江戸川乱歩の台湾での受容

2011年11月22日作成 (自著75、収録書2)(氷川瓏および武田武彦によるリライト版の翻訳と思われるものも含む)

 2003年に『江戸川乱歩リファレンスブック3 江戸川乱歩著書目録』(監修:平井隆太郎、編集:中相作、発行:名張市立図書館)という書籍が刊行されている。2001年までに刊行された江戸川乱歩の著書の目録であり、翻訳されて海外で出版された書籍まで扱っているが、台湾で出版された書籍は1点も扱われていない。
 このページは、いつの日か行われるであろうその改訂の際の一助となるべく作成した。もっとも、このページの乱歩の著書のデータは基本的に台湾の国家図書館の蔵書データをオンライン検索して得たものであり、私自身は以下の書籍の実物を所持していない。とはいえ、実際に調査を進めていく際の道標ぐらいにはなるのではないかと思っている。

 なお、「江戸川乱歩著書目録」は編者の中相作氏がインターネット上で公開している。 名張人外境 > 江戸川乱歩著書目録
 書籍版刊行後も改訂がなされており、2001年に台湾で出版された江戸川乱歩の短編集1点についてはオンライン版には記載されている。

 台湾の最新の江戸川乱歩の著書はこちら → 台湾のネット書店「博客来」での「江戶川亂步」検索結果
 (タイトルの下に「繁體書」と書いてあるのが台湾の書籍。「簡體書」と書いてあるのは中国の書籍である(言語は同じだが、文字が異なる))

目次

1945年以前

(1)台湾の新聞に乱歩作品?(1930年代?)

 『日本統治期台湾文学集成24 台湾漢文通俗小説集 一』(緑蔭書房、2007年2月)の巻末解説に20世紀前半の台湾の新聞連載小説についての記述があり、そこで乱歩の名前が出てきている。台湾では1898年ごろから日本人による日本語通俗小説が新聞に頻繁に掲載されるようになった、という説明に続く部分である。

黄美娥(こう びが)黄英哲(こう えいてつ)(翻訳 青木沙弥香)(2007)「〈台湾漢文通俗小説集一〉解説」(pp.479-480)
この時期に至ると、東京に住む日本人までもが創作の隊伍に加わってきた。なかでも作品数が比較的多く、創作に熱心だった者として「美禅房主人」が挙げられる。彼が発表した「青蓼」、「続青蓼」、「侠妓児雷也」などの作品は、読者にすこぶる受けがよく、明治三一(一八九八)年から三二(一八九九)年の間、執筆率がきわめて高い日本人通俗小説作家となった。以後、大正、昭和期に入っても、日本人作家による台湾での通俗小説の発表は始終とどまることなく続き、吉川英治、江戸川乱歩、菊池寛……といった有名作家の作品までもがみられるようになるのである。

 つまり、台湾の新聞に乱歩の作品が掲載されていたというのである。乱歩はこのことについて何も書き残していないようなので、無断転載ということになるだろう。この解説ではこの箇所にしか乱歩の名前は出てこないので、これ以上の詳しいことは分からない。

(2)台湾の雑誌に掲載された日本の探偵作家の作品(1930年代)

 この時期、台湾には日本の雑誌が大量に入ってきていたそうなので、雑誌連載の乱歩の通俗小説を台湾の地で享受していた人もそれなりにいただろう。そのほとんどは日本人だっただろうが、たとえば台湾人の林輝焜(りん きこん)が日本語で書いた小説『争へぬ運命』(1933)に、牧逸馬の小説や大衆雑誌『キング』を愛読している台湾人女性が登場していたりもするそうである。
 一方、台湾のオリジナル雑誌には日本の探偵作家の作品はほとんど見られないようである。

中島利郎(2002)「日本統治期台湾探偵小説史稿」(p.377)
 ついでに言うならば、日本から移入され転載された探偵小説は、著作権の関係からか台湾ではほとんど見当たらない。(中略)台湾においては管見の限りでは、唯一甲賀三郎が紹介されているのみで、それも昭和六年【注:1931年】に『台湾警察時報』に連載された「探偵小説の話」や『台湾日日新報』に発表された若干の大衆文芸評論と「探偵小説」ともいえない短編小説が一篇(昭和一一年【注:1936年】一月一日『台湾公論』)紹介されているのみである。

