ハルヒと親父 @ wiki

涼宮ハルヒのリフォーム その5

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haruhioyaji

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 「で、どうすんの?」
と尋ねるハルヒの眼の中に、往年の某野球マンガにまで遡れるメラメラと燃える炎が見えたのは気のせいか? いずれにしろ、今やこいつの気分は絶好調に高揚し、アドレナリンが分泌され、「オラ、わくわくしてきたぞ」状態になっているのは間違いない。
「マグライト振り回して、相手の侵入経路を調べて回るのが手堅いが、そんなことでもすれば、相手が人間であれ物の怪の類いであれ、間違いなく勘付かれる」
「そうね」
 ハルヒは頷いた。
「とっと逃げられて、ほんとに居たのか居なかったのかも、よくわからない、ってのが最悪のケースね」
 そういうと思ったぞ。二手に分かれるのはリスクがある。かといって一方から追い込んでも、窓から外に飛ばれでもしたら、それでおしまいだ。
 「手、貸そうか?」
 後ろから、聞き覚えのありすぎる声。そして予想がつきすぎる次の応答。
「親父、なんでこんなとこにいるのよ?」
「一言で言うと親心だ」
「うそつけ」と切り捨てるハルヒ。
「おまえらの行き先は涼宮家中が知ってる。俺は今朝、ここに来て行き方もわかる。愚問だ」
「……親父さん、来るなら来ると、そう言って下さい」
「キョン、おまえはともかく、このバカ娘は邪険にするだろ」
日頃の行いと自業自得、という言葉は、この際、胸にしまっておこう。
 なにしろ2人と3人では、戦力が相当違う。立てる戦略も変わってくる。
 敵に回すとこんなにうっとうしい人も居ないが、味方というなら、頼もしいと言えなくもない。攻撃力、それに臨機応変の才は申し分ない。時折、敵はもちろん味方すら予想不能な手を打ってくるのが玉に傷、というかタマ真っ二つというところか。
「二人とも、これをつけろ」
「なんですか?」
「ノクト・ビジョンだ。極めて簡単に説明すると、暗いとこでもよく見える不思議メカだ」
む、むだに重装備! しかも3人分。
「なに、古い機種でな。旧ソ連軍の放出品で3万円で出てたのを、3つ買うから2000円にしろ、って感じで買った」
なんというオヤジ値切り! それはもはや搾取を超えて、強奪です。
「もう少し薄着の季節なら、赤外線を照射するから、ハルヒのスケスケが見えるぞ。今度、貸してやろうか?」
 すみません、親父さんにそれをお願いするくらいなら、ハルヒ本人に別のことを頼みます。
「エロキョンめ、それが彼女の父親を前にして言う言葉か?」
 どっちかっていうと、先に娘の父親にあるまじき発言じゃないだろうか。
「本人を前にして何言ってんのよ、二人とも!! ボケとツッコミはもういいから、他にもあるんでしょ。全部出しなさい」
「あとはテロリスト制圧用ゴムボール弾。圧縮空気で撃ち出す奴。貫通する弾は、屋内で使うと後が面倒だからな」
「まずあんた達を撃ちたいところだけど、後にしとくわ」
後で撃たれるのか。威力はBB弾とは大違いだろうな。
「あとインカム付きの無線機。二手に分かれるぞ」
「俺たちと親父さんとにですか?」
「至近になったら格闘もあるかもしれん。まあ、相手に足があれば、の話だが。足が6本とか8本もあったら迷わず撃て。とりあえず戦闘力なら、ハルヒの方が上だ。キョン、おまえは頭脳に徹しろ。こんなバカ、操れるのはおまえしかおらん」
 真面目に言ってるのか判断がつかんが、多分その組み合わせがベストなんだろう。
「図面はアタマに入ってるだろうな? そのためにCADの残り作業を頼んだんだ。この建物は、上り下りは玄関ロビーにある階段だけだ。隠れる部屋は一杯あるが、俺が調べた限りじゃ、抜け穴の類いはなかった。一室ずつ確かめていけ。位置を報告しながら移動すること。俺は奴が飛び降りた時のために部屋の窓がある中庭で待機しとく」
「親父さんは一人で大丈夫ですか?」
「悪知恵と勇気とコレがあれば何とかなる」
 どこのヒーローですか? あと、それは?
「日本刀。立派に銃刀法違反だな。エクスカリバーとまではいかんが、物の怪の類いを斬るならうってつけ、肥後の守、もとい妖刀村正だ。事情があって銘はつぶしてあるけどな」
 それもネット・オークションで入手したんですか、とはさすがに尋ねなかった。ハーグのブラック・マーケット、あるいは秋葉原で、と言われたらさすがに二の句が継げない。というより、なにより、今の発言全体を聞いてないことにさせてもらいたいぞ。あと、どこのゲームでも、エクスカリバーより数値(パラメーター)は上です。あと「もとい」の前に何か言いませんでしたか?昭和の香り高い、少年向きの小刀のようなこと?
「刀に魂乗っ取られて、その辺りを傷つけたら殴るわよ」
 いや、狂ったら、人とか生き物を斬るんじゃないのか? そんなことにでもなったら、殴るどころか、世界で一番手に負えないオヤジになるぞ。剣道で四、五段持ってても、日本刀で人を斬るのは大変らしいのに、この人は18歳の時に実の兄に腕をきれいに斬り落としたらしいからな。
「ほんとは徳川家に仇なす、ってのが伝説の本体で、あとは尾ひれだ。まあ宮本武蔵が魔界転生した奴でも出やしない限り、使うことはないけどな」
 この親父、ゾンビになった剣豪にまで勝つつもりなのか? というか、どんな事態まで想定内なんだ?


