ハルヒと親父 @ wiki

7月28日 乱歩の日

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haruhioyaji

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○7月28日 乱歩の日
 1965(昭和40)年のこの日、日本の推理小説の生みの親、江戸川乱歩が亡くなりました。

 夏休みもSOS団は止まらない。

 しかし、冷房設備もないこの部室棟に、わざわざ集合する意味があるのか、とおれは問いたいぞ。

 といったようなことを考えながら、おれは習慣になったノックに返事がなかったので、そのまま部室のドアを開けた。
 いつものSOS団室(文芸部部室)に中央に、かなりの違和感を感じさせながら、一人掛けにしてはバカでかい椅子はあった。一人掛けソファであるらしく、両側にアームレストがついている。なかなかの高級感、そしてボリューム。ここまで運んでくるだけでも大変だっただろう。運ぶのが俺でなかっただけでも、俺は今日の分の幸運を使い切っちまったような感じがした。もちろん、すぐに打ち消したが。

 そして、部室にいるのは、俺一人だった。朝比奈さんのお茶も、長門の膝のうえで開いた本も、古泉のうっとうしいニヤケ・スマイルもない。なにより団長席もまた、空席だ。
 登校日でも何でもない夏休みの一日だった。
 俺だって、
「明日、部室に集合。遅れたら罰金だからね!」
なる団長様からの電話がなければ、こうして立っているだけでも汗ばんでくる、こんなところに来やしなかっただろう。

 と、こんなところまでのこのこやって来たはいいが、何をすればいいんだか途方にくれていると、それを察したのか、どこかから、よく聞いたような声が、俺にやるべきことを申しつけた。
「キョン!団長命令よ! 今すぐ、この椅子に座りなさい!」
 いや、待て。少し待て。つっこみどころがありすぎて、別の意味で途方に暮れ始めた俺は、とにかく何か返事をしようと言葉を探してみた。つまり、素直に「団長命令」に従わなかった訳だ。どう考えたって怪しすぎるというか、バカすぎるだろ?
「座ると何かいいことがあるのか?」
 考えてこれかよ、俺。しかし、意外に相手にとっては効く反撃だったらしい。どう考えても椅子の方から、いや、はっきりいって椅子の中から聞こえる声は、少々困っている風に、こう言った。
「へ? えーと、そう! 今なら、もれなく、あたしの『あててんのよ』状態が味わえるわ。って、何言わせんのよ! 団長命令は至上にして絶対だと、いつも言ってるでしょ!アホキョン!!」
「いや、座るのは構わんが、それって、おまえに何かメリットあるのか?」
「こ、このニブキョン!! それから! 椅子に話しかけるな! マナー違反よ!」
 どこの世界にそんなマナーが存在するのか、問いただしたい思いに駆られたが、それを押し殺して俺は言った。
「いや、今思いっきり会話してなかったか? それより、ハルヒ、そんな中に入って暑くないのか?」
「あついわよ!あついに決まってるでしょ!!」
「だったら、そんなネタ、夏休みにやるのはやめとけよ」
「しょうがないでしょ!乱歩の命日が今日なんだから!」
そうか、それ、『人間椅子』だったんだな。察しの悪い俺をゆるせ。
「せめて『屋根裏の散歩者』にするとか、なかったのか?」
「天井裏からあんたを見て何が楽しいのよ!つむじしか見えないじゃないの!今の時代、覗きするならCCDカメラを設置するわよ」
「それにしてもだ、そんなところに入らなくても、素直に抱きつかせろ、と言えばさせてやるのに」
「どうせ素直じゃないわよ!」
 いやもう、論点ずれまくりだし。
「やれやれ。俺が素直に座るしかないか……どうだ、ハルヒ?」
「重い。暑い。あんたが見えないし、つまらない」
「だったら、早く出てこいよ。帰りにアイスでも買ってやるから」
「また、アイス?」
「特製冷菜スパをつける」
「その話、乗った!」

 やれやれ。
「なあ、ハルヒ、暑いんだが。何故、おれをはがいじめにしたまま歩く? 俺は罪人か?放っておくと暴れだすのか?」
「せめてもの『人間椅子』へのオマージュよ」
「やれやれ。よくて、二人羽織にしかなってない気がするが」
「うっさい」
「なあハルヒ、来年は違うのにしようぜ」
「『D坂』はダメだからね!」
「ああ、そっちの趣味は俺もない」



 ーーーー乱歩忌の劇中劇のみなごろし  月彦














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