「ま、たちばなしも何だし。どっか入ろうぜ」
突然の提案に、まあいいか、と頷いた。
よく使う喫茶店まで歩いて一分もかからない。
「それで、死人酔拳メカキョンシーVSロボゾンビーズ~青いトマト帝国の逆襲~というB級真っ青の……」
「なんだそりゃ? そんなもんあったっけか?」
「ありますよ。あれ、もう終わったのかな?」
雑談をしながら、いつもの喫茶店のドアを開けて、いつもの席に座る。
コーヒーふたつ。ブラックと、砂糖ミルクたっぷり。
ブラックなんてよく飲めるな、と橘は毎回思うのだが、彼は平然と飲む。いったい、苦いだけの何がいいのか。
「で、これから映画か?」
「はいです。せっかくですし」
「言っとくが、ラブロマンスはダメだぞ」
「別にいいです。代わりにさっきのB級見ますから」
と、キョンがチラチラと時計を確認する。
「……?」
自分の視線に気づいたのか、慌ててこちらを向く。怪しい。
「何かあるんですか?」
「……いや、何かあるわけじゃないんだが」
頭の中で映画の上映時間と照らし合わせる。休日の午前中だ。
混むかもしれないが、二人ともそれが辛いという訳でもない。
「……」
「……わかった。教える。教えるから、そんな目で見るな」
運ばれてきたブラックコーヒーを一口。
「……お前さ、占いには興味あるか?」
「これでも女の子ですよ。あるにきまってます」
「まあ、それみたいなもんだ」
ちらり、とまた時計を見る。
「……いい加減、教えてください」
「……まあ、お遊びみたいなもんでな」
しぶしぶと語りだす。
「女子の方が詳しいと思うんだがな。こういうのって。
俺も佐々木に聞いたんだが」
言葉を選んでいるようだった。ちょっと間をおいて、彼は言った。
「相手の名前を会話に混ぜるゲーム。正式名称は知らないんだが……知ってるか?」
ああ、それか。
ようやく、理解した。
それなら、何度も聞いたことがあるし、恐らく彼より詳しい。
これは、よくある恋占いの一種だ。女子高生に流行りの、よくある恋愛ゲーム。
ルールは簡単だ。
会話をしている相手の名前を、相手に気づかれることなく言葉に含ませる。
例えば、藤原さんのあだ名にパンジーやらポンジーなどがある。
だから、彼との会話中に、チンパンジーやら、スポンジなどと言った言葉を混ぜる、というのがこのゲームのやり方だ。
もちろん、本名でもいい。
古泉さんも、よく前の首相の話を聞きますね、政治に興味を持たれることは言いことです、と微笑んでいたっけ。
最近、藤原さんや古泉さんのあだ名を知らないか、とよく聞かれるのはそのせいだ。
最近の女子の間ではチンパンジーやスポンジが流行っているのか、と愚痴られたのは記憶に新しい。
もちろん、ルールはこれだけじゃない。
一番、大切なことがある。
相手に気づかれることなく、10分過ごすこと。
10分過ごすことができたら、二人は幸せになれる、といういつもの文句。
ただ、気づかれたら、そこでアウト。
そういった意味で、あの二人もダメだ。
藤原も自分のあだ名が連呼されているみたいだ、と言っていたし、古泉も、同名の首相というのもいいものですよ、と微笑んでいたのだし。
発端は、雑誌かと思ってたらインターネットらしい。まったく、何が流行るか分からない。
突然の提案に、まあいいか、と頷いた。
よく使う喫茶店まで歩いて一分もかからない。
「それで、死人酔拳メカキョンシーVSロボゾンビーズ~青いトマト帝国の逆襲~というB級真っ青の……」
「なんだそりゃ? そんなもんあったっけか?」
「ありますよ。あれ、もう終わったのかな?」
雑談をしながら、いつもの喫茶店のドアを開けて、いつもの席に座る。
コーヒーふたつ。ブラックと、砂糖ミルクたっぷり。
ブラックなんてよく飲めるな、と橘は毎回思うのだが、彼は平然と飲む。いったい、苦いだけの何がいいのか。
