ハルヒと親父 @ wiki

1月31日 妻にささげる日

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haruhioyaji

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 「ちょっとキョン! ここ、どこ?」
「群馬県だ。あそこで噴火してるのが浅間山、その向こうはもう軽井沢だけどな」
「もうって、通り過ぎてるじゃないの!」
「いや、上田菅平ICで降りて国道144号線を来たからな」
「って、細かい地名を言ってもわかんないわよ!」
「正直おれもわからんが、もうすぐ目的地につくらしいぞ」
「どこよ?」
「嬬恋(つまごい)村だ」
「それって中島みゆき、長渕剛、佐野元春、チャゲ&飛鳥、谷山浩子、八神純子を輩出したヤマハポピュラーソングコンテスト(通称POPCON)の本選が開催されたとこ?」
「残念ながら、それは静岡県掛川市にある嬬恋だ。よく勘違いされるけどな」
「あ、あんた、そんなところまで妻を求めに行く訳!?」
「いや、『請う』じゃなくて『恋う』と書く。そこに村の名前にちなんだ『愛妻家協会』というのがあるらしい。なんでも嬬恋村は、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が世界で始めて愛妻家宣言をした場所らしい。元々、村名もそれにちなんでるんだけどな」
「それ『古事記』のどこに書いてあんのよ?」
「いや、『古事記』を出典にするのは静岡県の嬬恋の方で、『日本書紀』を出典とするのがおれたちが行く方の嬬恋だ。日本武尊とその妻、弟橘媛(オトタチバナヒメ)の下りだが、東国の12か国(伊勢、尾張、三河、遠江、駿河、甲斐、伊豆、相模、武蔵、総、常陸、陸奥)の平定を命じられた日本武尊が、船に乗って三浦半島沖から房総半島に向かったんだが……」
「伊勢から陸奥までってメチャクチャ広いじゃないの!」
「そうだな。で、船出した直後に嵐が来て、弟橘比売は『海神の祟り』だと言い、海の怒りを静めようと海に身投げした。すると嵐はおさまった」
「ちょっと待ちなさい! あんた、絶対そういうことしちゃダメだからね!」
「おれが身投げするのか。まあ、どっちかっていうと、おまえは嵐を起こすタイプだが……」
「それで?」
「で、『古事記』では、足柄坂(神奈川・静岡県境)の神を打ち殺し、東国を平定して、四阿嶺に立ち、そこから東国を望んで弟橘姫を思い出し、「吾妻はや」(わが妻よ…)と三度嘆く。これが東国を「あづま」と呼ぶようになった由来だというんだが、静岡県の嬬恋はこっちだ。『日本書紀』では侵略コースが大幅に違って、上総からさらに海路で北上し、北上川流域(宮城県)まで至っている。陸奥平定後は甲斐酒折宮へ入り、武蔵(東京都・埼玉県)、上野(群馬県)と巡って、鳥居峠(群馬・長野県境)で、「あづまはや…」と嘆く。群馬県の嬬恋村はこっちだ。ついでにいうと吾妻郡の嬬恋村だ」
「長いのよ、話が! 通り過ぎちゃったんじゃないの?」
「で、吾が妻恋し村 嬬恋村愛妻家聖地委員会というのがあってな」
「はあ? さっきの愛妻家協会はどうなったのよ?」
「そっちは、愛妻家協会を立ち上げた事務局長さんは実は離婚経験があるそうで、前の奥さんに、「私のことをもっとちゃんと見て」と言われ「ちゃんと見ているじゃないか」と言ったものの、『本当は、彼女の外見を見ていただけで、彼女自身を見ていなかったのかもしれません』と反省して、今は再婚して愛妻家に生まれ変わったそうだ」
「そんな『ちょっといい話』が聞きたいんじゃないの!」
「で、日本愛妻家協会のサイトを見た嬬恋村の有志たちが立ち上がって、嬬恋村愛妻家聖地委員会が設立されたそうだ。そして今日、1月31日が何の日か分かるか?」
「なんの日よ?」
「1月31日を、「I(あい)+さ(3)い(1)」と見立てて、《妻にささげる日》と定めたそうだ」
「ムリがあるわよ!」
「まあ無理がない記念日自体少ないけどな。そして、嬬恋村にある《愛妻の丘》で、ハグ(抱擁)にちなんで午後8時9分に抱擁するなどして、夫婦やカップルの愛情を確かめてもらうイベントを企画したんだが……」
「この季節に夜に丘に登って、何考えてんの!? 寒さで死んじゃうわよ!」
「締め切りを過ぎても参加申し込みがなかったんで、事務局の村観光商工課では中止を決定したんだが……」
「当然よ!」
「実は先日、おれたち宛に差出人不明の招待状がとどいた」
「はあ?」
「おまえに見せると『これはあたし達に対する挑戦よ!』と無意味にテンション上げて、群馬まで行くことになりそうだったから握りつぶしたんだが……」
「あんた、SOS団への依頼も、そうやってえり好みして捨ててるんじゃないでしょうね? とんだキョン・フィルターだわ!」
「とまあ、無視を決め込んでたら、二人して拉致られた。理由をさっきまで考えてたんだが、今言った招待状と、携帯のGPSが示す位置からして、行き先は間違いないらしい」
「いずれにせよ、これはあたし達に対する挑戦と受け取っていいわね!」
「受け取るって、挑戦を受けるのか?」
「当然よ!」
「《愛妻の丘》でハグするのか?」
「あううう」
「まあ、イベントは中止だし、そんな時間じゃ誰もいないし、誰も見てないだろうが」
「はううう」
「《愛妻の丘》には他にも、夫が妻への手紙を投函すると後日郵送される《愛妻ポスト》というのが設置されてるそうだが」
「当然、あんたが出すんでしょうね、その手紙!?」
「いや、待て。そもそもの前提から確認しよう。……おれたちは夫婦か?」
「ち、違うけど、未来の妻に郵送されるなら、何の問題もないわよ!」
「……そうなのか?」
「……違うの?」
「いや、まあ、なんだ」
「あんたが書いた手紙はしっかりチェックするからね! 《未来の妻》が落胆しないように!」
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