ハルヒと親父 @ wiki

親父の臨終

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haruhioyaji

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母 
お父さん、あと何か言いたいことはありますか?
親父
プロポーズのこと覚えてるか?
母 
ええ、もちろん。
親父
俺と同じくらい長生きしてくれ、って言ったっけな。
母 
こんなおばあちゃんになるまで生きられるなんて誰も思わなかったわ。お父さんのおかげよ。
親父
俺が死んでも、合わせなくていいぞ。2倍ぐらい長生きしてもいい。
母 
一人でさびしくないんですか?
親父
娑婆がにぎやか過ぎた。さびしいってやつを思いだすのに時間が必要だ。
ハルヒ
にぎやかさの半分は、親父のせいでしょ!
親父
あとの半分はおまえだ。なあ、キョン、おまえもそう思うだろ?
キョン
はい。
親父
あとは頼むぞ。といっても、こいつら勝手になんとかするからなあ。
キョン
ええ。
親父
ああ。最後にかっこいいこと言って死のうと思ってたんだがな。
ハルヒ
いいわよ、最後ぐらい。聞いてあげるわよ。
親父
いや、普段から言いすぎて、肝心なときにネタ切れだ。
ハルヒ
あほ。
親父
キョン、おまえのでいいから、なんかくれ。
キョン
すいません。追い詰められないと、出てこないんで。
親父
義理とはいえ、親父が死ぬんだから、もうちょっと追い詰められろよ。
キョン
すいません。
親父
といっても、末期の言葉が『ポニーテール萌え』じゃあなあ。
キョン
すいません。高一の時の言葉はさすがに勘弁してください。
ハルヒ
カントの時世の言葉がいい、って前にいってたじゃないの?
親父
Es ist gut ! か? ありゃ日本語に訳したら、バカボンのパパだぞ。『これでいいのだ』
ハルヒ
あんたは、もう、それにしときなさい!
親父
『あの世にも、粋な年増はいるかしら』じゃ噺家だしなあ。
母 
さびしさをおもいだすんじゃなかったの?
親父
失策だ。死ぬまで悔やみそうだ。
ハルヒ
いったい、いつ死ぬのよ?
親父
ほんとは話すのだって苦しいんだぞ。
ハルヒ
無理に話さなくていいのよ! そしたら周りで勝手に悲しむのに。
親父
……お前の孫に生まれ変わってやる。
ハルヒ
呪いをかけてどうしようっての? 最後ぐらい、さわやかにいきなさい!
母 
お父さん。
親父
ん?ああ。……おまえら、子に孫ども、ちょっと向こう向いてろ。
ハルヒ
なによ?
親父
いいから。

「……」

 振りかえると、ハルヒの母さんは、横たわった親父さんを抱きしめていた。さっきまで彼女の背中に回っていただろう親父さんの手が落ちてしまわぬように握っていた。

「母さん?」
「うん。いっちゃった」
 そう言って、ハルヒの母さんは、目を閉じた親父さんに口付けすると、一人娘を抱きしめ、その背中をぽんぽんと軽く叩いた。 
「さびしくなるわね」

 ハルヒが泣き始める前に、俺は子供たちを連れて病室を出た。
「ねえ、パパ。ママとおばあちゃん、泣いてるの?」
 子供の一人が尋ねる。
「そうだな」
「どうして?」別の一人が聞く。
「おじいちゃんが死んだ、もう会えないんだ。なんか泣きなくならないか?」
「なる」「ぼくも」「あたしも」
「こういう時は泣いたっていいんだ」
「パパは泣かないの?」
「泣いてるさ。泣き方が違うだけだ」
「どうして?」
「おじいちゃんに頼まれたからな。後を頼むって」

「ねえ、パパ.おじいちゃん、最後になんて言ったの?」
「ん?」
「向こうむいてろ、の後、おばあちゃんに何か言ってたよ」
「その後、おばあちゃんの声もした」
「聞こえたか?」
「うん。でもわかんなかった」「ぼくも」
「そうか。でも覚えとこうな。分かる日が来たら、その日はきっと大切な日になるから」



親父
I LOVE YOU.
母 
I KNOW.








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