  • 台湾の雑誌に掲載された甲賀三郎の随筆/小説(中島利郎編「台湾探偵小説年表」および中島利郎編「日本統治期台湾通俗文学目録」より)
    • 「探偵小説の話」(『台湾警察時報』24号(前身の『台湾警察協会雑誌』より通号173号)、1931年1月15日)
    • 「探偵小説の話」(『台湾警察時報』25号(通号174号)、1931年2月1日)
    • 「探偵小説の話」(『台湾警察時報』26号(通号175号)、1931年2月15日)
    • 「探偵小説の話」(『台湾警察時報』27号(通号176号)、1931年3月1日)
    • 「除夜の鐘」(台湾公論社『台湾公論』1号、1936年1月1日) - 小説

 なお、これらが甲賀三郎が台湾の雑誌のために執筆し寄稿したものなのか、それとも既発表のものを勝手に転載されたものなのかは分からない。(おそらくは前者だろうと思うが)

(3)作中で乱歩の名前・作品に言及している短編探偵小説(1935年)

 20世紀前半の台湾では、数は少ないながらも日本人による日本語での探偵小説創作や台湾人による中国語での探偵小説創作が行われていた。1940年代には台湾人による日本語での探偵小説創作も行われている。しかし、台湾で日本語で書かれた探偵小説は日本の推理小説史の中でほとんど言及されることがない。
 台湾に住み、台湾を舞台にした探偵小説を日本語で書き台湾で発表していた日本人作家の一人に、鉄道従事員の福田昌夫がいる。『日本統治期台湾文学集成21 「台湾鉄道」作品集 一』(緑蔭書房、2007年2月)には彼の探偵小説が4編復刻されているが、その内の1編、「魔の椅子事件」(『台湾鉄道』1935年8月号~12月号連載)に以下のような一節がある。語り手の「私」が古井戸に落ちてしまったシーンである。

江戸川乱歩の「暗に蠢く」という小説にも光りと音とを奪われて暗の地下室に監禁される場面があるが、それは凡て作者の想像の所産であると考えていたのだが、光りを失った今の私にとっては、偽ることの出来ぬそれは切実な経験であることが判った。

 「魔の椅子事件」は、台湾のある旧家に先祖代々伝わる古い椅子があり、一族が三代にわたってその同じ椅子の上で変死しているという謎を、素人探偵の真田九郎と語り手の私が解くという作品。さまざまなサスペンスが盛り込まれていて飽きさせない佳作である。当時の台湾では東京の雑誌も大量に入ってきて読まれていたそうなので、この素人作家もその中で乱歩をはじめとする探偵作家の作品を読み、自ら探偵小説の筆を執ってみる気になったのだろう。

(4)江戸川乱歩をもじった筆名の作家、臍皮乱舞(へそがわ らんぶ?)登場(1934年)

 前述の福田昌夫が作品を発表していた台湾の鉄道従事員向け雑誌『台湾鉄道』には、奇妙なペンネームの4人によるリレー探偵小説が掲載されたことがある。

  • 臍皮乱舞・大舌宇奈児・無理下大損・正気不女給 リレー小説「連作怪奇探偵小説 木乃伊の口紅」(『台湾鉄道』1934年1月号~4月号連載)
    • 現在は『日本統治期台湾文学集成21 「台湾鉄道」作品集 一』(緑蔭書房、2007年2月)で読める。

 振り仮名は振られていないので「臍皮乱舞」というペンネームを見てもピンと来なかったが、「大舌宇奈児」(おおした うなる?)が大下宇陀児のもじりであることは明らかで、そうすると「無理下大損」(むりした おおぞん?)は森下雨村、「正気不女給」(まさき ふじょきゅう?)は正木不如丘のもじり、そして「臍皮乱舞」(へそがわ らんぶ?)は江戸川乱歩のもじりということになるだろう。
 この4人は正体は不明で、これ以外に同誌にこのペンネームで発表された作品はない。

1945年~1976年 (自著9)

