ハルヒと親父 @ wiki

ハルキョン家を探す その4

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haruhioyaji

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 父親が帰宅し両親が揃ってから話をした方がいいだろうと、俺とハルヒはファミレスで時間をつぶし、それから俺の家へと向かった。

 予想していたことではあったが、うちの家の反応は、鷹揚にして寛容な涼宮家のそれにほど遠く、当惑と難詰とからなる、よくもわるくも、ごく常識的のものだった。
「仲がいいのは結構な話だが、正面切って『同棲』したいんだと言われても、反対だとしか言えないな」
 俺の父親がついたため息を引きとって、今度は母親が口を開く。
「ふたりはまだ高校生なんだし、その歳にふさわしいお付きあいの仕方があるとおもうわ。それにハルヒちゃんのご両親だって心配なさると思うし」
 ハルヒは顔を上げて、いつもの二割増で目に力をこめて言う。
「あの、うちの両親には話しました、ふたりで」
「そう、どうおっしゃっていらしたの?」
「するなら自分たちの甲斐性と責任で、と言われました」
「そのとおりだな。この話は、今の二人の甲斐性と責任を越えたものだと思う。古い考えかもしれないが、まだ結婚もしてない男女が一緒に暮らすことが、いいことだとはどうしても思えない」
「10代で結婚するのは昔は普通だったし、今もそういう人たちはいるけれど、仕事もなかなかないし、あってもそんなにたくさん貰えるわけじゃないから生活は大変みたいだわ。生活費や家事・子育てについて、親の支援を受けながらというケースもあるけど、それも望んでするものじゃないと思うの」
「まして二人はこれから大学受験が、その先には就職だってある。このことを二人がないがしろにしてないのは、毎晩勉強してることや、息子の成績の変化だけを見てもわかるよ。だから、それだけに、今日聞いた話には正直驚いたし、少し残念だな」

 親たちが言う言葉や口調からは、親なりに俺たちを心配してくれているのがよくわかった。加えて、親たちが言うことは、現実的に見ても常識に照らしても、間違っていなかった。それに親たちが指摘した問題や限界は、俺たちも自覚していて、なおかつ今すぐに解決の見つからないものだった。
 事を運ぶにあたってどういう問題があるのかについては、親たちと俺たち二人の見解はほとんど一致していた。違うのは、俺たちは「どうしたいか」を考えていて、親たちは「どうすべきか」「どうあるべきか」を考えていることだった。当然、話は平行線をたどり、早々に暗礁に乗り上げ、そして乗り上げたままだった。
 沈黙が、その気まずい場を、靄のように包み満たした。沈黙だって? 俺は心の中の何かのゲージが限界近くまで上がってきているのを感じて、何故かあわてて隣のハルヒを見た。
 正直に言おう。日頃ハルヒの暴言にツッコミを入れ、無茶を引きとめるのが習い性になってきたせいか、どこかでこいつをとめるのは俺の役目だとうぬぼれていたらしい。すれ違う互いの想いと主張、進まぬ話し合いへのいらだちにキレかかっていた俺は、ハルヒの方が今にもキレようとしているんじゃないかと邪推したのだ。

 涼宮ハルヒが黙っていた。

 何よりも、そして誰よりも負けるのが嫌いで、口と手が互いに我先にと争って出撃するあのハルヒが、唇を噛みしめ、膝の上でぎゅっと両手を握っている。だがハルヒは、いつにもましてハルヒだった。たじろかず、顔はうつむかず、星団をいくつも詰めこんだような目を大きく開けて、じっと前を、俺の親ふたりを見つめている。

