14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

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14sure74

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集落から森を一つ抜けた所に、古びた競技場があった。
積もりに積もった埃や塵が開け放たれた天井からの風に舞い上げられ、星明りを受けてキラキラと輝く。
元の姿が分からないぐらいに草臥れた外壁は、長い間人の手が加えられた形跡が全くないことを誇示していた。

「・・・確かに、連れてきたぞ。」
「ほう、意外と早かったな。」

その競技場に数人の人影。
小さめのコロシアムのような造りをした部屋の入り口付近には、2名の若い男が肩に棒を担いで立っている。
その視線の先、対角線上にある客席にはその者達を見下ろす赤く鋭い眼をした男が立っていた。
男は彼らが担いでいる物を一瞥するとほんの少し口元に笑みを浮かべる。

「これで、いいんだろ?」
「そうだな、いいだろう。さっさと帰りたまえ。」

男達は薄ら笑いを浮かべる彼を警戒しながら少し乱暴に肩の棒を床に下ろすと、素早く立ち去っていった。

(イッテェ~・・・くそ~、もう少し丁寧に扱えよなぁ~・・・アイツら、後で1発ずつぶん殴る。決定っ!)
「ふふふ・・・その格好、よく似合ってるぞ。化物人間。」
「・・・そうかい?まっ、嬉しくないが、なっ。」

棒に狩られた獲物のように縛り付けられていたネスは、あっさりと縛めを解いて身体に付いた埃を払いつつ立ち上がる。
そして、客席から見下ろしている男に向かってその深紅の視線を向けた。

「ったく、回りくどい真似しやがって。」
「ふふふ・・・まぁ、偶にはこういう回りくどいこともして見たくなっただけさ。」
「居場所教えてくれりゃあ、コッチから出向いてやったのによ。」
「ほぉ、そんなにまで私に肩入れしてくれるとは嬉しいぞ。ネール君。・・・いや、ネス君と呼んだ方が・・・」
「フルネームでいい。お前には・・・あの人の付けてくれた呼び名で呼ばれたくないしな。オルグ。」

ネスは真っ直ぐにオルグを見る。
表情は平素を装ってはいるが、拳にはずっと力が込められ戦慄いたままであった。
ネスの突き刺すような視線も気にせず、オルグは余裕の笑みを浮かべたまま答える。

「そうか。では、ネール君。早速だが・・・」
「特別サービスだ、コッチから行ってやるぜ。」
「まぁ待て。残念だが、今の私は仕事中の身でね。君にはソレと戦って貰おうと思う。」
「・・・このミョウチクリンな塊と?お前、私をバカにしてるのか?」

オルグが指で示した先には、不恰好な大きな塊が1つ置いてあった。
よく見るとそれは何かの生物を模しているのか、四本の足や顔、尻尾のような物が生えていた。
オルグは軽い足取りでその物体の上に乗って片膝をつく。

「いいや、バカになどしてないさ。それに、丸腰の君と戦っても面白くないしな。」
「アハハハハッ!!・・・・・・お前など素手で十分だ!!」

ネスは左拳を叩き込む体勢を整えつつ思い切り地を蹴ってオルグとの距離を詰める。
しかし途中で身体を捻り【よじり】、無理矢理勢いを殺して着地し左後方へと走る。
その軌跡を追うように一筋の火線が走りネスを追いかけた。

「よく避けた、流石だな。」
「ちぃっ!お前、いい加減にしろよ!またよく分からねぇもん引っ張り出してきやがって!」

オルグは最初に居た場所まで飛び退きつつ態とらしい感心の声をかける。
ネスは彼と彼が乗っかっていた塊を睨みつけ答えた。

(なんてザマだ。私としたことが、発射までにタイムラグが無かったら直撃されてたなんて・・・。)

ネスは火線に追われながら相手を確認する。
アレはブーチリザードを大きくしたような姿をしたただの鉄の塊だったはずだ。
それが、オルグが何かの輝石を発動させた瞬間に動き出し、額の辺りから私に目掛けてマシンガンを発砲してきている。
中に人間が入っている気配はない。よって、アレが新手の乗物という線はない。
しかし、そうなるとアレは自らの意思で私を捉え攻撃を仕掛けてきていることになる。

(そんなバカな話・・・あってたまるかよ!)

