ハルヒと親父 @ wiki

輪になってマッサージ

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haruhioyaji

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 今、SOS団の面々は、円陣をつくっている。
 といっても9回裏の最後の攻撃の前に気合を入れ直そうとする高校球児のそれではなく、大人数家族の背中の流しっこに、あるいは毛ずくろいするニホンザルのそれに似ていた。
 すなわちとなりの者の肩を揉むべく、横を向いて座っているのだが、それがぐるりと一周して輪となっている訳だ。

 まずおれの前に古泉。
 古泉のまえに何故か朝比奈さん。
 朝比奈さんはおっかなびっくり長門の肩をなでたり、かるくぺしりと叩いたり、自分の行為におののいたりしており、長門は黙々とハルヒの肩を揉んでいる。

「有希、うまいわねえ。もっとも有希の苦手なことを探す方が大変そうだけど」

 ハルヒの発言内容には、おれも全面的に同意しよう。
 しかし、ハルヒ、おまえ揉まれるままになって、手がお留守になってるぞ。
 おまえ自ら決めた配置で、おまえはおれの肩を揉む役だろ。
 そうなってはじめて円陣が本来の円として完結する。与えられるままの者もいなければ、与えるだけの者もいない。
 うむ、人の世はこうありたいな。

「黙りなさい。あたしは今、有希の超絶技巧の肩もみテクニックとシーケンスをインプット中なの。それが終われば、キョン、あんたを思う存分、いっちょ揉んであげるわ」

 微妙なニュアンスの違いが誤解を招くぞ、ハルヒ。
 それとできるだけ早く頼む。
 おれは、このにやけスマイルの、がっちがちの肩を揉んで、もはや指も手も腕も上腕も肩も僧帽筋全体もバリバリこりまくりの状態だ。
 というか、俺も長門に揉んでもらえばそれでいいんじゃないのか? 
 どこの誰だ、いま「却下」なんて言ったのは?

 「なるほど。人に揉んでもらうというのも、なかなか気持ちがいいものですね」
「気持ちがいいのはいいが、お前の肩こりはちょっとひどすぎるぞ。どこかマッサージだとか鍼灸院にでも行ったらどうだ」
「僕としては、普段あなたになかなかご理解いただけない我々の苦労もしくは気苦労を、肉体の状態を通じて感じていただけただけで、十分報われるといったところでしょうか。今日の活動は、ひときわ有意義なものだったと言えるでしょう」
 どうでもいいが古泉よ、何故に過去形なんだ? 
 朝比奈さん着替えますから部屋を出てくださいと目だけで訴えなくても出ていきますよ。
 長門よ、これ見よがしに本を閉じるのは一度でいいと思うぞ。
 なんなんだ、三人とも、その「ごゆっくり」とでも言いたげな目は?

「さあ、キョン。そこに座りなさい」
 窓からさしこむ傾きかけた太陽の光を背にしてハルヒは言う。
「さっきから座っているが」
 少し気圧されながら言ったおれの言葉に、ハルヒはバキバキと指を派手にならして応じた。
「じゃあ立ちなさい」
「お、おう」
「うりゃ」
 ハルヒは立ちかけるおれに足払いをくらわした。
 不意を打たれて、おれはこける。尻もちをつく。
「いてえ。なにすんだ、ハルヒ」
「そっちじゃないの。こっちよ」
 ハルヒは強引におれの腕を引いて前のめりにさせ、おれをうつぶせに組み伏した。
 これ、なんてポジション? 
 そうしながらハルヒはおれの背中にどかっと座りこんだ。
「あんたもとうとう年貢の納め時ね」
「そんなもの、溜めこんだりしとらん」
「もう逃げも隠れもできないわよ」
「逃げる気も隠れる気もない」
「さあ、はじめるわ。しばらくの間だから我慢しなさい」
「うつぶせに寝かせたいなら、口でそう言え」
「あんた、素直じゃないから」
「悪いが、おまえにだけは言われたくない」
「なによ?」
「な、なにするつもりだ?」
「なにって、ただのマッサージよ。赤鬼も泣きだすようなやつ」

 ハルヒはなにかぶつぶつ言いながら、おれの背骨の両脇を、首の付け根のところから腰にかけて順番に押していく。
「痛いとか気持ちいいとか、何か反応しなさい。そういうのも重要な情報なの!」
「普通に痛気持ちいいが、そういうもんだろ?」
「だまってたら、効いてるのか、どこがひどいのか、わかんないでしょ」
「結構こってるのか?」
「バリバリよ。よく生きてるな、って感じ」
「おいおい」
「んとに、なんでこんなになるまで黙ってるのよ?」
「さすがに『肩もんであげようか?』とか、なんかそっちから申し出がないと、頼みにくいぞ、そういうことは」
「なんであたしがそんなこと言わなきゃいけないのよ」
「ああ。そうだな。まったくだ。すまん。言ったおれが悪かった」
「まったく、あんた一人の体じゃないんだからね」
ハルヒは上半身を倒して、おれの背中に体重を預けてきた。
「こら!なにやってんだ」
「マッサージよ。さっきからそう言ってるでしょ」
「あ、あのなあ……いや、もういい」
 自分のものでない体温が背中に広がっていく。
 体にかかる重みが、言いようがない安心感に変わっていく。
「なあ、ハルヒ」
「ん?」
「また頼んでいいか、マッサージ」
「いいわよ。……たまにならね」



古泉:ところで、長門さん。先ほど涼宮さんに教えていた経穴(ツボ)はどういうものなんですか?
長門:『医心方』第28巻「房内」にある夫婦和合の経穴。
朝比奈:あ、あの、わたし、部室に忘れ物したんですけど、ふ、ふうふわごうって、あの、ど、ど、どういう?
古泉:今日はデフォルトに近い朝比奈さんで助かりました。いつもの特攻服の方だと、またひと騒動あったでしょうから。
特攻服?:サカリ猿二匹がまぐあおうがなにしようが、好きにさせな!!
古泉:長門さん、声帯模写はやめてください。朝比奈さんが震えてます。
















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