(1)日本の探偵小説の雑誌掲載・新聞掲載

 終戦後すぐの台湾の読書環境については島崎博氏の証言がある。

インタビュー「「幻影城」編集長 島崎博さんに聞く」(『幻影城の時代 完全版』pp.311-312)
ぼくが小学校六年のときに第二次大戦が終り、蒋介石政権が台湾を統治することになり、何もかも一変したわけです。当時、漢文で書かれた本は少なく、あまり読めなかったので、戦前の日本の文学書を手当たり次第に読みました。江戸川乱歩、南洋一郎、山中峯太郎、佐藤紅緑、吉屋信子等の少年、少女小説から、武者小路実篤や夏目漱石などを読んでいました。これらはもっぱら学友の家から借りました。そして世の中が少し落ち着くと、貸本屋が日本から雑誌を密輸入するようになり、『キング』、『講談倶楽部』、『面白倶楽部』などの大衆雑誌を借りて読むようになり、台湾にいた十年間は貸本屋でほとんど雑誌ばかり借りていました。『宝石』も『探偵実話』も『探偵倶楽部』もリアルタイムに読んでいました。

 終戦後、台湾には上海や香港から探偵雑誌が輸入され、主にアメリカのパルプマガジンから作品を翻訳していた『藍皮書(らんひしょ)』(1946年7月上海で創刊、1949年5月に休刊、1950年に香港で復刊)などが人気を博した。1949年、大陸で中華人民共和国が成立し国民党政府が台湾に移ってくると、海外からの出版物の輸入が難しくなり、台湾独自の探偵雑誌がいくつか創刊された。1950年代半ばごろに刊行されていた台湾の探偵雑誌には『偵探雑誌』(月3回刊)、『偵探小説専号』(月刊)、『偵探小説選』(月刊)などがあり、これらには日本の探偵小説も訳載されていた。(島崎博「台湾の探偵小説」『推理界』1968年7月号)

 1960年代半ば、映画の007シリーズの人気により台湾で推理小説の出版が盛んになる。日本の推理作家の長編も新聞の文芸欄にしばしば翻訳連載されるようになった。島崎博氏によれば、1968年当時、台湾には『偵探』(『偵探雑誌』から改題)、『偵探之王』(『偵探小説専号』の後進)、『偵探世界』などの探偵雑誌があり、日本の作品も訳載されていた。また、文芸誌『文壇』(1952年創刊)は、当初は探偵小説になど見向きもしなかったがこのころには宗旨替えをして手当たり次第に日本の新刊雑誌から推理小説を翻訳していたという。(島崎博「台湾の探偵小説」『推理界』1968年7月号)

 なお、乱歩は前述の香港版『藍皮書』を1956年から1958年ごろにかけて定期購読し、日本人作家の作品が掲載されるとそれを『日本探偵作家クラブ会報』で逐一報告している。乱歩の報告によれば、当時の『藍皮書』には乱歩の「目羅博士の不思議な犯罪」(1957年6月21日号)が訳載されたほか、小酒井不木、横溝正史、大下宇陀児、角田喜久雄、城昌幸、水谷準、木々高太郎、海野十三、久生十蘭、渡辺温、高木彬光、島田一男、香山滋、鮎川哲也、楠田匡介、松本清張らの作品が訳載されていたという。

(2)乱歩作品の最初の台湾版単行本

 島崎博氏が来日するのは1955年2月のことだが、その後、1956年には台湾で最初の乱歩作品の単行本が出版されている。
 下の表は、『日本推理作家協会会報』の1967年3月号(No.231)に島崎博氏が寄稿している戦後台湾で翻訳刊行された日本の推理小説の単行本リストから江戸川乱歩作品を抜き出して整理したものである。なお、出版年とページ数は同リストには書かれていなかったので、台湾の国家図書館のデータを見て付け加えた(翻訳者名にも誤植があるので直した)。

タイトル 訳者 出版社 出版年 ページ数
白髮鬼 洪明 現代文藝 1956
地獄的傀儡 永思 現代文藝 1956
岩屋島 餘蔭(余蔭) 皇冠 1961 176ページ
魔鬼的標誌(悪魔のマーク) 方圓客(方円客) 明志 1962 229ページ
蜘蛛人 耕實(耕実) 明志 1963 118ページ
(これ以外に高木彬光が2冊、角田喜久雄・島田一男・仁木悦子・陳舜臣が各1冊、それから横溝正史の香港で出版された本が1冊挙げられている)