何らかの方法でオルグがアレを操っていると考えたいが、あの男からは何かを操作している気配は感じられない。
ただ客席で憎たらしい薄ら笑いを浮かべて様子を窺っているだけだ。

「よく分からない物・・・か。まぁ、私もソレが『オートマトン』という名称であることと、使用上の注意ぐらいしか知らないからな。私にとっても同じだ。」
「・・・そういう、ことか!」
「ふふっ、君と話すのは楽でいい。」

オルグは私を使い、この『オートマトン』なる物の実戦データを取ろうという魂胆だ。

(あの男の仕事を手伝ってやることになるが・・・まぁいい!)

あの男の思惑がどうあれ、その後すぐに地獄に叩き堕とせばいいだけのこと。
ネスはまずは目の前のオートマトンを破壊することにした。

(気配が察知できなくても、アレを取り巻く空間の僅かな変化を察知すればいいだけのことだ!)

どんな物でも動く時は僅かに周りの空間に影響を与える。
それはオートマトンとて例外ではない。
ネスの感覚器官はその僅かな変化を敏感に感じ取っていた。
しつこく追いかけてくる銃弾の群れをその察知能力で掻い潜りながら一気に距離を詰め、ネスはオートマトンに殴りかかった。

「・・・くっ!!」
(この堅さ、素手でぶち抜くのは少しばかりリスクがあるな。かと言って、剣は持ってねぇし・・・。)

オートマトンは鼻先にある鱗の一つが拳の形に打ち抜かれているが、大きなダメージは無かったようだ。
噛み付くつもりか頭突きのつもりかは分からないが、オートマトンは首を振って反撃をしてきた。
ネスは打ち付けた拳を庇いつつ素早く後退してそれをかわす。

「素手では辛かろう?」
「そうでもねぇさ。」
「・・・ほう、その顔、まるであの時のように何かを待って・・・」
「黙って見てろ!!」

オルグの台詞を無理矢理遮り、ネスは再びオートマトンとの距離を詰める。
ネスはオートマトンの首振り攻撃を紙一重で避けながら飛び上がり、オートマトンの首の付け根辺りに下りた。

「うらぁぁぁぁぁーーっっ!!」

そして鱗の隙間に両手を突き入れて鱗を握ると、思い切り引っ張り上げた。
程なくして金属が千切れる音と供に鱗は剥ぎ取られた。

「・・・なっ、なんだよコレっ・・・!?」

剥ぎ取った鱗の隙間から見えた物にネスは思わず驚愕の声を漏らした。
ネスは輝石のことに関してはそれほど詳しくない。
しかし、それでも隙間から見えた塊が今までに見たことがある物とは比べ物にならないぐらい、複雑な構造をしていることが容易に想像できたからだった。

「・・・しまっ――!!」

その隙を突きオートマトンが口を開け何かを吐き出した。
オートマトンの口に何が入っているのか知らないネスは完全に出遅れてしまい、気が付いた頃にはそれが自分目掛けて薙ぎ払われている所だった。

「ぐぇっ・・・・・・!!」

ネスの右わき腹に薙ぎ払われて来た塊が減り込む。
それはアイアンカノンの砲弾並みの大きさの鉄の塊で、細い管のような物でまるで舌のようにオートマトンの咥内と繋がっていた。
内臓が押し潰されメリメリと悲鳴を上げる音がネスの体内に響き渡る。
そして衝撃で身体が傾き、ネスは振り落とされてしまった。

(くそっ・・・・・・避け・・・られねぇ!)

オートマトンは追撃の手を緩めず、身体を右へ捩るように振りながら尻尾を思い切り薙ぎネスを狙う。
先の衝撃でまだ身体の自由が利かないネスはその攻撃に無防備に背中を晒してしまった。

「うぁぁぁっ!!」

ネスは思い切り背中をはたかれ、その衝撃で十数メートル先の壁まで吹き飛ばされる。
そして、正面から壁に衝突してしまった。

「ぐふぅっ・・・!!」

壁は無数の罅【ひび】を表面に付けながらもネスを弾き返す。
弾き返されたネスは背中から地面へと落下する。
ネスは何とか寝返りを打ってうつ伏せになると、四つん這いになろうと四肢に力を込める。
軋む身体が激痛を持って限界を訴えてくるが、ネスは構わず力を入れた。

「げほっ!げほっ!・・・かはぁっ!・・・・・・くっ!・・・・・・うぇっ・・・!」
(早く!早く立たねぇと・・・!!アレはもう、すぐそこまで・・・来てるんだ!!)

