこには見慣れた天井があった。
私自身の吐息、地肌をきつく締め付ける晒の感覚、胸の辺りの刺す様な痛みが此処が天国ではないことを示していた。
自分が一命を取りとめたことに一先ず安堵した私は、左手に私の物ではない温もりを感じて首を向けてみる。
そこには私の手を握って枕元で項垂れている彼の姿があった。

「師匠!!」
「・・・おっ、気がついたか。」
「師匠!大丈夫だったんだね!」
「あ、・・・あったりめぇーよ!この俺があの程度で死ぬかよ♪」

彼はゆっくりと顔を上げて中腰になると、いつもどおりの明るい笑顔を見せてくれた。
私は二人とも無事だったことが嬉しくて彼の胸へと飛びついた。
泣きじゃくる私の頭を彼は優しく撫でてくれた。

「よかった!師匠が無事でよかった!」
「俺もネスが無事で何よりだぜ!ハハハッ♪」

私達はお互いの無事を喜び笑いあった。

「・・・ネス、間違っても敵討ちとか考えんじゃねーぞ?」
「えっ?敵討ちって?師匠は無事だったのに?」
「・・・そ、そうだったな!ハハハ、ちょっと疲れてるのかな俺?」
「多分、そうだよっ♪」
「でもまぁ、アイツは俺でも油断したら負ける化物みたいなヤツだ・・・。間違っても・・・・・・。」

彼はまるで自分がこれから死んでしまうような口振りで私に話していた。
私は疑問に感じて彼に問いかけた。

「・・・師匠、何かヘンだよ?少し寝た方がいいんじゃない?」
「ヘン、か。・・・そうだな。・・・少し寝るよ。あ、その前に何か軽く食べてぇな・・・果物とかねぇか?」
「うん、じゃあ・・・取ってくる。」

私は自分で取りに行こうとする彼を制し、胸の痛みを我慢してベッドから降りると彼に手を振って台所へと向かった。
その時、彼は何故か中腰から立ち上がって私を見送っていた。
私は彼のその行動や直前の言動に何か引っかかる物を感じていたが、台所へ向かう方が先と思いその場を後にしてしまった。
しかし、私はもっと深く考えるべきだったのだ。
そもそも、彼が何故扉から離れたベッドの左側で私の目覚めを待っていたのか。
窓の光を遮るように立ち上がって私を見送ったのか。
扉を閉める時、彼がまるで力尽きて崩れ落ちるようにベッドへ落ちていくのが見えたのか。
私は台所に置いてあったナイフと果物を1個手に取ると彼の元へと急いだ。
そして私は、先の違和感の正体を想像しうる限り最悪の形で知った。

「し・・・ししょ・・・う・・・?」

恐る恐る私は話しかけてみた。
しかし、彼は何も答えようとはしない。そればかりか、寝息すら聞こえてこない。

「師匠!じょ、冗談はやめてよ!師匠ってば!!」

私は祈るように彼へ叫びかけた。
分かっている、見たままの結論だ。
頭の中では何度もそう告げる声が響く。でも私は認めたくなかった。

「師匠!起きてよ!師匠!!」

無駄だと分かっていようとも、必死に声を掛け続けた。

「師匠!!師匠ってば!!ねぇっ!!お願い!!!」

目の前がグチャグチャに歪んでも、必死に肩を揺すり続けた。

「イヤだよ!!師匠!!冗談は嫌い!!大嫌い!!師匠!!」

震えだした私の手から離れた彼の身体が、ベッドからゆっくりとずれ落ちてゆく。

「イヤ!イヤイヤイヤ!!イヤアアアアアアアアアアアアァァァアアア!!!」

その様子が引鉄となり必死に認めまいとしていた現実が、牙を剥いて私に襲い掛かってきた。
私は糸が切れた人形のように崩れたままの彼の後ろでへたり込み、彼の致命傷を発見する。