「で、これから映画か?」
「はいです。せっかくですし」
「言っとくが、ラブロマンスはダメだぞ」
「別にいいです。代わりにさっきのB級見ますから」
と、キョンがチラチラと時計を確認する。
「……?」
自分の視線に気づいたのか、慌ててこちらを向く。怪しい。
「何かあるんですか?」
「……いや、何かあるわけじゃないんだが」
頭の中で映画の上映時間と照らし合わせる。休日の午前中だ。
混むかもしれないが、二人ともそれが辛いという訳でもない。
「……」
「……わかった。教える。教えるから、そんな目で見るな」
運ばれてきたブラックコーヒーを一口。
「……お前さ、占いには興味あるか?」
「これでも女の子ですよ。あるにきまってます」
「まあ、それみたいなもんだ」
ちらり、とまた時計を見る。
「……いい加減、教えてください」
「……まあ、お遊びみたいなもんでな」
しぶしぶと語りだす。
「女子の方が詳しいと思うんだがな。こういうのって。
俺も佐々木に聞いたんだが」
言葉を選んでいるようだった。ちょっと間をおいて、彼は言った。
「相手の名前を会話に混ぜるゲーム。正式名称は知らないんだが……知ってるか?」
ああ、それか。
ようやく、理解した。
それなら、何度も聞いたことがあるし、恐らく彼より詳しい。
これは、よくある恋占いの一種だ。女子高生に流行りの、よくある恋愛ゲーム。
ルールは簡単だ。
会話をしている相手の名前を、相手に気づかれることなく言葉に含ませる。
例えば、藤原さんのあだ名にパンジーやらポンジーなどがある。
だから、彼との会話中に、チンパンジーやら、スポンジなどと言った言葉を混ぜる、というのがこのゲームのやり方だ。
もちろん、本名でもいい。
古泉さんも、よく前の首相の話を聞きますね、政治に興味を持たれることは言いことです、と微笑んでいたっけ。
最近、藤原さんや古泉さんのあだ名を知らないか、とよく聞かれるのはそのせいだ。
最近の女子の間ではチンパンジーやスポンジが流行っているのか、と愚痴られたのは記憶に新しい。
もちろん、ルールはこれだけじゃない。
一番、大切なことがある。
相手に気づかれることなく、10分過ごすこと。
10分過ごすことができたら、二人は幸せになれる、といういつもの文句。
ただ、気づかれたら、そこでアウト。
そういった意味で、あの二人もダメだ。
藤原も自分のあだ名が連呼されているみたいだ、と言っていたし、古泉も、同名の首相というのもいいものですよ、と微笑んでいたのだし。
発端は、雑誌かと思ってたらインターネットらしい。まったく、何が流行るか分からない。
しかし、今までの会話で自分の名前なんてー
――まあ、たちばなしもなんだし、―――
「あ」
時計の針が、かちりと動いた。
長針を目で追う。今、喫茶店に入って9分は経過した。
だが、10分は過ぎていない。
「……はぁ」
気づいちまったか、という顔をキョンはした。
つまり、自分は10分経過する前に気づいた訳だ。
「……妙なことしますね、時々」
「悪かった」
恥ずかしいからやめてくれ、とでも言いたげな表情だった。
そう思うのならやめればいいのに、と橘は思う。
「それで、10分を数えてたんですよね。何分ですか?」
「……妙なことを聞くな」
「いいじゃないですか。教えてくださいよ」
「……ええっと、今、9分と45秒………今、10分経った」
あと30秒遅ければ、彼の目論見は成功していた、という事か。
「……まあ、いいです。私の勝ちですから」
「ま、気付かれちまったしな」
やれやれ、と肩をすくめる。
その動作に、くすっと笑いが出た。
拗ねてる。
「で、何だっけ。お前が見たいって言ってた映画」
「今見たい映画なんてないですよ」
おいおい、という表情。
「ここに入る前に言ってたろ。なんだっけか。えーと、」