咳き込む度に夥しい【おびただしい】量の血が胃液や唾液混じりに吐き出され、彼女の目の前に赤黒い水溜りを作る。
咥内をあっと言う間に占拠した苦い物は、鼻腔を突き刺すような異臭を発しながらネスの意識を澱ませて行く。
ネスは歯を食いしばり意識を繋ぎとめようと必死になった。
その時である。

「・・・つっ!・・・あぁっ??」

何か細い物がネスの肩に刺さった。
その直後、強烈な痺れと供に全身が鉛でも流し込まれたかのように重くなる。

(麻痺毒・・・・・・かっ・・・しかもコレは・・・・・・かなり強ぇ・・・!)

ネスは呻き声を上げながら四つん這いの体勢を崩し蹲ってしまった。
激しくぶれる視界が、体内に侵入した麻痺毒の強力さを誇示していた。

「あっ・・・・・・うっ・・・・・・く・・・そ・・・・うげぇっ!!」

ネスの頭上からオートマトンの鋼鉄の舌が振り下ろされ背中に叩き付けられた。
背骨が断末魔の悲鳴にも取れるような音を上げ、ネスに体内に残った空気を吐き出させる。
空気と一緒に意識が吐き出されてしまったのか、目の前が真っ白に染まっていくのをネスは感じていた。
オートマトンは背中に落とした先端部と自分を繋いでいる管を器用にネスの首に巻きつけると、勢いを付けて上へと持ち上げた。
短い呻き声を上げネスは宙へと放り出された。

「ごほぉっ!!」

オートマトンの鋼鉄の舌が、宙へ浮いたネスの胸部へと突き刺さりネスを押し出す。

「がはぁぁっ!!」

ネスは再び壁へと叩き付けられた。

「うっ・・・・・・ぐっ・・・・・・あっ・・・・・・かふぁ・・・・・・!!」

鋼鉄の舌はそのままネスを壁へと押し込み、メキメキと肋骨が軋んでネスへ危険を訴える。
それから少ししてゆっくりと鋼鉄の舌が後退を始め、ネスの身体がそれに釣られて前のめりに倒れこむ。

「――!」

しかし、ネスはそのまま地に伏すことはなかった。
ネスは足を一歩前に出して体勢を整え、罅が入りそうなぐらいにきつく歯を食いしばって踏ん張ったのだ。

「く・・・・・・う・・・・・・はぁっ・・・・・・うぅ・・・・・・。」
(もう一度倒れたら・・・殺されるっ!)

最初に倒れたあの時、すかさずチェインガンで撃ち抜くことだってできたはずだ。
私を殺すつもりならばその方が遥かに簡単で確実である。
あの男ならまだしも黙々と標的を狙うだけのアレが、嬲り【なぶり】殺しなんて醜悪な嗜好を持っているとは思えない。
麻痺毒だって1発なんて言わずもっと大量に打ち込めば、態々こうして打撃を加えずとも殺せていたはずだ。
つまりアレはもっと効率が良くて確実な殺害方法を持っているのに、あえて私を撲殺しようとしていることになる。
それが意味することは一つしかない。

(アレにはもう、チェインガンや麻痺毒を使えるだけの存在可能時間が残ってねぇってことだ・・・!)

そして恐らくは、あの見るからに重そうな身体を自在に動かせるだけの存在可能時間も残ってないに違いない。
だから持っている飛び道具の中では一番負担が少なくて済む、鋼鉄の舌を使っての撲殺を試みているのだろう。

「うぐっ!・・・がっ!・・・うあっ!・・・くぅっ!」
(倒れる・・・かよ!倒れて・・・たまるかよ!)

オートマトンが中々倒れようとしないネスに鉄球の乱打を浴びせた。
一発受ける度に何度も視界が点滅し、全身を冒す毒と供にネスに倒れることを強要してくる。

「ぐっ!・・・げぇっ!・・・・・・あぐっ!・・・・・・うぇ・・・。」
(私は・・・化物人間・・・ネール=A=ファリスだ!この程度では死なない!死ねるワケがない!!)

それでもネスは倒れない。
荒々しく息をして血反吐を吐きながら体勢を整えて、オートマトンを、オルグを睨みつける。

「いぎっ!・・・はっ・・・・・・くっ・・・・・・ぐがぁっ!!」
(あの男を討つと、誓ったんだ!あの人に!この傷に!!)

ネスは震える手で下腹部にそっと触れる。
一瞬でも気を抜けば崩れ落ちそうな状態を、ネスは二つ名に恥じない人間離れした精神力で保ち続ける。

「うぐぁっ!・・・くふぅっ・・・うぎぃっ!」
「ほほぉ・・・まだ、耐えるか。流石、『バケモノ』と呼ばれるだけはあるな。」
(私は・・・ばけもの・・・そう!あの時から、私は!私は―――)
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