文化庁「現代日本文学の翻訳・普及事業」(JLPP)で出版された書籍の一覧

2012年8月14日

 文化庁の「現代日本文学の翻訳・普及事業」(Japanese Literature Publishing Project : JLPP)で出版された書籍の一覧。作者名の50音順で示す。

※この事業については「現代日本文学の翻訳・普及事業」、「現代日本文学翻訳・普及事業」という両方の表記が文化庁のサイトで混在している(「の」の有無)。当サイトではJLPP公式サイトの表記に従って「現代日本文学の翻訳・普及事業」と表記する。

参照したデータ等

  • 第1回~第5回選定作品(計123 [27+37+20+23+16])
    • 第1回~第5回選定作品の一覧は「文化庁>芸術文化>現代日本文学翻訳・普及事業」で確認した。
    • 上述のページでは第2回の選定作品は34とされているが、2012年の行政事業レビュー前に文化庁が作成した資料(PDF)では第2回の選定作品は37とされている。文化庁のページでは玄侑宗久の『中陰の花』と『アブラクサスの祭』、筒井康隆の『ヘル』と『おれの血は他人の血』、講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見』の第1巻と第2巻をそれぞれ合わせて「1」と数えている。一方、JLPPの旧サイトではこれらを別々に数えていた。PDF資料はJLPP旧サイトの数え方に準拠しているのだと思われる。ここではPDF資料の数字に従う。

  • JLPPで出版された書籍
    • JLPPによる翻訳出版の成果については、「JLPP公式サイト>既刊本紹介」を参照した。ただし、この「既刊本紹介」では2010年までのものしか示されていないので、2011年以降に出版されたものについてはJLPP公式サイトの「NEWS・TOPICS」で確認した。
    • 2012年の行政事業レビュー前に文化庁が作成した資料(PDF)では、2012年6月現在までに119点が出版されたとされている。そのうち、当サイトで把握できたのは113点[英訳44、仏訳23、独訳25、露訳21]である。

  • JLPPでの翻訳出版予定
    • 2012年の行政事業レビュー前に文化庁が作成した資料(PDF)によれば、翻訳を終了し海外出版社等と交渉中のものが86件ある。また同資料によれば、翻訳未了が17件ある。(ある作品を複数の言語に翻訳することがあるため、選定された123作品に対し、翻訳件数は出版済みのものも含めて222件[119+86+17]である)
    • 翻訳出版予定については「JLPP公式サイト>翻訳作品紹介」を参照した。ただし、JLPP日本語版サイトではなぜか第5回選定作品の翻訳予定言語しか示されていないので、第2回~第4回についてはJLPP英語版サイトの「Translation Works」で確認した。とはいえ、翻訳出版予定をすべて把握できたわけではない。第1回については、27作品48件の翻訳出版がすでに完了している。

  • 選定委員(「文化庁>芸術文化>現代日本文学翻訳・普及事業」より)
    • 第1回(2002年10月):島田雅彦、田辺聖子、平岩弓枝、福田和也、John Nathan(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授、日本文学研究者)
    • 第2回(2005年11月):阿刀田高、柴田元幸、島田雅彦、平岩弓枝、福田和也、三浦雅士、ムルハーン千栄子(元イリノイ大学教授)
    • 第3回(2007年3月):阿刀田高、鵜飼哲夫(読売新聞編集局文化部次長)、平岩弓枝、沼野充義、三浦雅士、宮田昭宏(ランダムハウス講談社、文芸編集者)、ジュリエット・W・カーペンター(同志社女子大学教授)
    • 第4回(2008年4月):阿刀田高、鵜飼哲夫(読売新聞編集局文化部次長)、篠田節子、沼野充義、三浦雅士、宮田昭宏(ランダムハウス講談社、文芸編集者)、ジュリエット・W・カーペンター(同志社大学教授)、スティーヴン・スナイダー(ミドルベリー大学教授)
    • 第5回(2009年3月):阿刀田高、鵜飼哲夫(読売新聞編集局文化部次長)、篠田節子、沼野充義、三浦雅士、ジュリエット・W・カーペンター(同志社大学教授)、ジャニーン・バイチマン(大東文化大学教授)

第1回~第5回選定作品の作者名50音順一覧/JLPPで出版された書籍の一覧

 左から2列目の数字は第何回の選定作品かを示す。JLPPによる翻訳書がまだ出版されていない作品は背景を黄土色にして示す。翻訳書のタイトルをクリックするとオンライン書店の該当ページが開くようにしてある(英独仏訳はamazon、露訳はozon)。