 俺は、ハルヒの膝の上で握られたその手に、自分の手を重ねた。
 はげますつもりか、はげまして欲しいのか、どちらともつかない気持ちだったが、今はどうだっていい。俺はこいつの手の温かみを感じて、それに力を得て顔を上げた。
「父さん、母さん」
沈黙が破られ、時間が動き出す。
「ハルヒのこと、好きか?嫌いか?」
「そりゃハルヒちゃんのことは好きですよ、ねえ」
「ああ、しっかりした娘さんで、おまえにはもったいないくらいの……」
「俺はこいつが好きだ」
すうと息を吸い込む。そして
「早すぎるというなら待つ。頼りないというならしっかりするよう努力する。甘いというならそのとおりだろうし、夢みたいなっていうなら本当に夢みたいなことを言ってるんだろうと思う。今すぐは無理だというのも分かってる。そんな生活を支える力が俺たちにまだないってことも。でも、これは俺たちの夢なんだ。どれだけかかっても、二人で実現したいと思ってる。……あの、聞いてくれてありがとう。ハルヒを送ってくるよ」
 俺は立ちあがり、手を引いてハルヒを立たせようとした。しかしハルヒはこちらを見ず、逆にその手を下に引っ張り、もう一度俺を席に付かせようとした。まだ終わってないわ、と言うように。
「待ちなさい」
母が息をつき、やわらかい声で言った。
「ハルヒちゃん、夕飯食べていきなさい。ね、あなた」
「ああ。そうしなさい。……準備に少し時間がいるだろうから、一度部屋の方へ行ってなさい」

 夕食が済み、俺はハルヒを送っていくために玄関を出た。
 一度しまったドアが開いた。飛び出して来たのは妹だった。妹は一直線にハルヒの方に駆け寄り、振り向いたハルヒの胸に飛び込んでいった。
「ハルにゃーん、ごめんね、ごめんね」
「よしよし。あー、謝んないで。あたしの方こそ、ごめん。お父さんとお母さんに言いたくないこと、一杯言わせちゃった。妹ちゃんにも悲しい思いさせたね。ごめん」
「ううん。ハルにゃんもキョン君も悪くないよ。あたし、今日の話、すごくうれしかったよ」
「そっか……ありがとね、妹ちゃん。あたしも、それ聞いてすごくうれしい。元気、もらっちゃったね」
「ハルにゃん、お父さんとお母さんのこと、嫌いにならないでね」
「ううん、ならないよ。あんなにちゃんと、あたしたちのこと叱ってくれたんだもの」
「あとあたしのことも。それにキョンくんのことも」
ハルヒが吹き出し、俺がそれに続いて笑った。
「ならないよ、嫌いになんて絶対ならない」
「約束だよ」
「うん、約束しよ」
 妹とハルヒは玄関の前で短い指きりをした。二人のつながった手が、「ゆびきりげんまん」の歌に合わせて上下に動いた。
 歌が終わって、その指が離れる。妹はその指を少し見つめて顔を上げた。妹に会わせて少しかがんでいたハルヒは、膝を伸ばして、もう一度妹の顔を見た。
「じゃあね、ハルにゃん。おやすみなさい」
「うん、またね、妹ちゃん。おやすみ」


 次の日、ハルヒは学校に来なかった。
 メールを打つと、「風邪引いた」とだけ返事が来た。

 昼休み、古泉に呼び出されて部室に向かう途中、鶴屋さんに会った。
「聞いたよー、キョン君。ハルにゃんのおやっさんに挑戦状叩き付けたってえ? 『この度、麗しき姫君を私のコレクションに加えたく候。明日、丑三つ時に戴きに参上したく申し候』って感じかな?」
「それじゃ『予告状』ですよ。あと、どっちかっていうと、ハルヒの親父さんから叩き付けられたんです」
「じゃ、受けて立ったんだ、そいつぁ男の子だあ。お姉さんは鼻が高いよっ!」
「問題はハルヒの家より、うちなんですが」
「そういや、ハルにゃんを見かけないねえ。休みかな?」
「風邪らしいですよ。なんとかの霍乱かな」
「ふんふん。まあ、焦らず急がず進むがいいや。何かあったら相談ぐらいは乗るにょろよ」
「ありがとうございます。でも、鶴屋さん、どこでその話を?」
「シークレットっさ。依頼人の秘密を守るのは探偵の基本きょろ。そいじゃねー」

