ハルヒと親父 @ wiki

寒い日が好きだった

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haruhioyaji

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 寒い日が好きだった。
 手をつないでも、腕を組んでも、あいつが嫌がらずにいたから。

「なっ! ……お、おう。今日は寒いな」
「寒いわよ、凍え死にそう! あんた、分かってるだろうけど、あたしが死んだら、死刑だからねっ!」
「ああ、死刑はいやだからな」

 そう言いながら握り返される手。組み直される腕。子供じみた言い訳。


「ハルヒ、おまえ、どの季節が好きだと言ってたっけ?」
「夏よ、夏! 夏に決まってんでしょ!」
「そうか……まあ、いつだっていいか」
「なによ、その気の抜ける反応は! 真面目に答えてバカみたいじゃないの!」
「いや、そういうことじゃなくてな」
と、あいつから差し出される手。それを受け取る私の手。
「もう、きりきり歩きなさい! 遅れちゃうじゃないの!」
手を引いて先に立って歩く。あー、顔が熱い。どうせ、こいつにはバレてるんだろうけど。
「少しくらい遅れたって、どうせすぐには始まらん」
「時間厳守! あんたには自覚ってもんが……」
「……足りないか?」
大股数歩で横に並んでくる。こしゃくな真似を。そ、それに顔が近い!
「ええ、ぜんぜっん足りないわ!」
「!」
……
「い、いまのは『自覚』を注入したんだからね! それだけなんだからね!!」
「ハルヒ……」
「なによ!?」
「リップ、ずれてる」
「んな! ……あ、あんた、恥ずかしいとか、そういう感情はないわけ!?」
「あるにはあるけどな」
「あるけど、なによ!?」
「部分的にすり減った。多分、そこだけ、一生分使い果たした」
「すぐ再生手術を受けなさい。いのちに関わるから」
「それほどのもんか?」
「あ、あたしの心臓が持たないのよ!」
あー、あんた、そこで笑う訳? だったらあたしにも考えと覚悟があるわ。
「奇遇だな。実は俺もだ」
「そう。だったら、一緒に言うわよ。差し違えになっても知らないからね!」
だから、どうして、そこで笑う訳?
 私が何を言おうとしてるか、あんたが分かってることなんて、分かってるわよ。あたしだって、あんたが何を言おうとしてるかぐらい分かるんだから。
……
「……あんたは、今の、いつから言おうと思ってたの」
「去年の暮れというか、冬の初めというか」
「はあ? だったら、なんでそのとき言わないの!?」
あたしの3/4年の時間を返しなさい!!
「……あの時言ってたら、なんか、負けたみたいだろ?」
「何が?何に?」
「……なんというか、温かさとかやわらかさとか、おまえのなんかそんなものに」
「そこは負けていいのよ! いいえ、断固として負けるべきでしょ!!」
「勝てっこないから、負けたくないって気持ちってあるだろ?」
「あああ、この意地っ張り!!」
「どっちが!」
「決まってるでしょ!!」すうっと息を吸い込んで吐き出した。「どっちもよ!!」



















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