ハルヒと親父 @ wiki

ハルキョン家を探す その2

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haruhioyaji

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 涼宮家の魅惑の夕食が終わり(今夜は和食、とっても大変そうな懐石風だった)、ハルヒがガリガリ引いたばかりの豆で入れたコーヒーを飲み、今度は俺たちがなんだか皿の上に乗せられているような心持ちだった。人生で起こることは、すべて皿の上でも起こる、と言ったのはだれだったか。

「うん、おもしろい」

 ハルヒの親父さんが発した一声はこれだった。
「ひさびさに早く帰って来たら、夕食は魅惑の懐石料理で、その上願ってもないスペシャル・ゲストがいて、バカ娘までしおらしい、と来る。俺は今日のを最後の晩餐にしてもいいくらいの心持ちだよ、母さん」
「なんですか、お父さん」
「キョン君のふとんを敷いてやってくれ。今日は寝ずに語り明かそうな、なっ、キョン君」
「すみません。その前に、お話が」
「おお、何だろう? 俺の向かいにはキョン君がいて、その左隣にはうちのバカ娘。母さんはどこにすわるんだ?」
「もちろん、お父さんの隣ですよ」
「そうか。つまり2対2だな。何をやらかす気だ?」

 常々ただ者ではないと思っていたが、なにしろ、この涼宮ハルヒの遺伝子供給元だ。いざ対面すると、一生のうちで条理に不条理の経験を加えても、体験したことのないような圧迫感。こういうのを字にするとまさしく「気圧される」と書くんだろうな、としばし思考を飛ばしていると、向かいからは見えない位置で俺の左手を握ったハルヒの右手の圧力が強くなり、俺を現実に引きづり下ろしてくれる。
「すみません、お話が」
「うん、そうだ。話だ。どうぞ、はじめてくれ」
という端から、となりのハルヒ母にこう話す親父さん。
「オラ、わくわくしてたぞ」
 突っ込むため身を乗り出そうとするハルヒの右手を、今度は俺の左手が引きづり下ろす。耐えろ、ハルヒ。ここは耐えてくれ。

 このメンバー、この配置、この状況では、時間は決して味方にならないと悟った俺は、玉砕覚悟の手に打って出た。ハルヒ、恨むならこの面子を恨め、空気を恨め、とりわけ立ちはだかるバカ親父を恨め。

「ハルヒのおとうさん!おかあさん!」
「「「(ごくり)」」」

「順番が違うのも、経験も力もさらには年齢も足りないのも、めちゃくちゃ勝手なことだということも、単なるわがままだってことも、承知してます。俺はいつも言葉が足らず、一番心を通わせ合わなくっちゃいけないハルヒとだって、いつも食い違って言い合いばかりしています。愛だとか好きだとか柄にもない言葉はほとんど言ってやれてないし聞いてもいません。でも、この気持ちだけは本当です。ハルヒにも、他の誰にも、本当だって言えます。ハルヒに、ただ、いつも、側に、いて欲しいんです」
「あたしも! あたしもこいつと、いつも、いっしょに、いたいの! ということで、キョンといっしょに住むから! 部屋ももう決めてあるの!」
「って、ハルヒ、まだ早い! って、いつ決めたんだ!」
「なによ、そこまで言っておいて、早いも遅いもないわよ! あたし、あんたの気持ちが聞けてうれしい。こうなりゃ行けるとこまで行くまでよ!」
「まて、ハルヒ。ヤケになるな。というか、ヤケになる状況じゃないぞ」
「ヤケになんてなってないわよ! 胸の高鳴りが、今すぐ走り出さないと、抑えられないだけよ!」
「そりゃ、焼け石に水、じゃないや、マッチポンプでもないし、ぬかに釘、じゃなおさらなくて、えーと」
「火に油か?」
「そう、火に油だろ!」
「すまんが、お二人さん……」
つぶやくハルヒ親父。
「ハル、キョン君。おすわりなさい」
ハルヒ母の一言で、室温が5度は下がった。アドレナリンは引っ込み、2人の血圧と血の気が一気に引いて行く。
「「は、はい」」
「あー、ごほん」
ハルヒ親父は咳払いをひとつ打つ。
「よくわからないんだけど、・・・いいよ」
「は?」「あの、親父?」
「つまり、なんだ、お互いに好き合ってるから一緒に暮らそう、誰の気兼ねなくエッチしよう、ということだろう?」
「いや、あのエッチとか、そういう前に」「こ、このエロ親父!」
「しないの?」
「い、いや、しないというか、したいというか」「何言ってんのよ、このエロキョン!」
「だったらすればいい」
とハルヒ親父は言った。
「14日間のクーリング・オフ期間も認めよう」
「は、はい」
「くれぐれも物わかりのいい親父だとは思わんでくれ。ただ、この手の件については、そりゃびっくりするくらい他人のことを、とやかく言えた義理じゃないんだ、おれたち」
「そうねえ」
いつになく真面目な親父さんと、いつものようにコロコロ笑うハルヒの母さん。

