14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

パートA

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14sure74

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――夢を見ていたようだ。
小さく揺れるラインズカーゴの中はまるで揺り籠みたいに気持ちよくて、眠るのには丁度良かった。

「んっ・・・ふわぁ~・・・。」

欠伸をしながらお気に入りの赤い長髪をたくし上げ整える。
そのせいで膝の上においてあった袋が、前へと倒れそうになったので慌てて引き戻した。
眼下まで引き戻された袋の入口から、水色の細長い紙箱が顔を覗かせる。

「うふふっ♪気に入ってくれるカナ?」

箱の表面には手書きで中身が誰の物であるかを記してあった。
書き損じた跡が少々目立つが、それでも可愛らしくその人物の名前が記されていた。

「絶対、似合うもん・・・気に入ってくれるよ。うんっ♪」

笑顔で小さく頷きながら、自身へと言い聞かせる。
そして、もう一つの大きな紙箱に目を落とす。

「驚くだろうなぁ~♪ナイショで隣の集落まで買いに行ったなんてサッ♪」

その時、ラインズカーゴに次の停車場が近いことを知らせる声が響く。
慌てて降りることを伝え、降車準備を始めた。

「もう少しだから待っててネッ♪お母さん♪」

あまり大きくない集落の中を足早に行く。
陽は橙色の心地良い光を放ちながら、眠りにつこうとしていた。
目的地が段々と見えてくる。まだ、誰も居るような様子はない。
此処までは作戦通りだ。
後は可愛らしい飾りつけをして、ちょっと贅沢な料理を並べて、大きな紙箱を机の真ん中に置いて、水色の紙箱を渡す練習をして。
それから、今日の主役がやってくるのを待ちわびれば良い。
人生で最高の一日。
今日の主役、最愛の母の誕生日はそうなる。・・・はずだった。

「――――えっ?」

もうそろそろ目的地、そんな時だった。
すぐ隣にあった建物が突然大きな音を出し、土煙を巻き上げながら崩れ落ちた。
それを合図に轟く地面、灼ける景色、響き渡る恐怖と絶望の声。

「はぁっ・・・はぁっ・・・い・・・いやぁぁー・・・!」

一瞬にして、此処は戦場と化した。
敗走した治安部隊が野盗まがいの略奪を始め、そこへ追撃に来た本物の野盗が現れたのだ。
劫火【ごうか】の踊る地獄の、出口を求めてただただ走る。
逃げ惑う人波に揉まれ、飛び掛る破片に全身を刻まれ、赤黒い沼を作って転がる木偶に足を取られながら走る。
大切な物が詰まった袋を強く抱きしめ、涙で滲んだ世界を心臓が乱暴に跳ね回っても走り続けた。

「痛ぁっ!!・・・・・・ひっ!?」

何かと衝突して、尻餅をついた。
それはゆっくりと振り返ると、何かを怒鳴っていた。
獣のようにぎらついた眼に、真っ赤に染まったボロボロの身体で、手に持った圧倒的威圧感を放つ塊の矛先を向けて怒鳴っていた。

「ひぃぃ!ごめんなさいっ!ごめんなさぁぁーーいっ!!」

それがまた何かを怒鳴った時、真後ろで轟音と熱風が巻き起こり無数の熱い塊が派手に撒き散らされる。

「い、いや・・・・・・なに、が・・・・・・!!?」

飛び散った塊の中で少しだけ大きな塊が眼下に落ちる。
それは、よく見知った。人間ならば誰もが必ず一対持って生まれてくる、太くて長い・・・腕。

「う・・・あ・・・ああ・・・うああああああああぁぁぁあああぁぁああーーっ!!」

兎に角、この場を離れたい。
その一心で立ち上がり、一目散に走り出した。
背中から何か別の怒声が響いた気がしたが、確認する気は起きなかった。

「あぁぁぁーっ!・・・あうっ!!」

また、何かに蹴躓いた。
もう見たくないはずなのに、何故かゆっくりと振り返り見てしまった。
そして、絶句する。

「う・・・そ・・・・・・いや・・・・・・そんな・・・の・・・・・・。」

気立てがよくて、どんなに辛くても笑顔で、今日が人生最高の一日になるはずだった。

「お・・・かあ・・・・・・さん・・・・・・・・・。」

変わり果てたその姿は、その辺に転がっている無数の木偶と同じだった。
刹那、何か激しく煮え滾る物が込み上げてくる。

「おぇぇぇーっ!!・・・うぇぇっ!うえぇっ!!・・・い・・・いあぁ・・・げぇぇっ!」

伝えたかったことと伝えきれなかったこととが、楽しかった記憶と辛かった記憶とが、グチャグチャに混ざって。
笑った顔と怒った顔と俯いた顔と・・・見たことのある母の顔が全て混ざって。
咥内に苦い感覚だけを残しながら追い出されるように吐き出されていく。