 島崎氏は「原作名をあてて下さい」と書いており、それぞれがどの作品の中国語訳であるのかは明かしていない。タイトルから推定するに、順に『白髪鬼』、『地獄の道化師』、『孤島の鬼』、『悪魔の紋章』、『蜘蛛男』だと思われる。

 また、以下の4冊は島崎氏作成のリストに載っていないが、台湾の国家図書館のサイトで検索していて見つかったものである。

タイトル 訳者 出版社 出版年 ページ数
藍鬍子(青ひげ) 耕實(耕実) 明志 1963 115ページ
魔鬼的美術館 耕實(耕実) 明志 1963 86ページ
人豹 耕實(耕実) 明志 1963 125ページ
美女與野獸(美女と野獣) 耕實(耕実) 明志 1963 126ページ

 さて、これらの作品が乱歩のどの作品の中国語訳なのか、タイトルから推定するのは難しい。――と思っていたところ、中相作氏より、分冊にしてそれぞれに異なるタイトルをつけたのではないかという意見を戴いた。その意見を受けて改めて台湾の国家図書館のデータでページ数を見てみたところ(上の表でわざわざページ数が書いてあるのはそういう理由である)、確かにそれらしく思える。単なる推定だが、『蜘蛛人』+『藍鬍子(青ひげ)』+『魔鬼的美術館』で『蜘蛛男』、『人豹』+『美女與野獸(美女と野獣)』で『人間豹』、という対応関係ではないだろうか。

1977年~21世紀

 1977年で区切ったのは、島崎氏がインタビュー等で、松本清張『ゼロの焦点』が翻訳刊行された1977年が台湾の推理小説元年だとおっしゃっているからである。この後、台湾では松本清張作品の翻訳から始まって、次第に日本の推理小説の翻訳が増えていく。しかし乱歩に関しては、少年向け作品はそれなりに翻訳されていたようだが一般向け作品の翻訳はほとんど行われなかったようだ。

(1)少年向けの翻訳 (自著52)

 台湾で少年向けに出版されたもの。

牧童(1978年・1979年)

  • 1978年:『黃金怪面客』朱廣興訳、牧童(台北市)、牧童少年文庫23書影
  • 1979年:『恐怖魔王』林玲惠訳、牧童(台北市)、牧童少年文庫27

 後者のタイトルから思い出されるのは、ポプラ社から刊行されていた『恐怖の魔人王』(=『恐怖王』の氷川瓏による少年向けリライト版)である。『恐怖魔王』が仮に『恐怖の魔人王』の翻訳だとすれば、『黃金怪面客』はやはり、ポプラ社から刊行されていた武田武彦による少年向けリライト版『黄金仮面』の翻訳だろう。
 ちなみに、牧童少年文庫24は眉村卓『神秘的轉學生』(『なぞの転校生』か?)。牧童少年文庫12に趙啟『少年偵探』というのがあるが、乱歩作品とは関係ないだろうか。

百傑(1979年)

  • 1979年:『少年偵探隊』徐漢斌訳、百傑(台北市)、百傑少年叢書

文経(1987年、全4巻)

タイトル 訳者 出版社 シリーズ名 出版年
01 怪人二十面相 梁澤華 台北市 : 文經出版 文經推理文庫 1 1987
02 透明怪人 梁澤華 台北市 : 文經出版 文經推理文庫 2 1987
03 地底魔王 梁澤華 台北市 : 文經出版 文經推理文庫 3 1987
04 來自地獄的人 梁澤華 台北市 : 文經出版 文經推理文庫 4 1987

 『透明怪人』以外の3冊の書影は中国のこちらの方のブログで見られる(音楽が流れるので注意)。
 『來自地獄的人(地獄から来た人)』は対応する作品が分からなかったが、タイトルで検索してみるとブログであらすじを書いている人がいた。どうやら『吸血鬼』または『地獄の仮面』(=『吸血鬼』の氷川瓏による少年向けリライト版)の翻訳のようである。タイトルから判断すると、『地獄の仮面』の翻訳である可能性が高いだろう。
 なお、1990年に中国の雲南少年児童出版社から『来自地狱的人』という同一タイトルの乱歩作品が刊行されている。もしかするとこの台湾版の訳文を流用したものかもしれない。