 昼休みの部室には、いつものように置物と化して本を読んでいる宇宙人と、随分と先に来たらしくボードゲームを並べて一人で駒を動かしている超能力者がいた。
「お呼び立てしてすみません」
「何か非常事態か?」
「今のところ閉鎖空間の類いは出現していませんね。お心当たりでも?」
「あっても宇宙的未来的超能力的な話じゃない」
「なるほど。さしずめファミリー・アフェア(家族の問題)といったところでしょうか?」
「お前、ほんとはテレパシー方面の超能力者じゃないのか?」
「機関ではそういった研究や訓練を行っている部門も確かにありますが」
「まあいい。用件を聞こう」
「放課後、涼宮さんのお見舞いに行かれますか?」
「ああ、そのつもりだったが。おまえのところにもメールが来たのか?」
「正確には僕のところにだけメールが来ました。『今日は風邪で休んでるからSOS団も休みにするわ。有希とみくるちゃんとキョンにも伝えて』。おかしいとは思いませんか?」
「どこがだ?」
「『キョンにも伝えて』というところですよ。メッセージの宛先にあなたも入っている。しかし、僕がメッセージをお伝えする前に、当然と言うべきでしょうが、あなたは涼宮さんの欠席を知っておられた」
「同じクラスだ、嫌でもわかるだろ?」
「僕が『お見舞い』といっても素直に応じられましたね」
「ああ。休んでやがるんでハルヒの奴にメールしたら、風邪だからと返事が来た」
「失礼ですがメールをやり取りされたのはいつです?」
「1時限目が始まる前だが」
「ぼくが涼宮さんからのメールを受け取ったのは、あなたにメールした直前、つまり4時限目終了直後です」
「どこがおかしい?」
「やはり『キョンにも伝えて』というところですね。1時限目の時点で、あなたは涼宮さんの欠席及び欠席の理由まで知っておられた。他の団員へはともかく、あなたにはもはや伝えるべき情報がほとんどない」
「どうせ一度言ったくらいじゃ忘れるかもしれないと思ったのさ」
「意図的に無視されることがあっても、あなたが涼宮さんとのやり取りを忘れるなんてあり得ません」
「あのなあ。それに部活が休みだって情報は、お前からはじめて知らされたぞ」
「そうです、それだけが新たに加わった情報というわけですが……」
「何か言いたいことがあるなら、結論を言ってくれ。昼休みが終わりそうだ」
「いうまでもありませんが、SOS団は名実ともに涼宮さんの団です。彼女抜きで活動することはあり得ないし、これまでもありませんでした。涼宮さんを巡る事件について、ぼくら4人が集まり何らかの対策を講じることはありましたが、それは涼宮さんの知るところではありませんし、また知られてはならない事項であり、当然ながらSOS団の活動でもありません」
「結論を、と言ったはずだぞ」
「失礼。解説役が習い性になっているようです。ですが、結論ならあなたから、最初にお聞きしているので、僕が何か付け加えるのも蛇足だというものかと」
「見舞いのことか?」
「確かに涼宮さんは一回では足りないかもしれないと思い、ダメを押されたとも言えますが、メッセージの含みは、むしろあなた以外のメンバーに向けられていると考えるのが正しいでしょう。部活が休みなら、我々は三々五々帰途につくことになる。場合によっては『みんなでお見舞いを』という無粋な提案がなされるかもしれません。ですが、僕があなたに涼宮さんのメッセージを伝え、それに対してあなたが我々に自分はそのことを《すでに知っている》と伝えれば、他3人は間違いなく『気をきかせる』でしょう。これで涼宮さんの願望は成就する。つまり『キョンにも伝えて』という部分は、あなたに情報を伝えることではなく、むしろ僕とあなたに情報の交換をさせることを意図したものと考えられます」
「俺に言わせれば、単なる考え過ぎだ」
「では、そういうことで結構です。結論は同じですから」
長門がバタンと本を閉じた。話は終わった。俺たちはそれぞれの教室に戻るべく、部室のドアを開け外に出た。
「……いや、同じじゃないかもしれんな」
「どうしました?」
「多分、考え過ぎだ。だが礼は先払いしとく。見当違いだと分かったら、後で取り消させてもらうぞ」
 俺は「ありがとな」と言い捨て、廊下を走った。後ろで優雅に肩をすくめる超能力者と、液体ヘリウムみたいな目を向ける宇宙人が、俺を見送っていた。