  • 選定図書は、英語・フランス語・ドイツ語・ロシア語のいずれの言語にも翻訳されたことのなかった作品がほとんどである。
  • 一部、いずれかの言語の翻訳があり、JLPPでその他の言語に翻訳された作品もある。たとえば、池澤夏樹『マシアス・ギリの失脚』は翻訳図書に選定された時点ですでにドイツ語訳があり、JLPPでは英訳が出版された。また、宮部みゆき『火車』は選定された時点ですでに英訳とフランス語訳があり、JLPPではドイツ語訳とロシア語訳が出版された。ほかに大岡昇平『俘虜記』、志賀直哉『暗夜行路』、島尾敏雄『死の棘』、松浦理英子『親指Pの修業時代』、丸谷才一『樹影譚』、水上勉『雁(がん)の寺』及び『越前竹人形』などがこの例に当たる。
  • すでに当該言語で翻訳のあった作品の新訳をJLPPで出版した場合もある。夏目漱石の『坊っちゃん』(英訳)がこれに当たる。JLPPで出版された芥川龍之介の英訳短編集(18編収録)はほとんどの作品が初訳。村上春樹が序文を寄せたこの短編集の販売部数は英米合わせて1万8000部を超えた。

作者 タイトル JLPPで出版された書籍 JLPPでの翻訳出版予定
あ行 2 青野聰 母よ 独訳 "Mutter wo bist du" ほかに露訳予定
1 芥川龍之介 (短編集) 英訳 "Rashomon and Seventeen Other Stories"
仏訳 "Une vague inquiétude"
ほかにインドネシア語訳予定
2 安土敏 小説スーパーマーケット 英訳 "Supermarket"
露訳 "Супермаркет"
ほかに仏訳予定
2 阿部和重 シンセミア 仏訳予定
4 李良枝(い・やんじ) 由煕(ユヒ) ほか 独訳予定
3 伊井直行 青猫家族輾転録 英訳 "The Shadow of a Blue Cat"
独訳 "Der Schatten der blauen Katze"
ほかに露訳予定
2 池澤夏樹 マシアス・ギリの失脚 英訳 "The Navidad Incident: The Downfall of Matías Guili"
5 池澤夏樹 花を運ぶ妹 独訳・ポルトガル語訳・トルコ語訳予定
5 いしいしんじ 麦ふみクーツェ 英訳・仏訳・独訳予定
4 石川淳 六道遊行 仏訳予定
1 石原慎太郎 わが人生の時の時(短編集) 英訳 "Undercurrents: Episodes from a Life on the Edge"
露訳 "Соль жизни"
4 五木寛之 大河の一滴 露訳予定
5 五木寛之 風の王国 英訳・仏訳・独訳予定
4 絲山秋子 逃亡くそたわけ
3 井上ひさし 東京セブンローズ 仏訳 "Les 7 Roses de Tokyo" ほかに英訳・独訳・露訳予定
2 井上靖 楼蘭(ろうらん) ほか 露訳 "Лоулань"
1 内田百閒 冥途・旅順入城式(短編集) 英訳 "Realm of the Dead"
仏訳 "La Digue"
独訳 "Aus dem Schattenreich"
3 宇野千代 おはん 独訳 "Ohan: Die Liebe einer Frau" ほかに仏訳予定
3 江國香織 神様のボート 英訳・仏訳・独訳・露訳予定
2 円地文子 女坂(おんなざか) 露訳 "Цитадель"
1 逢坂剛 斜影はるかな国 露訳 "Косые тени далекой земли"
1 大岡昇平 武蔵野夫人 英訳 "A Wife in Musashino"
露訳 "Госпожа Мусасино"
2 大岡昇平 俘虜記(ふりょき) 仏訳 "Journal d'un prisonnier de guerre"
1 岡本綺堂 半七捕物帳(第1巻) 英訳 "The Curious Casebook of Inspector Hanshichi: Detective Stories of Old Edo"
仏訳 "Fantômes et samouraïs : Hanshichi mène l'enquête à Edo"
1 大佛次郎 赤穂浪士 仏訳 "Les 47 Rônins"
露訳 "Ронины из Ако"(全2巻)
か行 2 加賀乙彦 高山右近 独訳 "Kreuz und Schwert" ほかに露訳予定
2 角田光代 対岸の彼女 英訳 "Woman on the Other Shore"
1 梶井基次郎 (短編集) 露訳 "Лимон"
3 金井美恵子 単語集 英訳 "The Word Book"
4 金城一紀 GO 独訳 "GO!"
3 川上弘美 真鶴(まなづる) 英訳 "Manazuru"
仏訳 "Manazuru"
独訳 "Am Meer ist es wärmer"
1 川口松太郎 しぐれ茶屋おりく 英訳 "Mistress Oriku: Stories from a Tokyo Teahouse"