鈍感だなぁ、と橘は思う。まだ気づいてない。
「キョンシーVSゾンビなんとか、ですか?」
「それだ。なんとかキョンシーVSなんとかゾンビ……」
そこまで言って。ようやく、彼は気づいたらしい。
「……キョン、シー、か」
「はい。キョン、シー、です」
時計を見る。喫茶店に入ってから、すでに10分が経過している。
キョンがコーヒーを飲み干した。
「お前、ときどき賢いよな」
「し、失礼ですね。時々じゃなくていつもです」
ふん、と拗ねてみせる。
と、やれやれ、と言いたげに、キョンが席を立った。電票を手に取り、手を差し出す。
「まあ、なんだ。映画でも見よう」
「キョンシーとゾンビのB級映画ですか?」
「いや。ラブロマンスなんて、どうだ?」
「……しょーがない。それで手を打ちます」
振り向き、へへっと笑って、彼の手を取った。
腕を組む。
これから幸せになれるかどうかなんて、努力次第だろうけれど。
まあ、今は。
「ほら、早く行きましょう」
「おいおい。そう急かすな」
「だって、キョンさんとロマンスを見るなんて滅多にない事ですし」
「いや、だってさ。カップルだらけだろ」
「あたしたちはカップルじゃないんですか?」
「い、いや、そういう訳でもなんだが」
クスクスと笑う。
今は、まあ。
時計の針が、かちりと動いた。
長針を目で追う。今、喫茶店に入って9分は経過した。
だが、10分は過ぎていない。
「……はぁ」
気づいちまったか、という顔をキョンはした。
つまり、自分は10分経過する前に気づいた訳だ。
「……妙なことしますね、時々」
「悪かった」
恥ずかしいからやめてくれ、とでも言いたげな表情だった。
そう思うのならやめればいいのに、と橘は思う。
「それで、10分を数えてたんですよね。何分ですか?」
「……妙なことを聞くな」
「いいじゃないですか。教えてくださいよ」
「……ええっと、今、9分と45秒………今、10分経った」
あと30秒遅ければ、彼の目論見は成功していた、という事か。
「……まあ、いいです。私の勝ちですから」
「ま、気付かれちまったしな」
やれやれ、と肩をすくめる。
その動作に、くすっと笑いが出た。
拗ねてる。
「で、何だっけ。お前が見たいって言ってた映画」
「今見たい映画なんてないですよ」
おいおい、という表情。
「ここに入る前に言ってたろ。なんだっけか。えーと、」
鈍感だなぁ、と橘は思う。まだ気づいてない。
「キョンシーVSゾンビなんとか、ですか?」
「それだ。なんとかキョンシーVSなんとかゾンビ……」
そこまで言って。ようやく、彼は気づいたらしい。
「……キョン、シー、か」
「はい。キョン、シー、です」
時計を見る。喫茶店に入ってから、すでに10分が経過している。
キョンがコーヒーを飲み干した。
「お前、ときどき賢いよな」
「し、失礼ですね。時々じゃなくていつもです」
ふん、と拗ねてみせる。
と、やれやれ、と言いたげに、キョンが席を立った。電票を手に取り、手を差し出す。
「まあ、なんだ。映画でも見よう」
「キョンシーとゾンビのB級映画ですか?」
「いや。ラブロマンスなんて、どうだ?」
「……しょーがない。それで手を打ちます」
振り向き、へへっと笑って、彼の手を取った。
腕を組む。
これから幸せになれるかどうかなんて、努力次第だろうけれど。
まあ、今は。
「ほら、早く行きましょう」
「おいおい。そう急かすな」
「だって、キョンさんとロマンスを見るなんて滅多にない事ですし」
「いや、だってさ。カップルだらけだろ」
「あたしたちはカップルじゃないんですか?」
「い、いや、そういう訳でもなんだが」
クスクスと笑う。
今は、まあ。
幸せと、言えなくもない。
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