「あっ・・・・・・ああっ・・・・・・あぁ・・・・・・。」

正にそれはあの男が最後に彼へ投げ付けた剣の刺さっていた痕だった。
彼はあの時、既に致命傷を負っていたのだ。

『ちっ、僅かに急所を外したか・・・。まぁいい。これで後はサントドッグどもが始末してくれるだろう。では、失礼する。』

この瞬間、あの男の言い残していった”何か”が鮮明に蘇った。
そして、私は彼の死因を知ることになった。
彼は致命傷を負いながらも気を失った私を助けるために最期の力を振り絞り、家まで運び傷の手当てをしてくれたのだ。
言うならば。

(私が・・・彼を・・・殺した!?)
「私が・・・私が・・・・・・うっあっああ・・・・・・あああ・・・・・・!!」

私があの男の口車に乗せられたから彼が死んだ。
私があの男に負けたから彼が死んだ。
私が彼の一番大事な女だったから彼が死んだ。
私が彼の弱い女だったから彼が死んだ。
私が・・・私が居たから・・・彼が死んだ。

「―――――――――――――――――――――!!!!」

私は声にならない叫び声を上げた。
全身の酸素が無くなってもずっと叫び続けた。
生命の危機を本能が知らせようとも無視して只管に叫び続けた。
そしてふと、床に転がっているナイフが目に映った私は徐に取り上げた。

(師匠・・・私は今・・・人を殺すよ・・・。殺す相手は・・・私!!)
「―――ウァァアァァァァッ!!」

自分自身の下腹部にナイフを思い切り突き刺し、力任せに横へ薙ぎ払った。
あの男に斬られた時と同じような痛みと苦しみが全身を襲う。
私はその痛みを歯を折れんばかりに食いしばって耐えた。

(これで・・・私は・・・不出来な私は・・・・・・。)

私は斬り裂いたばかりの下腹部を押さえる。

(弱い彼の”女”だった私は・・・・・・。)

詳しいことはよく分からないが、恐らくこれで私の”女”はもう・・・死んだ。

「・・・これで私は!あの男の居る、師匠の居た世界に入った!!あの男を!オルグ=G=ハントを!!この手で討つために!!」

私はふらふらと立ち上がり天を仰ぎ見た。

「あの男が化物のようなヤツならば!私は人であることも棄ててやる!!私は人の皮を被った化物に!化物人間になってやる!」

それから、私はもうすっかり冷たくなってしまった彼をベッドの上にゆっくりと運んだ。
下腹部の痛みも、胸の痛みもあの宣言の後は何処かへ消えてしまったのか全く感じられなかった。