 俺は教室に舞い戻って自分の鞄をひっつかみ、谷口と国木田に「腹が痛いんで早退する」と言い捨てて、また走り出した。
 ハルヒが風邪で寝込んでいるなんて考えられない。昨晩、メンタル面はどうあれ、あいつの体はピンピンしてた。触れても熱はなかった。
 状況証拠なら、まだある。2回のメールがそれだ。ただ伝えるだけなら、古泉の言うように、メールはどちらか一通で十分だった。俺から古泉たちにハルヒの休みを知らせれば、それだけで部活は自動的に休みになっただろう。古泉宛にメールするのでも同じことだ。
 重複しているのは、メールそのものだけじゃない。「風邪で」という部分もそうだ。1通目の俺への返事は、休みの理由は俺が予想するようなものではなく、ただの「風邪」なんだという「言い訳」の含みがあった。そして2通目の古泉へのメールへも同じ「風邪」という理由が添えられていた。俺にならともかく、夕べの一件を知らないはずの古泉には「言い訳」の必要はない。つまり、それは夕べの一件を知る者に対する駄目押しだ。
 くそったれ。普段は、何をしでかすか一向に分からないが何がやりたいかは響いてくるように分かりやすいくせに、こういう時に限って、かすかでわかりにくいメッセージを発しやがる。気付くな、でも気付け、とでも言ってるみたいだぞ、ハルヒ。
 だが、朝のメールのやり取りだけなら、俺はハルヒを訪ねることを躊躇したかもしれない。何より今の俺にはハルヒにかけてやるべき言葉が思いつかなかった。
 夕べのハルヒの言動、態度に落ち度はない。ないどころか、あれ以上なんて俺には到底考えつかない。あの後の夕食でも、ハルヒはいつものように笑いながら、おいしそうに食べていた。ハルヒの振る舞いはベストに限りなく近いものだっただろう。それでも成果はないに等しかった。
「あたし、どうしたらいいと思う?」
とハルヒに尋ねられたら、俺はきっと何も答えられないだろう。

 それでも俺はペダルを踏み込み自転車を走らせ、ハルヒの家の近くまで来ていた。この大通りの信号を渡って少し行って角を二つばかり曲がれば涼宮家の前の道に出る。
 ところが信号待ちしている時、思わぬ人物がまだ信号が変わらぬ大通りを、散歩するみたいに勝手気ままに、車の間を渡ってやって来た。この人は、天下の公道でもマイペースなのか。
「よう、少年」
「ハルヒの親父さん? なんでこんなところに?」
「知っているとは思うが、俺の家はこの近くだ」
ということではなく、何でこんな真っ昼間に、家の近くにいるのかが知りたかったのだが。
「知ってる顔が妙にしけた面してるのが見えたんでな、赤信号を渡って参上した」
「・・・すいません」
「いつもの面倒くさそうに余裕こいた面はどうした? 早速、壁に当たっちまったか?」
「余裕なんか……」
「当たり前だ。おまえさんたちに余裕こかれたら大人の立場がない。大人なんてな、ヤクザとおなじで、ケチな面子だけでなりたってるんだ」
「……」
「秘密厳守で話を聞いてやる。だから缶コーヒーをおごれ。ギブ・アンド・テイクだ」

「自分の至らなさに思い至ったなら、それで結構だ。『もっとこうできたら』とか『ほんとはこうすべきなのに』とか『〜できない』とか『なんて落ちこんでる場合じゃないのに』とか思って、その手のネガティブな感情や考えにとらわれて落ちこんだら、自分にこう言え。『それで結構だ』」
ハルヒの親父さんは、軽く握ったこぶしで、自分のおでこをこんこんと軽く叩いた。
「人間の頭なんて皮肉なもんでな、思考抑制といって『ピンクの象のことを決して考えるな』と言われると、ますますピンクの象のことなんか考えちまう。だから「こんなダメなこと考えてはダメだ」とネガティブな考えを振り解こうとすればするほど、はまっちまうんだ。震えを止めようとしても、余計震えてしまうだろ。そんなときはわざと自分から震るえてみると意外と簡単におさまるもんだ」
「あの・・・ありがとうございます」
「単なるMind Hackな豆知識だ、googleればいくらでも出てくる。礼には及ばん」
親父さんは軽く手を上げて、やってきたタクシーを止めた。
「……じゃあな。遊んでるように見えるだろうが、これでも仕事中なんだ」
 俺は頭を下げた。タクシーが走り去った。