5 菊地秀行 幽剣抄 計5編 英訳・露訳・ポルトガル語訳予定
1 北方謙三 英訳 "The Cage"
2 北原亞以子 恋忘れ草(ぐさ) 英訳 "The Budding Tree: Six Stories of Love in Edo" ほかに仏訳予定
2 倉橋由美子 アマノン国往還記 独訳 "Die Reise nach Amanon"
3 車谷長吉 赤目四十八瀧心中未遂
(あかめしじゅうやたきしんじゅうみすい)
英訳 "The Paradise Bird Tattoo (or, attempted double-suicide)"
独訳 "Versuchter Liebestod"
ほかに仏訳・露訳予定
5 黒井千次 一日 夢の柵 計12編 英訳・仏訳・露訳予定
2 玄侑宗久 中陰の花 仏訳 "Au-delà des terres infinies"
2 玄侑宗久 アブラクサスの祭 独訳 "Das Fest des Abraxas"
3 小池真理子 無伴奏
1 小島信夫 抱擁家族 英訳 "Embracing Family"
仏訳 "Le cercle de famille"
独訳 "Fremde Familie"
露訳 "Семья Мива"
2 後藤明生 挟み撃ち 英訳 "Shot by Both Sides"
3 米谷ふみ子 ファミリー・ビジネス 独訳 "Wasabi zum Frühstück"
さ行 2 早乙女貢 おけい 英訳 "Okei: A Girl From the Provinces"
2 志賀直哉 暗夜行路 仏訳 "Errances dans la nuit"
1 獅子文六 自由学校 英訳 "School of Freedom"
仏訳 "L'École de la liberté"
2 司馬遼太郎 空海の風景 仏訳予定
2 島尾敏雄 死の棘 仏訳 "L'Aiguillon de la mort"
1 島田荘司 占星術殺人事件 英訳 "The Tokyo Zodiac Murders: Detective Mitarai's Casebook"
4 島田雅彦 自由死刑 英訳・仏訳・独訳予定
4 真保裕一 ホワイトアウト 仏訳予定
1 末永直海 百円シンガー極楽天使 英訳 "The Hundred-Yen Singer"
露訳 "Стоиеновая певичка, или Райский ангел"
5 青来有一 爆心 計6編 英訳・独訳・トルコ語訳予定
4 妹尾河童 少年H 露訳予定
1 曽野綾子 天上の青 英訳 "No Reason for Murder"
露訳 "Синева небес"
た行 4 高橋克彦 写楽殺人事件 英訳・仏訳・独訳予定
5 太宰治 お伽草紙 独訳 "Die Teufel des Tsurugi-Bergs"(2012年9月)
4 立松和平 日高 独訳 "Erfrorene Träume" ほかに英訳予定
3 田辺聖子 千(ち)すじの黒髪 英訳予定
5 谷川俊太郎 世間知ラズ 仏訳予定
5 谷川俊太郎 minimal 独訳予定
4 田村俊子 木乃伊の口紅 ほか 露訳予定
2 多和田葉子 容疑者の夜行列車 露訳 "Подозрительные пассажиры твоих ночных поездов"
2 辻原登 ジャスミン 英訳予定
3 津島佑子 笑いオオカミ
2 筒井康隆 ヘル 英訳 "Hell" ほかに仏訳予定
2 筒井康隆 おれの血は他人の血 独訳 "Mein Blut ist das Blut eines anderen"
3 富岡多惠子 波うつ土地 英訳 "Building Waves"
独訳 "Wogen"
ほかに露訳予定
な行 1 永井荷風 腕くらべ 又は 濹東綺譚 英訳 "Rivalry: A Geisha's Tale"(腕くらべ)
露訳 "Соперницы"(腕くらべ)
2 中上健次 枯木灘
2 中島敦 山月記 ほか 英訳 "The Moon over the Mountain"
仏訳 "Histoire du Poète Qui Fut Changé en Tigre"(Le Mal du Loup??)
1 夏目漱石 坊っちゃん 英訳 "Botchan"
インドネシア語訳 "Botchan si Anak Bengal"(2012年7月)
4 夏目漱石 硝子戸の中 独訳 "Hinter der Glastür"
4 西村京太郎 南神威島(みなみかむいとう) ほか 独訳 "Das klatschende Äffchen" ほかに英訳・露訳予定
5 西村寿行 捜神鬼 計4点 英訳・露訳予定
は行 1 長谷川伸 日本捕虜志 露訳 "Пленники Войны"
4 林京子 長い時間をかけた人間の経験 ほか 独訳 "Verstrahltes Leben" ほかに露訳予定
1 林芙美子 浮雲 英訳 "Floating Clouds"