「オルグを討つまで、此処には帰って来れないから・・・。」

私は彼の腰に巻いてあった布をゆっくりと巻き取って、道具袋へと入れた。
元は真っ白だった布は、彼の血で真っ赤に染まっていた。

「じゃあ、行ってくる・・・。お休み・・・。」

私は彼の剣、ブレイカーを背中に背負って放浪の旅に出た。
とても剣とは思えないブレイカーの重さは、私にこれから辿る道の険しさを暗示しているようにも思えた。

~~~~

「・・・と、こんな所だな。って、ミッチ!?どうしたんだ!?」
「うぇぇぇーーんっ!だって!だってぇー!!」

ネスの話をじっと聞いていたミリアリアはネスが話し終えるなり大声を上げて泣き出してしまった。
慌ててネスは彼女を慰める。
一方のタクトは彼女の過去に衝撃を隠せず何も言うことができなかった。

「まっ、探せばその辺にゴロゴロ転がってるようなありがちな話さ。」
「そう・・・なのか・・・。」
「すまんな、タクト。アンタが期待してそうな凄い話じゃなくてよ。」
「えっ!?いや、俺はそんなの・・・期待なんてしてなかったぜ?!」
(ホントはちびっとだけ期待してたけど・・・。)

タクトは自分の考えが見透かされた気がして慌てて顔を背けた。

「あの後は今みたいにあの男を捜して世界中歩き回って、ぶっ倒れてた所をラスに拾われたってワケさ。なっ♪ラス♪」

ネスはゆっくりと扉の方に視線を移した。
それに釣られてタクトとミリアリアも視線を移す。
一瞬の静寂の後、観念の溜め息をつきながらラスが現れた。

「やはり気付いてましたか・・・。道理で語る声が少し大きいと思いましたよ。」
「ったく、あんなトコで聞き耳立てるぐらいなら素直に入ってくりゃいいじゃねーか。ミッチと擦れ違ってたら気まずかっただろ?」
「えっ!?まさか私を呼び止めたのは!?」
「・・・すみません。立ち聞きは悪いと思いつつも、何となく入りにくくてつい・・・。」

ラスはミリアリアに深く頭を下げた。
ミリアリアは何だかあまり面白くない感じがしたので、不機嫌なふりをして少し彼を困らせてみることにした。

「もう!ネスさんの視線、怖かったんですからねっ!」
「本当にミッチさんには迷惑をかけました・・・。」

ラスの反応に気を良くしたミリアリアは笑顔で彼を許すと、明日の仕事の準備があると言って部屋を立ち去った。
その様子を見送ったタクトは一息ついてからネスに問いかける。

「・・・さてと、続きを聞かせてもらっていいか?」
「そうだな・・・と・・・。」

ネスは突然大きな欠伸をして、掛け布団に包まってしまった。

「あっ!おい!」
「残念、私はもう眠い。後はラスから聞いてくれ・・・じゃ・・・zzZ」
「ちょっと待て、ってもう寝てるし・・・。」

気持ち良さそうに寝息を立てるネスの姿にタクトは溜め息をついて、ラスの方へ視線を移す。
ラスは文句一つ言わずに語り始めた。

「・・・なるほど、俺はネスが噂で聞いた”人を蘇らせる輝石の作り方”で彼女の師匠を蘇らせようとした時に、間違えて呼び出されたってことか。」
「あまり驚かないんですね。」
「まぁ、なんとなく予想ついてたしな・・・。」

タクトは左腕に巻きついている赤い布を見た時の彼女の反応や、彼女の話から大凡の検討をつけていた。
そして、別の疑問が浮かび上がってくる。

「てか、俺みたいに別の世界で生きてた人間ならまだしも、この世界で死んだ人間を輝石で呼び出すなんてことホントにできるのか?」
「分かりません。そもそも、タクトさんが呼び出されたのもリンクを行った僕からしてみれば計算外です。」
「ああ、そういやそうだったな。」

リンクを行うには呼び出したい物の構造や理論を理解し、それを基に術を設計しなくてはならない。
ラスはタクトを呼び出した時に使った輝石には、実は詳細に術を設計してリンクを行っていなかったと明かした。
彼が言うには詳細に設計したくとも、ジ・パンドでは人間に関してあまり解明されてなく、基となる情報があまりに乏しく不可能だったらしい。
ラスは失敗して何も出てこないか、人型の抜け殻みたいなのが出てくるだけだと思っていた。

「で、古い文献に目を通せば何か新しい発見があるかもしれないと。」
「ええ、昔は今よりもずっと輝石の研究が盛んでした。もしかしたら貴方を元の世界に帰す手がかりがあるかもしれません。」
「・・・ついでに、彼女の本来の目的を達成する手がかりも掴めるかもしれないワケだ。」
「そういうことになりますね。・・・すみません。何だか貴方の登場を利用しているような感じになってしまって。」

ラスはタクトに頭を下げる。

「別にいいって。物のついでだとしても、彼女は約束通り俺を元の世界に帰す方法を探してくれるんだしさ。」
「そうですか・・・。」

ラスはタクトの両手を握ってタクトを見つめた。
タクトは突然のことに驚きたじろぐ。

「な、なんだ!?いきなり!」
「僕も精一杯頑張ります!この身に換えても貴方を元の世界に戻してみせますとも!」
「そ、そうか・・・それは頼もしいな。」
(うーん・・・でも、俺。正直そんな無理してまで帰りたくもないんだよなぁ・・・。)

その翌日、タクト達は集落の人達から様々な物資を迷惑を掛けたお詫びとして提供することを申し込まれていた。
しかし、タクト達はその殆どを丁重に断った。

「・・・本当に食料と幾つかの輝石に生活物資だけでいいんですか?」
「言ったろ?旨い飯喰わせてくれた礼だってさ♪」
「それに、あまり沢山頂いても載せきれませんし・・・。」

タクト達はミリアリアや集落の人達に見送られながら一路都に向け出発した。
眩しい朝の光がタクト達の行く道を明るく照らしていた・・・。

~つづく~
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