ハルヒと親父 @ wiki
電波の日 Nowhere
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haruhioyaji
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「おかけになった電話は、電波の届かないところにおられるか、電源が入っていないため、かかりません」
「南極だって、月面だってケータイが使える時代に、『電波の届かない』ところって、いったいどこよ!?」
あたしの怒声が、電話が壁にぶつかる音より、長く響いた気がした。
あたしは、さっきの問いの答えを知っている。Nowhere。どこでもない場所。
「南極だって、月面だってケータイが使える時代に、『電波の届かない』ところって、いったいどこよ!?」
あたしの怒声が、電話が壁にぶつかる音より、長く響いた気がした。
あたしは、さっきの問いの答えを知っている。Nowhere。どこでもない場所。
あたしたちの時間で2年前、乗客を乗せた商用TPDD(Time Plane Destroyed Device)では世界で初めての事故に、あいつは巻き込まれた。
結果は、怪我や命を失うことよりも残酷だった。めちゃくちゃになったのはあいつの身体ではなく、あいつが存在する時間平面の方だった。
以来、あいつは、ひとつの時間平面の上に安定して存在する事ができず、数えきれないほど多くの時間平面の上にばらまかれることになった。どの時簡平面にどれだけの間、存在できるか誰も予想できない。
それでも、あいつは何度か、あたしたちのところに「帰って来た」。存在が安定せず、最後にはその姿が点滅し出したけれど、あいつはあの時、この部屋にいた。
あたしは、いつ消えるか分からない事におびえて、あいつを抱きしめられなかった。だって、それは今この瞬間かもしれず、あたしの手が今は見えているあいつの身体をすり抜けてしまうかもしれなかったから。それは何にもまして「あいつがいないこと」をあたしの中に刻み付けるだろう。それが怖かった。
結果は、怪我や命を失うことよりも残酷だった。めちゃくちゃになったのはあいつの身体ではなく、あいつが存在する時間平面の方だった。
以来、あいつは、ひとつの時間平面の上に安定して存在する事ができず、数えきれないほど多くの時間平面の上にばらまかれることになった。どの時簡平面にどれだけの間、存在できるか誰も予想できない。
それでも、あいつは何度か、あたしたちのところに「帰って来た」。存在が安定せず、最後にはその姿が点滅し出したけれど、あいつはあの時、この部屋にいた。
あたしは、いつ消えるか分からない事におびえて、あいつを抱きしめられなかった。だって、それは今この瞬間かもしれず、あたしの手が今は見えているあいつの身体をすり抜けてしまうかもしれなかったから。それは何にもまして「あいつがいないこと」をあたしの中に刻み付けるだろう。それが怖かった。
あいつは、いつものように、少し困った顔をして、つとめて何でもないようにこう言った。
「じゃあ、ハルヒ。またな」
「じゃあ、ハルヒ。またな」
「またな」って何? 何時? 何年何月何日の何時何分なのよ!?
それでも、あいつは約束通り、「また」ここに戻ってきた。
あいつがやって来る間隔は次第に長くなり、ここに存在できる時間がどんどん短くなったけれど。その度、あいつは言った。信じろ、とでも言うように。
「じゃあ、ハルヒ。またな」
「ええ。キョン。またね」
それでも、あいつは約束通り、「また」ここに戻ってきた。
あいつがやって来る間隔は次第に長くなり、ここに存在できる時間がどんどん短くなったけれど。その度、あいつは言った。信じろ、とでも言うように。
「じゃあ、ハルヒ。またな」
「ええ。キョン。またね」
壁の下で死んでいたケータイが、か細い発信音を漏らした。
どこの誰だろう?今何時か分かってるの?真夜中よ、今日付が変わるところじゃないの。
あたしは激高して、発信者が誰かも見ずに、怒鳴り散らした。
「あんた、だれ? 今、いったい何時だと思ってんのよ!!」
どこの誰だろう?今何時か分かってるの?真夜中よ、今日付が変わるところじゃないの。
あたしは激高して、発信者が誰かも見ずに、怒鳴り散らした。
「あんた、だれ? 今、いったい何時だと思ってんのよ!!」
「あー、すまん。今、おまえ、おれに電話しなかったか?」
キョン!?
「したわ。したわよ! でも、あんた、一度だって出た事なかったし、いつもの通り、電波は届かないってアナウンスが流れるし、それに!」
「出ない電話に、何度もかけてたのか、おまえ?」
受話器の向こうで「ふう」とため息をつく音がした。
「何度もじゃないわ。……毎日よ」
「何だ、おれと同じか。……確率の問題は未だによくわからんが、何百回に一回くらい、電波が届くときだってあるんだろうさ。まあ、おまえの声が聞けて、おれはうれしいが」
「あ、あたしだって、死ぬほどうれしいわよ!!」
「死ぬのは困るが、なあ、ハルヒ。時々電話していいか? といっても、リダイヤルし続ければ、そのうちかかるかもしれん、って意味なんだが」
「わかったわ。あんたから電話しなさい。両方がのべつまくなしにかけ続けて、話し中だったりしたら、目も当てられないから」
「わかった。じゃ、おれから電話する」
「うん。待ってる」
「じゃあ、ハルヒ。またな」
「ええ。キョン。またね」
キョン!?
「したわ。したわよ! でも、あんた、一度だって出た事なかったし、いつもの通り、電波は届かないってアナウンスが流れるし、それに!」
「出ない電話に、何度もかけてたのか、おまえ?」
受話器の向こうで「ふう」とため息をつく音がした。
「何度もじゃないわ。……毎日よ」
「何だ、おれと同じか。……確率の問題は未だによくわからんが、何百回に一回くらい、電波が届くときだってあるんだろうさ。まあ、おまえの声が聞けて、おれはうれしいが」
「あ、あたしだって、死ぬほどうれしいわよ!!」
「死ぬのは困るが、なあ、ハルヒ。時々電話していいか? といっても、リダイヤルし続ければ、そのうちかかるかもしれん、って意味なんだが」
「わかったわ。あんたから電話しなさい。両方がのべつまくなしにかけ続けて、話し中だったりしたら、目も当てられないから」
「わかった。じゃ、おれから電話する」
「うん。待ってる」
「じゃあ、ハルヒ。またな」
「ええ。キョン。またね」
あいつは存在している。今も、無数にある時間平面のどこかに。
そして何回に一度かわからないけど、あいつから電波が届き、あたしのケータイを鳴らすのだ。
そして何回に一度かわからないけど、あいつから電波が届き、あたしのケータイを鳴らすのだ。