 無線機が、コンコンという音を立て、続いて声を伝える。
「オヤジだ。中庭に着いた。奴は今、2階の東側の端から3番目の部屋だ。静かに急げよ」
 俺とハルヒは頷き合い、玄関のドアを開けた。まだ把握してない「誰か」がいるかもしれないから、いきなり飛び込んだりしない。手鏡で中を見て、それから入る。
 俺たちが開けるまでもなく、玄関の鍵は開けられていた。合鍵か、ピッキングかわからないが、細かく見れば、鍵穴周辺の傷その他でどっちか分かるんだろう。とりあえず相手が壁抜けをしないと分かっただけでも、ラッキーと言える。そんな奴ならゴム弾だってすり抜けるかもしれないしな。
 あとは人語を解する存在だといいんだが。それだとハルヒのマシンガン罵倒(ーク?)か、俺の誠意ある説得(または泣き落とし)か、オヤジ語とオヤジ思考が全開のオヤジトーク・アラウンド・ザ・ワールドか、どれかひとつくらいは通用しないとも限らない。
 階段を上がると廊下が左右に別れ、それぞれ一番奥の部屋の前までつながっている。右へ進めば、奥は二室続きの大きめ部屋になっていて、おそらくは主の居室だったと思われる。左の廊下は突き当たりになっていて、それぞれの部屋は廊下側にドアがあり、その反対の中庭側に背の高い窓がある。侵入者はこっちにいるらしい。
 「ハルヒ、静かに歩けって言われたろ」
「この時間に、この廊下じゃ、どっちにしろ足音は丸聞こえよ」
 確かに。それにあいつは、親父さんと合流する前の俺たち二人を確かに見下ろしていた。俺たちの存在を、間違いなく気付いてる。そこに近づく足音二人。何ものかは知らんが、どうする?どう出る?
 俺たちは、事前の打ち合わせの通り、歩く速度を変えずに、侵入者がいるはずの部屋の前を通りすぎた。
 反応はない。そのまま廊下を着きあたりまで進み、そこで向きを変え、ゴム弾が撃てるよう、二人とも構える。
「オヤジ、ついたわ」
「ラジャー。おっぱじめるぞ」
 小さな、しかし爆音のようなものがした。
 がたがたと音が出て、3つ目の部屋から飛びだすのが影が、窓からの閃光で見えた。ノクト・ビジョン? コンデンサなしの第1世代だから急に強い光を浴びると、しばらく目の方が使いものにならなくなると、これも打ち合せ通り、切ってあった。
「止まりなさい! でないと撃つわよ!」
 影は一瞬、動きが固まったに見えた。が、次の瞬間いは、自分に狙いをつけられていること、まっすぐ廊下を逃げると弾をくらうことを理解したらしく、廊下の壁を蹴って反転し、もう一度今居た部屋に飛び込み、ドアを閉じやがった。
 俺たちはそのドアへ駆け寄り、開けようとするが、ご丁寧に鍵がかかってる。
「キョン、鍵!」
俺はあらかじめ用意しておいたこの部屋の鍵を使ってロックを外した。それが終わるか終わらぬうちに、ハルヒがおもいっきりドアを引き開ける。
 いない。
 中庭に面したスライド窓がひとつ開いている。
「オヤジ、行ったわよ!」
「わかってる。よおく見えてるぞ」
 どさっと茂みに落ちるような音がした。影は窓から中庭に飛びだし、窓の下の茂みに着地したようだった。
 その窓から、中庭で叫んでいる親父さんの声が響いてきた。
「よおし、手を挙げて姿を見せてくれ。あと知り合いなら先にそう言ってくれ。でなきゃ、たとえ妖怪だろうと怪獣だろうと幽霊だろうと、ヘミングウェイ愛用のダムダム弾をお見舞いすることになる」
 ヘミングウェイが小説に書いてたのは水銀弾のはずだし、ハーグ陸戦条約第23条に抵触するんで今は国際的にその手の特殊弾丸は使用禁止のはずだし(え?戦争だけ?警察は使い放題?)、何より相手が人間だったらどうするんですか? 一番、確率高いのに!
 思いが通じたのか、親父さんが俺の名前を呼んで言った。
「キョン、覚えとけ! こういう勝負は、びびった方が負けだ」
いや、ある意味、全然通じてない! それだったら常に/既に、親父さんには、激しく惨敗してます。
 「キョン、あんたはこの窓から、オヤジをフォローしなさい。あたしも中庭に出るわ!」
「ここから飛ぶのか?」
 そりゃ生まれついての無鉄砲でも無茶だ。
「わかったわよ、もう! 階段を使うわ!」
 何かから発射されたようなスピードでハルヒは部屋を駆け出て行った。
「キョン、上でぶつぶつうるさいぞ。援護しろ」
 お、親父さんをですか?どうやって?
「でなきゃ、励ますような歌を歌え」
 レベルとカテゴリーは激しく違うが、どっちにしろ激しく無理です。


その6へつづく


その6アナザーへつづく














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