ハルヒと親父 @ wiki
子犬の恋
最終更新:
haruhioyaji
-
view
- ハルヒ
- ねえ、母さん。初恋って実らないのかな?
- ハル母
- そうでもないわ。
- ハルヒ
- そう?
- ハル母
- お父さん、母さんが初恋だったそうよ。
- ハルヒ
- 悪いけど、あいつの言うことは信用できない。
- ハル母
- いつもふざけてるし、たちの悪い冗談も言うけど、基本的にはいい人よ。
- ハルヒ
- たちが悪い、と分かってるなら、少しは止めて。
- ハル母
- 母さんも嫌いじゃないもの、たちの悪い冗談。
- ハルヒ
- 母さん!
- ハル母
- そうそう、初恋の話だったわね。
- ハルヒ
- うん。
- ハル母
- むかしむかし付き合った人にね、ぼくらの恋愛はpuppy loveだと言われたことがあったわ。
- ハルヒ
- puppy love? 子犬(puppy)の恋(love)ってこと?
- ハル母
- “intense but relatively short-lived love, typically associated withadolescents”、若い人たち特有の、激しくも短い恋、ってところかしら。
- ハルヒ
- ……。
- ハル母
- 母さん、体弱くてあまり学校に行かなかったから、同世代の知り合いがいなくて、付き合う人って歳上が多かったの。今言った人も随分歳上だったけど、とりあえずぶん殴っちゃった。
- ハルヒ
- ……母さん。
- ハル母
- 母さん、今のハルくらいの歳まで生きられるかどうかってずっと言われてきたから、生い先短いだろうと自分でも信じてたのね。だからこの恋がどれだけ続くかとか、そんなこと考えてる場合じゃなかったの。今好きなこの人を、今好きで何がいけないんだ、って。おかげで、母さんは、たくさん恋をしました。
- ハルヒ
- しましたって……。
- ハル母
- その分お別れもたくさんしたけどね。すごいおじいさんを看取ったこともあるわ。その人のプロポーズは『ぼくは偏屈な人間だが君も相当なもんだ。おかげで僕には身内はたくさん入るが身寄りがないし、いて欲しいとも思わない。だが、最後は気のあった人にそばにいて欲しいと思ってる。という感じだったかしら。母さん、変な人ばっかり好きになってるわね。
- ハルヒ
- その後どうなったの?
- ハル母
- その人は書きかけてた自伝があったので、母さんが言ってからはずっと口述筆記をしてあげたわ。それに疲れたら、今度は母さんが本を読んで上げるの。そういう毎日ね。
- ハルヒ
- 幸せだった?
- ハル母
- ええ。母さん、幸せな人のそばにいるのがすごく好きなの。だから幸せだったわ。
- ハルヒ
- その人どうなったの?
- ハル母
- 半年後に、自伝を完成させたら亡くなったわ。お葬式して遺産はみんな寄付して、家を出たら、門の外でお父さんがバカみたいに大きな花束抱えて待っていてね。
- 女
- この家にはもう誰もいません。お墓ならご案内しますけど。
- 男
- 墓には今行って来た。これは死者のための花じゃない。
- 女
- この家は今日でお別れだけど、私しばらくあの人の喪に服するつもりです。
- 男
- 結構だ。だが次に君が結婚したらまた何年も待たなくちゃならない。だから今伝えるべきだと思って待っていた。
- 女
- 私、一文無しですよ。
- 男
- こっちも大して持ち合わせはないが、ふたりの逃亡資金くらいは何とかなるだろう。
- 女
- どこへ連れていってくれるの?。
- 男
- 俺と君が生まれた、小さくてじめじめした、あの国だ。
- 女
- それは気が進まないわね。
- 男
- 正直いうと俺もだ。だが、今まで風まかせに生きてきたが、土にかえることをそろそろ考え始めようと思ったんだ。
- 女
- 土になるなら異国の地がいいわ。
- 男
- それもいいな。
- 女
- 本気でくどいてるの?。
- 男
- もちろん。しかし経験値が足りなくてね。
- 女
- 私のを分けてあげましょうか?。
- 男
- ありがたい。------結婚してくれ。それと俺と同じくらい長生きしてくれ。
- 女
- それは難しいわ。
- 男
- こんなバカな男を置いて死んだら心配だろ?
- 女
- そうでもないわ。一人でなんとかなりそうなバカだもの。
- 男
- バカでもさびしいものはさびしいぞ。
- 女
- そういう時は、たくさん食べてよく眠りなさい。大抵はそれで何とかなるわ。
- 男
- 見かけに寄らずタフだな。
- 女
- 経験値のおかげかしら。
- 男
- タフでも泣いたっていいんだぞ。泣くと肩こりがなおる。
- 女
- あなたも泣くの?。
- 男
- そりゃもう盛大に。
- 女
- 見てみたいわね。
- 男
- ただし好きな女の前限定だぞ。
- ハル母
- どうしたの、ハル? こめかみ押さえたりして。
- ハルヒ
- どうして親父と母さんの思い出話ってそうなるの? いつもそういう会話してたの?
- ハル母
- 無駄にハードボイルドだったかしら?
- ハルヒ
- なんか違うけど、よくわかんない。
- ハル母
- こう見えて二人とも負けず嫌いなのね。誰かさんたちに似て。
- ハルヒ
- 誰と誰のことかしら?
- ハル母
- ふふ。人間、素直が一番よ。
- ハルヒ
- 説得力あるような、ないような。
- ハル母
- 昔、お父さんと見た映画でね、『人生の半分は十代だ。二十代になったと思ったら次の日にはもう終わってる。というのがあったわ。
- ハルヒ
- どういうこと?
- ハル母
- 年齢によって、時間の流れる速さというか感じ方が違ってくる、ということかしら。
- ハルヒ
- うーん。
- ハル母
- ドック・イヤーって言葉があるでしょ? 犬にとっての1年は、人の6年間に匹敵するって。まして子犬なら、それ以上じゃないかしら?
- ハルヒ
- ……。
- ハル母
- 子犬は子犬の時間を生きてるの。それが長いの短いのって大きなお世話だと思わない? ハル、あなたの時間よ、あなたの好きなように使いなさい。とっくに、そうしているだろうけど。
- ハルヒ
- うん。
- ハル母
- あとはハルの赤ちゃんが見れたら、母さん、思い残すことはないわ。
- ハルヒ
- な、何言ってんのよ! というか勝手に死ぬみたいなこと言わないで!。
- ハル母
- これは母さんの時間だもの。頑丈なお父さんと暮らしたおかげかしら、思ったよりも
- 随分長生きできたしね。
- ハルヒ
- だめ! あたしがなかなか結婚しなかったら、どうするつもりよ!?
- ハル母
- ふふん。ハル、結婚しなくても子どもはできるのよ。
- ハルヒ
- な!
- ハル母
- 最近のフランスじゃ赤ちゃんの5割以上が結婚してないカップルから生まれるんですって。
- ハルヒ
- 無駄に目を輝かせない!。
- ハル母
- でも籍を入れるのはあなたたちの自由よ。学生結婚というのも素敵ね。大丈夫、赤ちゃんは母さんがしっかり見てあげるから、学生生活を謳歌しなさい。
- ハルヒ
- 暴走しない! いったい誰と誰が籍入れるって? 誰と誰の赤ちゃん?
- ハル母
- そこまで母さんに言わせる気?
- ハルヒ
- 言わせない! お願いだから、言わないで!
関連SS