「但し、お試し期間であれ、借りそめであれ、一家を構えるんだから一人前と見なして、もう扶養義務は解除だ。君たちの甲斐性で生活したらいい。自分たちで稼いで、自分たちで使って、生きろ。といっても1日24時間だし、一生は何年か分からんが、時間の使い方は自分たちで決めたらいい。いつから一緒に暮らすかは、明日からだろうが高校を出てからだろうが大学出てからだろうが就職してからだろうが二人で好きにしろ。どこで暮らそうが、こっちには異存はない。まあ、多少はさびしいから連絡はしてくれ。俺からは以上だ。あと、母さん頼む」

「はいはい。お父さん、ああは言ってるけど、近くに住んでくれた方がお互い便利だと思うわ。子供も預かってあげられるし」
「「子供!?」」
「当然だけど、キョン君の親御さんにも了承を取り付けてね。これについては『心の中で応援』以上のことはやるつもりないわよ。まあ、ゆっくり考えて計画的に事を運びなさい。それと、最初に私たちに言ってくれてうれしいわ」
「あー、最後に一つ」
親父さんは、ようやく真面目な顔を解いて、にやりと笑った。

「結婚まで認めた訳じゃないからな。もっと自分磨いて出直してこい。二人ともだ。まだガキだから今日はこれくらいで済ましてやるが、今度は大人同士ガチとガチだからな。以上だ」

 背中を向けたハルヒの親父さんと母さんに深々と頭を下げ、「上等よ!返り討ちにしてあげるわ」といきまくハルヒを引きずり、とりあえずハルヒの部屋へ退散した。
「ハルヒ、真面目に聞くが、おまえいくら持ってる?」
「貯金?○○くらいかな。あんたは?」
「◎◎円程度だ」
「むー、合わせても敷金で飛んじゃうわね。何に使ったのよ?」
「言いたかないが、主として市内探索でのオゴリだ」
「あたしも言いたかないけど、主としてコスプレ衣装及び不思議グッズよ。まあ自分の服とか何かもあるけど」
「バイトすれば何とかなるかもしれんが……」
「バイトにうつつを抜かせるような成績なら、あたしも家庭教師に毎日通ったりしないわよ」
「なるほど、これが現実の壁か」
「まったく総論(おもてむき)賛成、各論(じつのところ)反対なんて、大人のくせにずるい」
「ずるくはないさ。親父さんが何を言おうと結局直面してた壁だ。どうする? あとでこっそりお義母さんに頭下げて支援を頼むか?」
「冗談じゃないわよ。そんなの絶対ダメだからね」
「俺もそう思う。あそこまで言われたんだ、受けて立たないとな」
「わかってるだろうけど、とりあえず浪人は論外よ、キョン」
「ああ最短で受験は抜けないとな」
「大学に入れば、お互いバイトもできるし、こっちのものよ! そのためにもキョン! 明日からと言わず、今日からネジ巻いてガリガリ行くからね、覚悟しなさい!!」


 「うわーん、母さん、あれでよかったのかなあ?」
「はいはい。決まってましたよ、お父さん」
「もう30秒長かったら限界だったぁ」
「はいはい。せっかく決めたんだから、泣くのはもう少し静かな声でね」


 「ところでキョン」
「なんだ、ハルヒ?」
「あんた、どうせ気付いてないだろうけど、ひとつだけ名実どもに解禁になったものがあるのよね」
「は?」
「って、どりゃあ」
「うわ、ルパン・ダイブはよせ!のしかかるな!息をかけるな!」
「自分たちの甲斐性の範囲内なら何やってもいいのよ!」
「おしつけるな!かむな!しめるな!」

(昔懐かしいコメディ映画のアイリス・アウト:画面がハルキョンの顔に向かって黒くなってとじていく)


→ハルキョン家を探す その2






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