東方(1991年、全5巻)

タイトル 編・絵 出版社 シリーズ名 出版年
01 千面人 (書影 賴惠鳳主編;古秀慧繪圖 臺北市 : 東方 少年偵探 1 1991
02 少年偵探隊 賴惠鳳主編;古秀慧繪圖 臺北市 : 東方 少年偵探 2 1991
03 妖怪博士 賴惠鳳主編;古秀慧繪圖 臺北市 : 東方 少年偵探 3 1991
04 青銅怪人 賴惠鳳主編;古秀慧繪圖 臺北市 : 東方 少年偵探 4 1991
05 大金塊 賴惠鳳主編;古秀慧繪圖 臺北市 : 東方 少年偵探 5 1991

 このシリーズでは(タイトルで判断する限り)二十面相は二十でも四十でもなく「千」の顔を持つようである。なお二十面相を50倍にパワーアップさせた例は中国にもある。1990年に中国・雲南少年児童出版社から江戸川乱歩『千面怪盗』(書影)が刊行されている。

長鴻(1992年、全10巻)

 表紙イラストはポプラ社全46巻版のものを使用している。ラインナップと順序はポプラ社全46巻版の1巻~12巻に一致するが、6巻の『透明怪人』と8巻の『地底の魔術王』が飛ばされている。
タイトル 訳者 出版社 シリーズ名 出版年
01 怪人二十面相 劉保財 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 1 1992
02 妖怪博士 李英茂 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 2 1992
03 少年偵探團 魏聰丞 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 3 1992
04 青銅魔人 陳玫玲 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 4 1992
05 大金塊 曾澄洋 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 5 1992
06 怪奇四十面相 洪銓 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 6 1992
07 電人M 丁明根 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 7 1992
08 宇宙怪人 施全安 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 8 1992
09 奇面城的祕密 (書影 藍祥雲 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 9 1992
10 黃金豹 陳信宏 臺南市 : 長鴻 少年偵探故事 10 1992

 ポプラ社全46巻版に慣れ親しんだ読者の方々は『奇面城的祕密』の書影を見ると思わず「どっちやねん!」と突っ込みを入れたくなるだろう。この巻のみ、タイトルは『奇面城的祕密』(奇面城の秘密)なのに表紙イラストは『地底の魔術王』のものという奇妙なことになっている。

晨曦(しんぎ)(2001年、全4巻?)

 ポプラ社全26巻版のカバー絵を使用しているが、4巻までしか出ていないようだ。なんらかの理由で次の品冠文化出版社に版元が変わったのだろうか。
タイトル 訳者 出版社 シリーズ名 出版年
01 怪盜二十面相 ? 台北縣汐止市 : 晨曦 少年偵探 1 2001
02 少年偵探團 ? 台北縣汐止市 : 晨曦 少年偵探 2 2001
03 妖怪博士 ? 台北縣汐止市 : 晨曦 少年偵探 3 2001
04 大金塊 ? 台北縣汐止市 : 晨曦 少年偵探 4 2001

品冠(2001年?~2003年、全26巻)

 表紙イラストはポプラ社全26巻版のものを使用している。ラインナップと順序もポプラ社全26巻版と一致する。翻訳はすべて施聖茹。品冠文化出版社(台北市)。《少年偵探》シリーズ。
 『怪盗二十面相』と『少年偵探團』は台湾の図書館のデータでは初版を2001年とするものと2002年とするものとがあり、『妖怪博士』は初版は2001年となっている。3冊とも出版社の公式サイトのデータ(リンク先)では2002年1月初版発行ということになっている。
01 怪盜二十面相 2001? 14 魔法博士 2002
02 少年偵探團 2001? 15 馬戲怪人 2002
03 妖怪博士 2001? 16 魔人銅鑼 2002
04 大金塊 2002 17 魔法人偶 2002
05 青銅魔人 2002 18 奇面城的秘密 2003
06 地底魔術王 2002 19 夜光人 2003
07 透明怪人 2002 20 塔上的魔術師 2003
08 怪人四十面相 2002 21 鐵人Q 2003
09 宇宙怪人 2002 22 假面恐怖王 2003
10 恐佈的鐵塔王國 2002 23 電人M 2003
11 灰色巨人 2002 24 二十面相的詛咒 2003
12 海底魔術師 2002 25 飛天二十面相 2003
13 黃金豹 2002 26 黃金怪獸 2003