仏訳 "Nuages flottants"
4 坂東眞砂子 曼荼羅道 英訳・仏訳・露訳予定
1 樋口一葉 たけくらべ・にごりえ・十三夜 独訳 "In finsterer Nacht: und andere Erzählungen"
露訳 "Сверстники"
3 日野啓三 夢の島 英訳 "Isle of Dreams" ほかに仏訳・露訳予定
4 広津和郎 広津和郎作品集 独訳予定
3 福永武彦 草の花 独訳 "Des Grases Blumen"
1 藤沢周平 (短編集) 英訳 "The Bamboo Sword: and Other Samurai Tales"
2 古井由吉 白髪(はくはつ)の唄 英訳 "White-haired Melody"
仏訳 "Les cheveux blancs"
ほかに露訳予定
5 古川日出男 ベルカ、吠えないのか? 仏訳 "Alors Belka, tu n'aboies plus?" ほかに英訳・露訳予定
3 辺見庸 赤い橋の下のぬるい水 英訳 "Gush"
3 保坂和志 プレーンソング 英訳 "Plainsong" ほかに露訳予定
4 堀江敏幸 雪沼とその周辺 仏訳 "Le marais des neiges"
ま行 5 舞城王太郎 阿修羅ガール 英訳・仏訳予定
3 増田みず子 シングル・セル 独訳予定
2 又吉栄喜 人骨展示館 仏訳 "Histoire d'un squelette"
5 町田康 パンク侍、斬られて候 英訳予定
3 松浦寿輝 巴(ともえ) 英訳・仏訳予定
2 松浦理英子 親指Pの修業時代 英訳 "The Apprenticeship of Big Toe P"
2 丸谷才一 樹影譚 ほか 独訳 "Baumschatten"
2 三浦哲郎 忍ぶ川 ほか 英訳 "Shame in the Blood"
2 水村美苗 本格小説
2 水上勉 雁(がん)の寺 及び 越前竹人形 英訳 "The Temple of the Wild Geese and The Bamboo Dolls of Echizen"
独訳 "Im Tempel der Wildgänse"(『雁の寺』のみ)
2 宮沢賢治 (詩集、短編集) 英訳 "Strong in the Rain: Selected Poems"
露訳 "Звезда Козодоя"
2 宮部みゆき 火車 独訳 "Feuerwagen"
露訳 "Горящая колесница"
1 宮本輝 錦繍 英訳 "Kinshu: Autumn Brocade"
露訳 "Узорчатая парча"
5 村上龍 半島を出よ 英訳予定
5 目取真俊 魂込め(まぶいぐみ) 計6編 仏訳予定
5 森絵都 カラフル 英訳予定
や行 2 安岡章太郎 ガラスの靴 ほか 英訳 "The Glass Slipper and Other Stories"
1 山田詠美 ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨 英訳 "Bedtime Eyes"
独訳 "Nächte mit Spoon"
露訳 "Час кошки"
1 山田太一 異人たちとの夏 英訳 "Strangers"
露訳 "Лето с чужими"
4 山田風太郎 八犬伝 仏訳予定
3 柳美里(ゆう・みり) ゴールドラッシュ 独訳 "Gold Rush" ほかに露訳予定
1 夢野久作 ドグラ・マグラ 仏訳 "Dogra Magra"
4 横光利一 上海 露訳予定
1 横森理香 ぼぎちん―バブル純愛物語 英訳 "Tokyo Tango"
4 吉田修一 悪人 仏訳 "Le Mauvais" ほかに露訳予定
1 吉行淳之介 夕暮まで 仏訳 "Jusqu'au soir"
露訳 "До заката"
ら行 3 リービ英雄 星条旗の聞こえない部屋 英訳 "A Room Where the Star Spangled Banner Cannot Be Heard"
独訳 "Shinjuku Paradise"(2012年9月)
ほかに仏訳予定
わ行 2 渡辺淳一 花埋(はなうず)み 英訳 "Beyond the Blossoming Fields"
2 講談社文芸文庫編 戦後短篇小説再発見 1 青春の光と影 仏訳 "Anthologie de nouvelles japonaises contemporaines : Tome 1, Jeunesse"
2 講談社文芸文庫編 戦後短篇小説再発見 2 性の根源へ 仏訳 "Anthologie de nouvelles japonaises contemporaines : Tome 2, Le Désir"
4 大岡信編 現代詩の鑑賞101 英訳 "101 Modern Japanese Poems"(2012年9月) ほかに仏訳・露訳予定

