14スレ目の74(ななよん)の妄想集@ウィキ

パートA

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14sure74

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砂利を踏む音が車内に響く。窓の外は、深い緑色。
時折美しい鳥の囀り【さえずり】が辺りを包む。
幾筋もの光のカーテンが棚引くそこは、人気のない林道だった。

タクト達がそんな道を行く理由は2つ。
1つはタクト達の、主にネスの所業による物である。
ネスはジ・パンドで最も勢力の強い過激派組織ダイア・スロンに喧嘩を売り、剰え彼らのアジトを1つ壊滅させている。
たった一人の浮浪者にアジトを1つ壊滅させられ、黙っているワケがない。
今まで彼らの追手と遭遇していないのが奇跡なぐらいであった。
この先もし追手と遭遇した場合、都までの主な道沿いでは必要以上に騒ぎを大きくしてしまう可能性がある。
ただでさえタクト達には彼方此方に敵を作るという困った特技を持つネスの存在がある。
できる限り周りに第三者の存在がない方が無用な争いを起こすこともなくなるという物であった。

また、ネスは先のダイア・スロンとの一件の時に協会の治安部隊とも衝突している。
本人の弁通り、顔こそ見られていないものの身体的特徴までは隠せない。
下手に姿を見られれば、目撃証言との整合性や雰囲気から重要参考人として検挙される可能性は高い。
その際に彼女の犯した、正確に言えばラスに犯させた協会の禁忌【きんき】がバレないとも限らない。
もしそうなれば彼女の性格上、武力衝突は間逃れないだろう。

加えて言えば、タクトはジ・パンドでは初めて輝石によって召喚された人間である。
この事実が世に知れ渡れば、タクトはこの世界で一人の人間として真っ当な生き方をすることができなくなるだろう。
良くて連日連夜の質問責め、下手をすれば様々な非人道的な実験の道具にされかねない。
幸い、タクトはこの世界の文化に対して高い順応性を見せている。
そのためこうして少し遠回りをしている間に、この世界の人間として違和感のないレベルにまで順応してもらうつもりでもあった。
以上がタクト一行の作戦参謀、ラスの弁であった。
しかし、これはどちらかと言えば”後付け”の理由であり本当の理由は・・・。

「ラス~、腹減ったぞ~・・・。」
「貴女は、優に1日分はあった食料を10分と掛からずに平らげておきながら、まだ食べたいと言いますか・・・。」
「腹が減っては仕事はできぬ~、ラス~飯くれ~・・・。」
「ですから、その飯を手に入れるための仕事ではありませんか。・・・もうじき着きますよ。」

タクト達は出発する時に餞別として受け取った食料が底をついていた。
もう数日ロクな物を口にしていない一行は、急遽食料の補給とライトカーゴ用の存在可能時間延長輝石の補給を兼ねて近くの集落に立ち寄った。
そして、そこで食料と輝石の提供を条件に仕事を請け負っていた。
タクト達がこの林道を往く2つめの理由にして、本当の理由はその仕事をこなすためであった。

「やっと着いたかぁ~・・・さっさと終わらせて飯貰いに行こうぜ・・・。」

ネスは竹串ぐらいの長さの骨を咥えながら、助手席で大きく伸びをした。
その様子を見てラスはとても大きな溜め息をついた。

「タクトさん、これは前金代わりにと半ば強引に貰っておいて正解・・・というべきなのでしょうかね・・・。」
「・・・だな。」

仕事を請け負った時、早々に交渉をラスに任せネスは助手席で寝る体勢を整えていた。
彼女が寝静まったのを確認したラスは、その隙に依頼人に拝み倒して報酬の食料を一部先に受け取ったのである。
ネスには好意で受け取ったことにしておいた。
そういうことにしておかないと、先に全部貰ってこなかったことをしつこく責めるのが目に見えていたからだった。

「・・・と、そうだ。今食った分は前金じゃなくて必要経費な。そう言っとけよ。」
「・・・・・・了解です。」

しかし、彼女にはとっくの昔にバレていたようである。
ラスは再び大きな溜め息をつきながら、ライトカーゴを林道の脇に停車させた。
そして運転席から降りて、後部座席にいるタクトへと話しかける。

「では、タクトさんは此処で・・・」
「いや、連れてく。」

ラスの言葉を遮ってネスが後部座席のドアを開けた。
タクトはとりあえず降りて様子を窺うことにした。

「良い機会だ、見ておくといい。この世界で生きる術の1つだからな、見といて損はねぇさ。」
「・・・なるほど。ネスさんにしては珍しく良いことを言いますね。」
「何だよ珍しいって。私は何時も良いことしか言ってねぇぞ?」
「まぁまぁ。俺も丁度、カーゴ【くるま】ん中でぼーっとしてるのもアレだし付いて行こうと思ってた所さ。」

タクトは軽く伸びをして大きく息を吸った。
少し湿った冷たい空気と青々と茂る草木の香りがタクトの体内に広がる。
タクトはその余韻に浸るようにゆっくりと息を吐いた。

「・・・で、ラス。仕事内容は?」

先頭を歩いていたネスが、咥えていた骨をガリガリ齧って食べつつ振り返ってラスに尋ねる。

「最近、この辺りを通る者が立て続けに猛獣に襲われているそうで、今回はその猛獣の駆除です。」
「ふーん、期限と後何か制限とかは?」
「期限は明日まで、制限は今回は特に無しです。」
「で、猛獣ってのは・・・コイツのことか?」

