14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

パートA

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14sure74

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(さて・・・どーすりゃいいんだか・・・。)

俺は手頃な木の幹に背中を預けて大きく伸びをしてみる。
輝石の効果のおかげで、眠くは無いが何もやることがない。
何かをやろうにも此処には美味い空気と柔らかい光と心地良い囀り声しかない。

(人って、退屈だとマジで欠伸【あくび】がでるんだな・・・。)

もう何回目かも分からない大きな欠伸がでた。
・・・俺は今、一人だった。
俺をこの世界に呼び出した者達、ネスとラスの姿はない。

(彼ら、何処まで行ったんだろーか・・・。)

二人がこの場に居ない理由、それは――。

~~~~

あの後、タクト達は対狩人【カウンターハンター】の母子を、丸二日ほどライトカーゴを走らせた所にあった山奥の森に送った。
その帰りのことである。
重量オーバーにより通常以上の消耗を強いられたライトカーゴの存在可能時間が残り僅かとなってしまったのだ。

「なぁラス、もうコレ諦めようぜ・・・。」
「はぁっ・・・はぁっ・・・・・・そういう・・・ワケにも・・・・・・行きませんよ・・・。」

もう彼是数日の間、眠りにつく時以外はタクトとラスはライトカーゴを後ろから押していた。
輝石人間であるタクトと違いラスは普通の人間である。
ロクな食事も摂っていない状況でのこの労働は、彼にとって生き地獄にも等しい過酷な物であった。

「そうは言ってもなぁ、このままじゃアンタが死ぬぞ?」
「それは・・・・・・そう・・・ですけど・・・・。」
「・・・コレって、そんなに高いもんなのか?」
「そう・・・ですね・・・少なくとも・・・今の僕達の・・・・・・経済状況では・・・新しく・・・購入は・・・無理です・・・。」

定職に就いた者でようやく購入できる代物である。と、ラスはタクトに答える。
ラスほどの男が此処まで必死になるのも無理はないかとタクトは納得した。

「でもなぁ、死んじまったら元も子もねえし・・・。」

タクトは見るからに不健康そうな表情で必死にライトカーゴを押すラスに半ば呆れつつ、ふとあることを思い出した。

「てか、何でネスにやらせねぇんだ?彼女、こういうの専門だろ?」

考えてみれば、この場には力自慢の彼女がいるのだ。
その彼女はこの数日、運転席で退屈そうにハンドルを握っている。
一声かければ喜んで引き受けてくれるに違いない。

「ネスー。」
「ふぁぁ~・・・ん?何だ?タクト。私にやれってか?」

タクトの呼びかけにネスは運転席の窓から身を乗り出して答える。
その表情はようやく身体を動かせるという期待で満ち溢れているのが見て取れる物だった。

「おお、話が早いな。じゃあたの・・・」
「いいえ!大丈夫です!・・・大丈夫ですから、ネスさんはハンドルを握ってて下さい!」

タクトの言葉を強引に遮ってラスが叫ぶ。
ネスは何かいいたそうな顔を見せたが、渋々身を引っ込めて欠伸をしながらハンドルを握った。

「おいおい!何でやらせないんだよ?」
「いいですか、タクトさん・・・。」

タクトの質問にラスは大きく溜め息をついてから答え始めた。

(俺達ごと車を投げる→走って落下予想地点に先回り→予想地点間違えて地面に激突・・・ということか。)

タクトはラスの弁明を自分なりに頭の中で整理してみた。
なるほど、彼女ならやりかねない。タクトは心の中で大きく頷いて納得していた。

「もしそんなことに・・・なったら・・・・・・確実にこのカーゴは・・・・・・限界を迎えます。」
「だろうなぁ・・・。」
(俺の居た世界じゃ中古車なんてのがあったけど、此処じゃそうも行かないみたいだし・・・。)

輝石によって召喚された物の残り存在可能時間を召喚に使われた輝石を見ないで知ることは、実力のあるリンカーでも難しい。
従って基本的には召喚した本人が、今までの経験や知識から残り存在可能時間を推測して使用する物である。
タクトはこれまでの道中でラスからそう聞いていた。
残り存在可能時間を簡単に知る術がない現状では、既に召喚された物の取引はリスクが大きいのは確かだ。
中古車どころか中古品という物があまり市場に出回っていないのも納得できる。

(何時来るかよく分からない限界迎えるまで壊れたりしないけど、限界迎えたら一瞬でオサラバ・・・便利なようで、便利じゃないな・・・。)

何処の世もそんなに甘くはないんだな。と、タクトは一人心の中でぼやいていた。
その時である。

「あっ!!」「うわっ!?」

突然、二人が押していたライトカーゴの重みが無くなった。
二人は存在可能時間の限界を迎えたのかと思ったが、目の前にはしっかり件のライトカーゴは存在していた。
ネスがアクセルを踏んだのかとも思ったが、それならばもっと豪快なエキゾーストノイズと供に彼女の声が木霊するはずだった。
原因が分からず、二人はつい立ち止まってしまった。
そして二人は急に軽くなった原因に気付く。

「やべぇ!いつのまにか下り坂になってるぞ!」
「ネスさーん!ブレーキを!ブレーキを踏んで下さーい!!」

ラスは坂道を滑る様に下っていくライトカーゴに向かって叫ぶ。

「くっ!さては彼女、寝てますね!」
「あっ!ラス!」
「タクトさんはそこで待っていてください!すぐに迎えに来ますから!」

ラスはタクトにそう告げると、彼の反応を待たずネスの名前を連呼しながら走り去ってしまった。

