ハルヒと親父 @ wiki

保健室へ行こう

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haruhioyaji

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 「先生、生理痛がひどくて」
「クスリ飲んで寝てなさい」
「……」
「なんだ?」
「……あんた、だれ?」
「保健室の先生(正式名称:養護教諭)だが」
「なんで男がそんなのやってんのよ!?」
「失礼な。まだまだ少ないとはいえ、少しずつ増えつつある全国の男性養護教諭に謝れ」
「高校生といえば多感な時期よ。それを何? 恋愛の悩みとか性の悩みとか、と、とにかく相談しにくいじゃないの!」
「ここは男女共学だろ。女性の養護教諭に男子高校生がそういう相談をするのも、うれしはずかしいだろ。同じだ」
「全然違うわよ! こうなったら、あんたを追い出すまで、保健室登校するからね! 覚悟しなさい!」
「保健室登校ってのは、そういうんじゃないんだが。まあ、別に構わんぞ。そういう生徒の胸の内を聞くのも仕事だ」
「む、胸の内って!……く、覚えてなさい、明日は今日みたいには行かないわよ!」
「おーい。生理痛だろ。クスリぐらい飲んでけよ」
「でかい声で、生理、生理、っていうなあ!」


 「さあ、今日こそ年貢の納め時よ、キョン!」
「こらこら。教師をあだ名で呼ぶな。って、なんでそのあだ名、知ってるんだ?」
「あんた、自分の持ち物にすべて《名前》を書く性分でしょ?」
「性分というか、でないとお袋がうるさくてな。それで習い性に……って、何だって?」
「あんたの白衣の裏地にちゃんと『キョンくんの白衣』って書いてあるわ。なに、彼女に『キョンくん』なんて、呼ばせてるの?」
「やれやれ。よくある言い訳にそっくりだが、一応言うから聞いてくれ。これをやったのは妹だ。『キョン』ってのも、妹が広めたあだ名でな。何故だか付いて回る。呼びやすいのか、こっちが定着すると、だれも本名で呼ばなくなるから不思議だ」

 ● ● ●

 「もう2ヶ月以上になるぞ、おまえの保健室登校」
「何よ、文句あるの? 毎日、こうやってちゃんと全科目自習してるわ!」
「そうだな。おまえは頭もいいみたいだし、一人で何でもできそうだもんな」
「……わかんないとこがあったら、あんたに聞くから」
「おまえにわからんところが、俺に分かるかな。あんまり自信無いぞ」
「あんただって教師でしょ! 生徒がわからないってときは、ちゃんと教えるのが仕事じゃないの。もっとやる気を見せなさい!」
「あー、だいたいはそうなんだが。……なあ、涼宮。問題によってはな、教えられないことや、教えない方がいいってこともあるんだ」
「職務怠慢よ、勤労放棄よ、サボタージュよ」
「たとえば……、下品な例で悪いが、保健の問題で出た、この子供の作り方ってところがよくわからないから、実地に教えなさい、とか言われても無理だ」
「あ、あたりまえでしょ! このエロ教師!」
「多感な時期だからな。おれはたまたま男だし、こんななりだからそういった経験はないが、女性でなりたての養護教諭は、中学とか高校とかに勤務すると、大抵そういう質問を受ける。その年頃の男子なんてエロいことしか考えてないからな」
「……」
「いちいち引き受けてたら身が持たんし、第一、淫行になるしクビにもなるだろう。相手を傷つけず、さりとてこちらの信頼を失わず、言い抜けるってのが難しい。回答例みたいなのもあるんだけどな、マイノリティの男性養護教諭向けにはなってないんで、そのままは使えん」
「あんたじゃ万が一にも、そんな質問を受ける可能性なんてないわ。考えるだけ無駄よ」
「そうだな。……涼宮、念のため言っとくが、そういうことは、たとえ質問でも、聞くのは好きな相手限定にしとけ。おまえは美人だから、相手が誤解しないとも限らん。刃傷沙汰にでもなったら事だ。学校じゃ消毒ぐらいしかしてやれんぞ」
「だったら!……あんたがあたしを好きになりなさい!」
「おいおい、無茶言うな」
「無茶も無理もない! あたしがなんでしたくもない保健室登校なんてしてると思ってんのよ! なんで、あんたしか見てないって気がつかないのよ!! 何よ、また答えられない質問だっていうの!?」
「……んー、なあ、涼宮」
「いや!」
「まだ何も言っとらん。教師としての答えは、……『おまえの卒業まで待てないのか?』だ」
「! それって……」
「ああ。まあ、そういうことだ」
「……ダメ! そんなお決まりの、似非ハッピーエンドで時間切れなんて許さないわ!」
「やれやれ。やっぱり、おまえの方が一枚上手だな。……『キョン』としての答えを言うぞ。首になったら実家は多分勘当だろうし、教師としては食えなくなるだろう。運のいいことに、母方のじいさんがど田舎に家と田んぼを持ってるんで、しばらくはそこで食いつなごうかと思ってる。……一緒に来るか?」
「……キョン?」
「お決まりの似非ハッピーエンドみたいで悪いが、プロポーズと受け取ってもらってかまわん。……さあ、おまえのターンだ、涼宮」
「ハルヒって呼びなさいよ」
「じゃあハルヒ。今度はおまえが答える番だ。まあ、返事は時間がかかってもいい。今日はもう帰っていいぞ」
「……言葉だけじゃ信用できない」
「大人相手には、賢明な態度だな」
「『キョン』の方の答えは、ちょっとだけ気に入ったわ。……キスしなさい。今日のところは、それで引き下がってあげる」
「うーん、おまえが卒業するまで、毎日か? リスキーだなあ」
「それは教師が背負い込むリスクでしょ? 『キョン』のリスクじゃないわ」
「まいった。それくらいのリスクは取らんと、おまえの真剣に応えられそうにないな」
…………
………
……

 「涼宮、じゃなかった、ハルヒ」
「なによ?」
「キスするときは目を閉じないか? 中学で何習ってきた?」
「どこの中学がそんなこと教えんのよ?」
「どこでもいいが、エチケットだ。多分」
「いやよ。あんたの顔が見えなくなるじゃない」
「至近で見たって、いつものまぬけ面だぞ」
「相手の顔を至近で見れないカップルなんてあり得ないわ」
「あと、目は心の鏡とかいうだろ。心の中、見透かされそうで、少々つらい」
「いい加減、覚悟を決めなさい!」















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