 以上で121項目。芥川龍之介の短編集と夏目漱石の『坊っちゃん』は第1回で選出されたあと、新たにインドネシア語への翻訳を実現するため第4回で再度選出されている。この2つを足して、全部で123となる。
 JLPPでは各書籍について、英語の書籍に関しては1000部(事業開始当初は2000部)、その他の言語については500部を定価の65パーセントで買い上げ、各地の大学図書館や公立図書館、文化機関に寄贈している。2011年の寄贈冊数は13990冊。
 販売部数上位3作品は山田太一『異人たちとの夏』の英訳(初版2003年10月)の29144部、川上弘美『真鶴(まなづる)』の独訳(初版2010年8月)の24658部、芥川龍之介短編集の英訳(初版2006年1月)の18315部。すべて、寄贈のための買い上げ分は除いた数値(2012年の行政事業レビュー前に文化庁が作成した資料[PDF]を参照)。

JLPPでの今後の出版予定
  • 石川淳『六道遊行』のフランス語訳"Errances sur les six voies du bouddhisme"は2012年9月発売予定。
  • 立松和平『日高』の英訳"Frozen Dreams"は2012年10月発売予定。
  • 日野啓三『夢の島』のフランス語訳"L'île des rêves"は2012年10月発売予定。
  • 古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』の英訳"Belka, Why Don't You Bark?"は2012年10月発売予定。
  • 増田みず子『シングル・セル』のドイツ語訳"Der Einzeller"は2012年8月発売予定(?)。
  • 阿部和重の『シンセミア』は、加藤典洋「海の向こうで「現代日本文学」が亡びる あるいは、通じないことの力」(『新潮』2012年9月号)によると、英訳も出版予定があるという。

補足情報
  • 芥川龍之介の英訳短編集(2006年)は、夏目漱石や村上春樹の名訳で知られるジェイ・ルービン氏が手掛け、訳文のチェックと推敲の手助けのために文化庁が講談社インターナショナルの元編集者と『ニューヨーカー』誌の文芸編集者をつけ、さらに柴田元幸氏も訳文に丁寧に目を通し、近代日本文学の専門家である武藤康史・植木朝子両氏が助言するというまさに「ドリームチーム」体制で翻訳されたという。翻訳のいきさつについてのジェイ・ルービン氏の述懐を新潮社のサイトで読むことができる(『芥川龍之介短篇集』[新潮社、2007年]所収、ジェイ・ルービン(畔柳和代訳)「芥川龍之介と世界文学」)。その上で村上春樹の序文まで付されたこの英訳短編集は、発売から1年ほどで英米合わせて1万7000部以上を売り上げた。
  • 岡本綺堂の『半七捕物帳』は英訳とフランス語訳がJLPPで出版された。その後、フランスではJLPP外で第2巻も発売された。また、2011年にはイタリアで『半七捕物帳』が刊行されているが、これは英語からの重訳だった。ある作品が英語(などの言語)に翻訳されると、重訳によってさらに多数の言語に広がっていく可能性が生まれるのである。
  • 北方謙三の『檻』は2006年にJLPPで英訳が出たのち、2009年にはイタリア語訳が出ている。これが英語からの重訳かは分からないが、英訳の出版がイタリア語訳の出版の契機になったことは間違いないだろう。JLPPについて報じた読売新聞2008年6月17日付朝刊文化面の記事によれば、「この事業をきっかけに4か国語以外のルーマニア語やアラビア語、スペイン語などの他言語に翻訳された作品もある」という。
  • 宮部みゆきの『火車』はJLPPの選定図書になる以前にすでに英訳フランス語訳が出版されていた。2005年11月にJLPPの(第2回)選定図書になり、2011年にはその成果としてドイツ語訳が出版された。宮部みゆきのドイツ語訳書はこれが最初である。2012年には『火車』のロシア語訳もJLPPで出版されている。
  • 講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見』の収録作は講談社公式サイトで確認できる(第1巻第2巻)。どちらも日本版は11編収録だが、フランス語版はそれぞれ10編収録、8編収録となっている。第1巻で省略されたのは三島由紀夫「雨のなかの噴水」、第2巻で省略されたのは武田泰淳「もの喰う女」、野坂昭如「マッチ売りの少女」、村上龍「OFF」。
  • 『戦後短篇小説再発見』のフランス語訳はJLPPで第1巻と第2巻が出版されたのち、向こうの出版社が自発的に続巻を翻訳出版している。2012年8月現在、第3巻第4巻が出版されている。

