ハルヒと親父 @ wiki

その男、文系につき

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haruhioyaji

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その男、文系につき その1

「ねえ、有希。この『すがるおとめ』ってどう言う意味?」
 辞書を引くのがめんどうくさいのか、近頃、ハルヒは長門にこうした質問をする。ユキペディアと、こっそり俺は名づけているのだが、さすがに長門の回答は正確無比で速い。一時の集中力は何ものをも上回る感があるハルヒだが、その分飽きっぽく面倒くさがりだ。しかし、団員を辞書代わりにするなど、あんまり感心しないな。
 なんてことを考えていたので、長門が顔をあげてこちらを見ているのに気づくのが遅れた。この手の質問は迷うまでもないから、いつもなら瞬時に答えるのだが、今日はどうした? 俺に許可を求めるような、微妙な問題ではないと思うぞ。
「その質問なら彼に」
 長門は目を俺からハルヒに移し、それから再び自分の本に視線を落とした。
「へえ、キョンの癖にわかるの?」

 少しカチンときたね。赤点すれすれの団員その一風情が何を生意気な、といった表情が読み取れる。よかろう。ハルヒの奴を少しばかりギャフンといわせるのならおもしろい。わからない単語を教えてやっただけとなれば、いつものような不本意な逆襲の恐れもないだろうからな。

 あー、「すがるおとめ」というのはな、万葉集巻第九の1738の歌の中に出てくる。確かこういう歌だ。

 胸別の広き我妹 腰細の すがる娘女(おとめ)の
 その姿の きらきらしきに
 花の如 笑みて立てれば
 玉鉾の 道行く人は
 己が行く 道は行かずて
 呼ばなくに 門に至りぬ

「胸別の広き」というのは「胸が大きい」ということだな。「腰細の」というのは無論ウエストがこうキュッと締まっている姿をいう。「すがる娘女の」の「すがる」は蜂のことで、蜂のようにお尻が大きいこと。要するに、胸が大きくウエストが締まってヒップも大きい、ボン・キュウ・ボンな美人が、「花のようにほほ笑んで立っている」とだな、当然のことながら道行く男どもは、自分の行く方向へは行かずに、ふらふらと呼ばれもしないのにナイス・バディ娘の前にやって来る訳だ。奈良時代の昔から、男はオッパイ聖人だった訳で、豊満なバストには世の男をひれ伏させる何かがあるという・・・って、おい、ハルヒ。なんて目で見てやがる。長門も長門だ、こんなネタを俺に振るなよ。・・・というか、これなんかの罠?

ハルヒは憤怒のオーラとぐおぉぉぉという効果音とを引き連れて、破壊神シヴァのごとく・・・

「こ、こ、こ、こ、このエロキョン!!」

ぐあああぁぁ!!


その男、文系につき その2


ハルヒが顔をあげてこう尋ねた。
「ねえ、有希。この四目薬ってなんのこと?」
って、長門、また俺の方を見るんだな。やれやれ。

「あー、四目薬ってのはな、四つ目屋の薬ってことだ。四つ目屋が何かはいまから説明してやるから、あせるな。四つ目屋ってのは、江戸両国米沢町(いまの東京都中央区東日本橋2丁目)にあった淫薬・淫具専門店のことだ。いまでいうところの、アダルトグッズ・ショップだな。屋号を四つ目屋忠兵衛といい、四目結 (ヨツメユイ)を紋とし、黒い提灯を出していたのが有名だ。
山東京伝作画(1785)『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』っていう黄表紙本には、あとで紹介する長命丸とともに四目屋忠兵衛が登場する。