~~~~

(しかし、ラスのヤツ、よくあれだけの体力残ってたよなぁ・・・。)

俺はあれからもう3時間ぐらい、ラスの言い付けどおりに迎えを待っていた。
しかし、迎えに来る様子は一向になく俺は暇を持て余していた。

(まったく、何処まで行ったんだか・・・。)

俺は何となく道端に生えている雑草を一つずつ引き抜いていた。
引き抜いてはその辺に投げ捨て、引き抜いてはその辺に投げ捨て、引き抜いては・・・。

「あぁーもぉー!俺は何をやってるんだぁー!!」

俺の叫び声が虚しく森の中に木霊する。
それがまた寂しくて、哀しくて、堪らない。

「てか、考えてみりゃ此処は一本道なんだし、律儀に待ってなくてもこっちから行けばいいじゃねーか!」

俺はバカ正直に彼らの迎えを待っていた自分が腹立たしく感じ、大きな独り言を言ってみた。
そして、俺は彼らが走って行った方向へと歩き始めた。

「・・・歩けど歩けど、我が暮らし楽にならざり。じっと手を見る・・・。ってか?」

それから更に数時間。俺の目に映るのは歩き始めた頃と大して変わらない光景だった。
俺は某有名な短歌を捩って左手を見てみた。

(・・・そーいや、コレ。マジで取れねぇな。)

左手を見た時に白いワイシャツの袖口からちらりと見えた赤い布。
俺がこれを発見したのは、マッチが用意してくれた学生服に着替えている時だった。

「・・タクト。アンタそれ、どうしたんだ?」

ネスにそう指摘されるまで、左腕にこんな物が包帯のように巻きついているなんて知りもしなかった。

「ん?何だこりゃ・・・。俺、こんなの知らねーぞ?」
「そっか。・・・それ、私のだから返してくれねーか?」

特に返すのを拒む理由の無かった俺は承諾し、結び目を解き取ろうとした。

「・・・ん?あれ?とれねぇ?」
「貸してみ。・・・そりゃっ!」
「いだだだだだ!!ど、どーなってんだぁ!?」

ネスがいくら力を入れて引っ張っても、この赤い布は巻きついたまま取れる気配を見せない。
そればかりか、まるで接着剤か何かで皮膚に直接貼り付いているような感覚を感じていた。

「ネ、ネス!もう引っ張らないでくれ!マジで痛ぇーっ!」
「・・・そっか。」

手を離したネスの表情に、俺は何処とない物悲しさを感じていた。

「まっ、私がこれだけ引っ張っても取れねぇってことは、いきなり取れて失くしちまうってこともねぇか。取れたら返してくれ。」
「あ、ああ・・・。そうする。」

俺にはその時のネスの笑顔が強がっているように思えた。
本当は今すぐにでも返して欲しくて仕方が無い。そんな気がしたからだった。

(・・・しっかし、あのネスがあそこまで執着するコレって、いったいなんなんだ?)

俺は試しに少しだけ引っ張ってみる。
しかし、やはりあの時と同じで取れる気配がない。
いきなり取れたりして落としてしまうと彼女に殺されそうなので、俺はまた結んでおくことにした。

(今度、ラスに聞いてみるか・・・。)

俺はあえて本人に聞かないことにした。多分本人に聞いても誤魔化されそうな気がしたからだ。

(・・・てか、歩いてみたが暇なことに変わりねぇな。)

いくら歩こうとも景色は変わらず、輝石の効果で疲れも感じない。

(疲労感が感じられないのって、こうして考えると意外とつまらないんだな・・・。)

動けば動いただけ身体の芯が熱くなる感覚はある、しかし動きをやめた途端に何故か消滅してしまう。
動いている間も貪欲に外気を取り込みたくなるような気持ちになれない。
この世界に来る前は若干の煩わしささえ感じていた物だが、いざ感じられなくなると少しばかり寂しい。

(よくある不老不死ネタじゃねーが退屈だ・・・。)

俺は何とか退屈凌ぎがしたくて周囲を見回していた。
そして、見落としていた物に気付いた。

(・・・何だ。ショートカットできんじゃん。)

よく見れば、俺が進もうとしている道は大きく左右にうねりながら下っている。
うねりの間にある森林地帯の傾斜は若干急ではあるものの、降りられないほどではない。
これはつまり、間の森林地帯を突き抜けていけばショートカットができることに他ならないだろう。
俺は早速実行に移した。
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