「ううっ・・・・・・もぅ・・・いや・・・・・・うぇっ・・・。」

変わり果てた彼女の傍らで、渡すはずだった袋を抱きしめて蹲る。
涙はとうの昔に枯れ果て、喉はがらがらだった。

「いたぃ・・・たすけ・・・・・・て・・・・・・あぁ・・・。」

髪を突然乱暴に掴まれ、持ち上げられた。
赤か黒しか分からなくなった世界に黒い影が映り、それが人型であることだけを伝える。
黒い影から覗くのは冷たい輝きを放つ物。
それが胸元にそっと押し当てられ、上から下へ撫でるように下ろされて、そこに不釣合いな蒼い閃光が見えて・・・。

~~~~

「んっ・・・んん・・・。」
「あっ!気が付きましたね!?よかったぁ~・・・。」
「おっ、目が覚めたみたいだな。」

薄目を明けたネスに不安そうな顔で覗き込むミリアリアの姿と、その後ろで様子を窺っているタクトの姿が映る。

「タクト、それにミッチ・・・ってことは、此処は宿か・・・。」
「ああ。その通りだ。ミッチがあの後、事情を話して集落の皆を説得してくれたんだ。」
「そっか・・・。ありがとな、ミッチ。」
「いえ!お礼を言うのはこっちですよ!ネスさん!」

ゆっくり上半身を起こして笑顔を見せるネスだったが、身を刺すような痛みに思わず顔が歪んでしまう。
ミリアリアが慌ててネスを寝かそうとするが、ネスは手でそれを制す。

(私ともあろう者が、あの程度で気を失っちまうとは・・・。)

ネスは無意識の内に顔を俯かせ、拳を握りしめて己の失態を悔やんでいた。

(それにしても・・・久しぶりに見たなあの夢・・・ホント、あの夢はいったい・・・うっ!?)

ネスは気を失っていた間に見えた光景を思い出そうとした瞬間、激しい嘔吐感に襲われた。
しかし、ミリアリア達がまた心配して騒ぎ出すと面倒なので、咳き込みたい衝動を無理矢理抑えこむ。
思い出そうとするのをやめた途端、あれほど激しかった嘔吐感がウソのように治まった。
ネスの様子が気になったミリアリアは心配そうな顔でネスに尋ねた。

「ネスさん、どうかしましたか?顔色が悪いですよ。やっぱり、まだ寝ていた方が・・・。」
「・・・いや、もうダイジョブだ。ほら、この通り♪」
(やっぱ・・・ダメか。身体がアレに触れることを拒絶してやがる・・・。)

ミリアリアを安心させるため、ネスは笑顔で軽く腕を振ってみせる。
ミリアリアは暫く心配そうな眼差しで見ていたが、これ以上は何を言っても無駄だろうと思い諦めた。

「まっ、こんぐらいのこと、どーってことねぇぜ♪」
「それならいいです。兎に角、貴女が無事でよかった・・・。」
「・・・でだ、起き抜けで悪いんだが。」

後ろでずっと黙って二人の様子を見ていたタクトが口を開いた。
ネスはタクトが何を言おうとしているのか悟り、観念の溜め息をついた。

「・・・何が、聞きたい?」
「そうだな、少しずつ掘り下げてくのも面倒だろうし・・・。」

タクトは一度言葉を切って、深呼吸をしたあと再び口を開く。

「全部聞かせてくれ。そうじゃねぇと多分、俺はアンタが何故そこまで執拗にあの男を追うのか理解できねぇ。」
「そっか・・・。私も何だか話したい気分だし、いいぜ。最初から全部・・・話してやるよ。」

二人の雰囲気からただならぬ物を感じたミリアリアはゆっくり座っていたイスから立つ。

「ミッチ、別に居てもいいぜ。」
「えっ、でも私は部外者ですし・・・。」
「別に隠すような話じゃねぇよ。ただ、自分からペラペラ喋る気にはなれないだけでな。」
「ですが・・・分かりました。」

ネスの視線から己に拒否権がないことを悟ったミリアリアは、再びイスに座った。
タクトは壁に軽く寄り掛かり、腕を組んで聞く体勢を整えた。
二人が準備を終えたことを確認したネスは、一度だけ深呼吸をして口を開く。

「さて、それじゃ聞いてもらうかな・・・。話は、そうだな、10年ぐらい遡る【さかのぼる】――。」
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