ネスが徐に振り向きつつ右腕を翳す【かざす】。その先には大きく太い丸太のような物があり、ネスは右手でそれを掴んでいた。
それは真黒な毛に覆われていて、先には鋭いツメがついている獣の腕だった。

「獣にこんなこと言っても無駄だが・・・、今こっちはまだ話し中だ。少し大人しくして、なっ!」

ネスは右腕を一瞬引っ込めてから勢い良く突き出した。
腕の主は突き飛ばされ、数メートル先の木に勢い良く打ち付けられ地面に蹲った【うずくまった】。

「ク、クマ!?で、でけぇ・・・!!」
「ネ、ネスさん!?アレは・・・」
「大丈夫だって、死んじゃいねーよ。」

ネスは驚き慌てふためく二人を軽く一蹴する。
そして、体勢を整えようと蠢く【うごめく】獣に向かってゆっくりと向かって行った。

「ネスさん!何をするつもりですか!?」
「なに、とりあえずアイツの気が済むまで殴り合ってやるだけだって。アンタらはちょっと離れてな。」
「分かってますよね!絶対に・・・」
「分かってるって!殴り合いに付き合ってやるだけだから獲って食ったりなんかしねぇよ。・・・美味そうだけどな。」

ラスの問い掛けにネスは左手で親指を突き立てて答えた。

「ラス、ありゃなんだ・・・?クマみたいだが・・・。」
「クマ・・・ですか。似たような物ですけど・・・。」
「それに、殺したらいけないってどういうこった?」
「ええ。あの動物は如何なる理由があろうとも、協会の許可無しに手にかけることが禁じられているのです。」
「ふーん・・・。」

絶滅危惧種みたいなものか。とタクトは思い切り返しを兼ねて聞いてみることにした。

「協会の許可無しにってことは、貴重な動物だったりすんのか?」
「そうですね。ジ・パンドにおいてあの獣の皮や肉は最高級品として取引されています。ですので、今でも密猟が絶えないと聞きます。」
「ほぉー・・・。で、アレの名前は?」
「対狩人【カウンターハンター】と言います。過去には何人もの狩人が返り討ちに遭っていたからだそうです。」
「そうなのか。そんなヤツと戦ってネスは・・・」
「彼女なら大丈夫ですよ。正面からぶつかって彼女が負けることはありえません。それよりも・・・。」

ラスは途中まで言いかけて、一人で考え込んでしまう。
タクトはそれが無性に歯がゆくて続きを話すよう小突いた。
小突かれてラスが渋々話し始める。

「対狩人は本来、もっと人里離れた深い森や山の中に居る獣なのです。それに、今回みたいに手当たり次第に襲い掛かるようなことはないと聞いてます・・・」
「――がっ!?」

その時、とても鈍い音と女性の短い呻き声が辺りに響く。
ラスとタクトは音のした方へとすぐに視線を移して、思わず息を詰まらせる。
負けるはずのない彼女が地面に叩き付けられ、何度もボールのように跳ね飛びながら目の前まで転がってきたのだ。

「・・・ゲホッ!ゲホッ!」
「ネスさん!?大丈夫ですか!?」

ラスは咳き込んでいるネスに慌てて近寄って抱き起こす。
タクトはふと対狩人の追撃を考えて視線を移すが、先程までネスと格闘していた辺りには既に姿が無かった。
慌てて辺りを見回してみるが、あるのは太い木の幹と青々と生い茂った草木、それから幾つもの光のカーテンだけであった。
とても先程まで狩人を返り討ちにしてきた猛獣と、化物と呼ばれる女性が戦っていたとは思えないぐらいに静まり返っていた。

「・・・逃げた・・・のか?」
「いや、子供を守りに行っただけだ。・・・・・・いってぇ~。」

タクトの疑問に、ネスが頭を数回横に振りながら起き上がって答える。
そして、体についた砂利などを払いながら話し始めた。

「・・・アレは子連れだ。だから、手当たり次第に襲ってたんだろーな。」
「なるほど・・・。で、守るって何から・・・。」
「そりゃ、密猟者からに決まってるだろ。大方、輸送中にトチって逃がしたのを捕まえにきたんだろ。」
「では、ネスさんは・・・」
「たりめーだ。態とに決まってるだろ。こうでもしねぇと、あの母熊、私を警戒してこの場から離れねぇし。」

ラスの質問にネスは首をゴキゴキ鳴らしたり屈伸や伸脚をしながら答える。

「でだ。アンタらはそっから5分は動くなよ。」
「・・・追手ですか?」
「ああ。尤も、アイツらにとって私らとの遭遇は計算外だったらしいがな。」
「もしかして、タクトさんを此処に連れてきたのは・・・。」
「まっ、そういうこった。じゃ、ラス。頼んだぜ♪」

ネスは笑顔でそういうと走り去ってしまった。
そしてしばしの静寂の後、2箇所から鳴り響く乾いた音。
片方は恐らく密猟者が対狩人に向けて発砲した物。そしてもう片方は・・・。
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