  • JLPPでは当初は英語・フランス語・ロシア語への翻訳を事業内容としており、第2回からドイツ語が加わった。また、第4回選定(2008年4月)の際には「第5言語」として夏目漱石『坊っちゃん』と芥川龍之介の短編集のインドネシア語への翻訳にも取り組むことが決まった。当時の新聞報道では、「第5言語は、今後も毎年異なる言語を選んで翻訳していく」(『読売新聞』2008年6月17日付朝刊、23面)とされている。第5回では池澤夏樹『花を運ぶ妹』のポルトガル語、トルコ語への翻訳、菊地秀行『幽剣抄』のポルトガル語への翻訳、青来有一『爆心』のトルコ語への翻訳が決まった。
  • 夏目漱石『坊っちゃん』のJLPPによるインドネシア語訳"Botchan si Anak Bengal"は2012年7月ごろに発売になった。『坊っちゃん』のインドネシア語訳は2009年4月にはAlan Turneyによる英訳版を重訳した"Botchan"が出ている(これが初訳かは分からない)。日本語から直接訳したものはJLPPの2012年版が最初だと思われる。

翻訳図書の選定はなぜ第5回(2009年3月)以降中断しているのか

 翻訳図書は2007年(第3回)から2009年(第5回)まで3年連続で選出されたのち、選出がストップしている。これは、2010年の行政事業レビュー(府省版事業仕分け)で「今後は新規図書の選定の中止等により、予算を縮減すべきである」との所見が示されたためだと思われる。
 JLPPは2012年6月、行政事業レビューの公開プロセスで「廃止」の判定を受けた。JLPPが公開プロセス(評価者を招き、公開で「仕分け」を行う過程)にかけられたのは2012年が初めてだったが、行政事業レビュー自体は2010年から全事業を対象に実施されている。JLPPは2010年の行政事業レビューでは判定こそ「現状維持」とされたものの*1、予算監視・効率化チームは「今後は新規図書の選定の中止等により、予算を縮減すべきである」との所見を示した*2。実際、2010年以降は翻訳図書の新規選定は行われてない。2年前のこの時点で、遠からず事業を「廃止」するというのが既定路線になっていたのかもしれない。2011年の判定は「一部改善」(事業内容の精査によるコスト縮減の要求)だった*3。そして、2012年の公開プロセスではついに「廃止」の判定が出たのである。


参考文献

  • 『朝日新聞』2007年1月13日付別刷り『be on Saturday』、3面「近現代日本小説の翻訳・普及が本格化/「文学発信」に文化庁が本腰/幅広くエンタ作品も」
  • 『毎日新聞』2007年2月2日付夕刊、6面[文化面]「海外に売り出せ!日本文学/「村上春樹人気」などが追い風/国も出版社も発信強化」
  • 『読売新聞』2008年6月17日付朝刊、23面[文化面]「現代日本文学 翻訳・普及事業/「現地の人が読みたい」重視」

更新履歴

  • 2012/08/23 - 「JLPPで出版された書籍の一覧」に、2012年7月~9月刊行の大岡信編『現代詩の鑑賞101』(英訳)、太宰治『お伽草紙』(独訳)、リービ英雄『星条旗の聞こえない部屋』(独訳)、夏目漱石『坊っちゃん』(インドネシア語訳)を追加。


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最終更新:2012年08月23日 21:58