(2)一般向け作品の翻訳 (自著14、収録書2)

《江戸川乱歩作品集》以前

 中国では特に1990年代末から乱歩作品が大量に出版されているが、台湾では2010年に刊行が開始された《江戸川乱歩作品集》以前にはあまり翻訳がなされていない。

  • 1981年:中国語タイトル:「人間椅子」【アンソロジー収録】
    • 『日本推理小說傑作精選 3』エラリー・クイーン(艾勒里. 昆恩)編、朱佩蘭訳、林白出版社《推理小説系列8》、1981年
    • 1980年代初頭から1990年代半ばまでに20冊ほど刊行された林白出版社『日本推理小說傑作精選』のそれぞれの巻の収録作については、台湾のミステリ評論家・研究家でミステリ作家でもある呂仁(りょじん/リューレン)氏が「2011年2月14日のブログ記事」でまとめている。

  • 1986年:中国語タイトル:「D坡的殺人事件」、「心理測驗」【アンソロジー収録】
    • 『紅顏薄命』葉石濤訳、林白出版社《推理小説系列21》、1986年
    • この本の収録作については台湾の方が「こちらのブログ記事」で紹介している。


  • 『推理雑誌』掲載(呂仁「江戶川亂步中譯作品一覽表」(2001)参照)
    • 46号(1988年8月号) - 「鏡中地獄」
    • 67号(1990年5月号) - 「一張票根」
    • 122号(1994年12月号) - 「兇器」、「疑惑」、「失竊」、「斷崖」、「不可思議的犯罪」、および黄鈞浩による評論「迷離夢境中的幻影城主 —江戶川亂步」
      • 乱歩の生誕100周年記念号だったのだろうか?
    • 166号(1998年8月号) - 「紅色房間」

  • 2001年:『江戶川亂步傑作選』艾坡訳、華成圖書出版公司(台北市)、經典100系列 【『江戸川乱歩著書目録』(オンライン版)に記載あり】
    • 収録作は新潮文庫の『江戸川乱歩傑作集』と同じ。《經典100系列》ではほかに三島由紀夫『仮面の告白』、川端康成『雪国』、カフカ『変身』などが出ている(ちなみにこの4冊は2000年版・2001年版の「新潮文庫の100冊」のラインナップに入っている)。

島崎博監修《江戸川乱歩作品集》(2010年~、全13巻予定、独歩文化)