 「こんにちは」
「あら、キョン君、いらっしゃい」
ハルヒの母が出迎えてくれた。2階に向かって声をかける。
「ハル、キョン君が来てくれたわよ」
そういってから声を落とす。
「ちょっとご機嫌斜めよ」
「大丈夫です。そこでおやじさん……もとい、お父さんと会いましたよ」
「不思議な人ね。セルフ・フレックス・タイムとか言ってるんだけど」
「キョン! あんた、なんでこんなとこ居るのよ!」
「こんなところって、ここお前のうちだろ?」
「そういう意味じゃない! なんでこんな時間にうちに来てるのよ! まだ授業あるでしょ!」
「だから腹痛だって早引きしてきた」
「何をのんきな。授業をさぼれるような成績じゃないでしょ、あんたは」
「おまえこそ、《か・ぜ》なのに、起きて来ていいのか。せめて上になんか羽織れ」
「うっさい! 羽織れば良いんでしょ、羽織れば」
 ハルヒ母にうながされて、俺は階段を上った。部屋からあわてて出て来たハルヒは、
「こ、こら。まだあがってくるな! あんた、誰の許しを得て……」
「はーい。母さんが許可しました」
ニコニコ顔のハルヒ母は、振り向くと階段の下で手まで振っている。
「は、はあ。ちょっと、待ってなさい。すぐだから」
 ハルヒはドアを閉めた。内からしばらくガサゴソガサゴソという大きな音が聞こえたが、しばらくしてそれが止み、再びドアは開いた。
「どうぞ。入って」
「何をしてたんだ?」
「何でもないわ。単なる妄想よ」
「お前くらいになると、妄想だけであんな大きな音がするのか?」
「んなわけないでしょ!」
「なんだ、その図面みたいなのは?」
「部屋の模様替えプランよ」
「そうか。……ところどころ、俺の名前、というか『キョン』という文字が見えるんだが?」
「だから妄想って言ってるでしょ! ち、ちょっと笑うなんて失礼よ!」
どうやら俺は笑っていたらしい。自分で気付かなかった。
「す、すまん。いや、さすがハルヒだな、と思ってな」
「あんたにバカにされるほど頭に来ることはないわね」
「バカにしとらん。というか、バカにするなら俺の方だ」
「はあ?」
「来るには来たが、ここ笑うとこだぞ、どうやってハルヒを慰めようかと、実は途方にくれていた」
「はあ、何よ、それ?」
「俺は自分勝手にも、あの涼宮ハルヒが落ち込んでいるだろうと決めつけて、のこのこやって来た訳だ。この際だ、殴っても良いぞ」
「あんたのクサレ頭をどつく拳は持ち合わせてないわ。で、なんで、あたしが落ち込まなきゃいけないわけ?」
「夕べの件だ。俺が謝るのもおかしいが……」
「まったくもっておかしいわよ! 昨日のどこがどうまずかったって訳? あたしはほとんど勝ちどきを上げたい気分よ」
「いや、おまえは全然まずくなかったぞ。だが、うちの親は頑固に常識的だったし、話も進まなかったし」
「なんでもイエスというなら親なんていてもいないのと同じよ。あたしは昨日のは上出来だったって思ってるわ。その後の夕ご飯もおいしかったし、妹ちゃんは泣かせるくらい良い子だし、あんたも、まああんたなりに頑張ったしね。あたしたちの計画はまずは幸先の良いスタートを切ったわ」
と言って、ハルヒは巻き紙のようなものを放ってよこした。
「今後の詳細な計画よ」
「毛筆で手書きかよ。いつの時代の人間だ」
「メールで横書きよりも雰囲気出るでしょ。計画にはね情感に訴えるものが必要なの!」
「それはいいが、こっちの妄想模様替えプランが何か教えてくれ」
「そ、それは……、最終手段よ、自爆装置みたいなものよ」
「もう自爆したみたいな真っ赤な顔になってるぞ。つまり、あれか?」
「そうよ! あらゆる手をつくして駄目だった場合、あんたを拉致してここで暮らす場合、どうすればいいか、っていう見取り図よ。笑うな! 交渉事にはね、最終撤退ラインを決めておくのがセオリーなの! 最終撤退ラインのレベルが高ければ高いだけ、強気で交渉に当たれるのよ! それだけのことなんだからね! だから笑うなって言ってんの!」



→ハルキョン家を探す その4










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