 江戸時代には、「日本一元祖 女小間物細工所 鼈甲水牛蘭法妙薬(淫具と催淫薬) 江戸両国薬研堀四目屋忠兵衛 諸国御文通にて御注文の節は箱入封付にいたし差上可申候」などと宣伝したらしい。
 取り扱った薬で有名なものは、
  • 帆柱丸(ヨヒンビンによる催淫効果を謳った内服媚薬、四目屋忠兵衛の専売品)
  • 長命丸(配合生薬を蜂蜜で丸め二枚貝に入れた丸薬。軽い不感状態にする効果、精を漏らさず長く性愛を楽しむ強精薬)
  • 女悦丸(生薬を粉末にして丸めたもの。女性用媚薬で性行為前に膣に入れておく。覚醒効果により通常では味わえない敏感な感覚、強い快楽に奔放される)
  • 通和散(衆道用の潤滑薬。唾にて溶き局所に塗布する。これ用いると痔になる事無し。蔭間が必ず常用したばかりでなく、雛妓など小娘と行う時利用)
  • 肥後芋茎(芋茎を陰茎に巻き淫うと女は随喜の涙)
  • 蝋丸(女のよろこぶ薬、頻りに淫気催すこと奇妙なる薬)
  • 外郎(「ういろう」と読む。小田原名産。歌舞伎「外郎売」の台詞にあるように「ただ一粒を舌の上に載せるやいなや、舌の廻ること銭独楽がはだしで逃げる」如くでクリニングスを試みるに都合が宜敷い)
  • 益多散(これを用いて75歳の男が服用後3人を妊娠させたという)
  • 禿鶏散(60日間飲み続けると40人の女と交わること可)
  • イモリ黒焼(これを粉にしてを異性に振りかけると相手の気持ちは我がもの)、
  • 曼陀羅(これは華岡青洲が乳がん手術の際に麻酔につかったチョウセンアサガオから抽出される薬だが、これを顔に吹きつけると、どんなじゃじゃ馬も従順になり、おまけに記憶まで失う。だから女郎屋で女の子を仕込むのにつかったんだな。いまでも目薬を一滴酒に入れるなんて話があるが、これはこの薬からヒントを得た都市伝説だ)
などがあるんだが、うんぬんかんぬん。

…………
おい、俺はまたやらかしちまったのか。長門,長門はいずこ? ハルヒ、わかったらこぶしはよせ、こぶしは。

ハルヒは憤怒のオーラとぎゃおぉぉぉという効果音とを引き連れて、荒ぶる神スサノウのごとく・・・

「こ、こ、こ、こ、このエロキョン!! そんなもの使って、ナニをどうしようっていうのよ!?」

ぐあああぁぁ!!

その男、文系につき その2 アフター


(後日談)
「キョンが言ってた四つ目屋のネット・ショップを見つけたわ!!」
なに、そんなものがあるのか? 例のトンデモ・パワーのしわざか? インターネットがタイムトンネルに接続して、江戸時代から直に通販可能とでもなったのか?
「いえ、今回に関してはそういったことは何もありません。なんでも十三代四目屋忠兵衛が平成十七乙酉 年(2005年)、江戸尾張藩戸山下屋敷内にて営業を再開されたのだとか」
「まじか?」
「ええ。そういうわけで、全員が自分の欲しいものを選んで注文することになった次第で」
「まじか?」まじですか?だいたい高校生に売ってもらえるのか?
「私はこれを買った。禿鶏散。60日間飲み続けると40人の女と交わること可」
といって長門が薬を突き出す。それで、おまえは俺に何をさせたいんだ?
「わたしは、これですぅ。曼陀羅。これを顔に吹きつけると、どんなじゃじゃ馬も従順になってぇ、おまけに記憶まで失いますぅ」
朝比奈さん、気持ちは分かりますが落ち着いてください。
「ぼくはこれを買い求めました。通和散。ふふ、これ用いると痔になることが防止できるそうですよ」
俺はつっこみたくないし、つっこまれたくない。古泉、おまえはもう黙ってろ。
「あたしはこれよ!」
長命丸。男が長持ちするやつな。おまえ、恥ずかしいから、やめろよ。
「なによ、あんたが早いすぎるから、こんなもの買ったんじゃない! 何よ、自分ばっかりイっちゃてさ。ぶちぶち」
うるさい。おまえが気持ちよすぎるのがいかんのだ。ただでさえ抱きしめるだけで暴発しちまいそうなくらいのカラダをしてるのに、妙に凝り性で元々無駄に器用なものだから、いまではアレコレのテクニックもすばらしくって、もうタマリません。
「そ、そ、そういうことを団室でいうな! 学校でも往来でも禁止!!」
いや、それはそうだろうけど。というか、おまえが先にだな。
…………
………
……





副団長「やれやれ。おきまりの痴話喧嘩モードに入ってしまわれました」
文芸部「……バカップル」
元書道部「あのぉ、曼陀羅、吹き付けちゃいます?」



















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