 島崎博氏が監修する《江戸川乱歩作品集》(江戶川亂步作品集)。


タイトル 訳者 出版日 発売順 収録作
01 兩分銅幣 劉子倩 2010/01/26 01 短編16編。1923年4月~1925年7月の作品及びデビュー前の習作。
〈兩分銅幣〉、〈一張收據〉、〈致命的錯誤〉、〈二廢人〉、〈雙生兒〉、〈紅色房間〉、〈日記本〉、〈算盤傳情的故事〉、
〈盜難〉、〈白日夢〉、〈戒指〉、〈夢遊者之死〉、〈百面演員〉、〈一人兩角〉、〈疑惑〉、〈火繩槍〉
02 D坂殺人事件 林哲逸 2010/06/06 04 短編8編。明智小五郎登場作品。
〈D坂殺人事件〉、〈心理測驗〉、〈黑手組〉、〈幽靈〉、〈天花板上的散步者〉、〈何者〉、〈凶器〉、〈月亮與手套〉
03 人間椅子 王華懋 2010/11/16 08 短編15編。1925年9月~1931年4月の作品。
〈人間椅子〉、〈接吻〉、〈跳舞的一寸法師〉、〈毒草〉、〈覆面的舞者〉、〈飛灰四起〉、〈火星運河〉、〈花押字〉、
〈阿勢登場〉、〈非人之戀〉、〈鏡地獄〉、〈旋轉木馬〉、〈芋蟲〉、〈帶著貼畫旅行的人〉、〈目羅博士不可思議的犯罪〉
04 陰獸 林哲逸 2010/02/04 02 中編4編。1928~1935年の作品。
〈陰獸〉、〈蟲〉、〈鬼〉、〈石榴〉
05 帕諾拉馬島綺譚 王華懋 2010/09/02 06 〈湖畔亭事件〉併収
06 孤島之鬼 王華懋 2010/05/28 03 表題作のみ
07 蜘蛛男 劉子倩 2010/11/16 07 表題作のみ
08 魔術師 王華懋 2011/04/12 10 表題作のみ
09 黑蜥蜴 王華懋 2011/11/10 11 〈地獄風景〉併収
10 詐欺師與空氣男 王華懋 2011/04/07 09 1950年~1960年に発表した5短編と1長編。
〈斷崖〉、〈防空壕〉、〈堀越搜查一課課長鈞啟〉、〈對妻子失戀的男人〉、〈手指〉、〈詐欺師與空氣男〉
11 怪人二十面相 劉子倩 2010/09/02 05 表題作のみ
12 少年偵探團 劉子倩 2011/11/15 12 表題作のみ
13 幻影城主 エッセイ16編、評論11編、研究12編

 表紙のタイトルは『分銅幣』、『陰』、『詐欺師空氣男』、『少年偵探』など、日本の漢字が使われている(「氣」は何故か繁体字のまま)。

(3)関連書

漫画

  • 「お勢登場」の漫画版が収録されている『池上遼一 近代日本文学名作選』(小学館、1997年)の台湾版『池上遼一 近代日本文學名作選』(沈美雪訳、時報文化(台北市)、1998年)が出ている。
  • 山田貴敏『少年探偵団』(全3巻)の翻訳が出ている。日本版の第3巻(1999年)と台湾版の第3巻(2003年)。

伝記?

 どういった書籍なのかよく分からない。写真はこちらで見られる。
  • 世界名人傳記全書、明山書局(嘉義市)
    • 第一輯、世界五大聖人(1987年、1993年再版、2000年第四版)
      • 1、 孔子
      • 2、 蘇格拉底(ソクラテス)
      • 3、 釋迦牟尼(釈迦)
      • 4、 耶穌(イエス・キリスト)
      • 5、 穆罕默德(ムハンマド(マホメット))
    • 第二輯、世界五大推理小說家 (林佛兒主編、1995年)
      • 1、 俞樾 : 七俠五義 (俞樾(ゆえつ) : 七侠五義)
      • 2、 愛倫.坡 : 金甲蟲 (アラン・ポー : 黄金虫)
      • 3、 柯南.道爾 : 福爾摩斯探案 (コナン・ドイル : ホームズの事件簿)
      • 4、 盧布朗 : 怪盜亞森.羅蘋 (ルブラン : 怪盗アルセーヌ・ルパン)
      • 5、 江戶川亂步 : 透明怪人 (江戸川乱歩 : 透明怪人)

乱歩による台湾ミステリ関連文献

 江戸川乱歩が台湾の探偵小説について言及したエッセイ等は見当たらない。(前述のように、香港の探偵雑誌には言及している)

参考にしたデータについて

台湾国家図書館の蔵書データ


 台湾国家図書館の蔵書データおよび、同サイト内で提供されている台湾内の全図書館を対象とするオンライン蔵書検索によって得たデータを使用した。

呂仁「江戶川亂步中譯作品一覽表」(2001年)


 台湾のミステリ評論家・研究家でミステリ作家でもある呂仁(りょじん/リューレン)氏が作成した乱歩作品の台湾での中国語訳作品目録。台湾のミステリ作家、既晴(きせい/ジーチン)氏のサイト「恐怖的人狼城」に2001年秋に掲載された。現在ではこのサイトはなくなっているが、インターネット・アーカイブで見ることができる。
 乱歩作品の雑誌掲載およびアンソロジー収録についてはこの目録を参照した。


最終更新:2011年11月22日 12:19